私は即座に体の跡をスマホで撮って送った。
付けたメッセージ「お兄様の傑作よ」
小雪の目が鋭く光り、勢いよくスマホを投げ捨てようとした。
昨夜、兄が用事があると言って急いで出て行ったのは、真希と密会するためだったんだ!!!!!
真希は死ね、拓海も罰を受けるべきだ!
ドアを開けて拓海が入ってくる。
小雪は咄嗟に手を引っ込め、目つきは再び澄んだものに戻った。
拓海が彼女をじっと見る。さっき、小雪の表情が歪んで見えたような……
「お兄様、どうかされました?」
見直すと、小雪の瞳は澄み、蒼白い頬の可憐で純粋な妹のまま。さっきは見間違いだったのだろう。
「退院したいって言ってたから、手続き済ませたよ」
小雪は拓海の様子が普段と変わらないのを見て、探るように言った「兄、今回は……一緒に帰らないわ」
拓海は少し驚いた「どうして?」
江藤小雪は唇を噛んだ「お義姉様が気を悪くされるから」
何度か前のように、兄が引き留めてくれると思っていた。だが今回は、拓海が「わかった」と答えた。
「南山に別荘があるんだ。君の好みで内装してある。まずはあそこに住んでくれないか。あの女は……気性が荒いから、俺から言っておく」
小雪は静かに、拓海が自分の荷物をまとめるのを見つめていた。
シーツを握りしめる手に、少しずつ力が込められていく。
拓海……ついに真希に心を動かしたのね。あの女と一緒になるなんて、私が許さない。
少し休んだ後、拓海が買わせた服に着替え、出かけようとした。
ちょうど戻ってきた拓海と鉢合わせた。
彼は大小さまざまな食材の包みを手に提げている。
「レタスとオクラ、それに鯉を買った。手料理してあげる。」
どれも私の好物ではない。
たぶん、これらは全部江藤小雪の好きなものなんだろう。
「お気遣いなく」私は外へ向かう。
彼は遮った「出かけるのか?」
「ええ」
拓海は荷物を置いた。
「話し合うべきだと思う」
「私たちに話し合うことなんて何もない」
彼をかわして外へ出ようとすると、彼は私の手を掴んだ。
「今までは……態度が悪かった。反省している。これからは、しっかり暮そう。小雪にこれ以上迷惑をかけないでくれ」
結局は江藤小雪を守るためだった。
「拓海、はっきり言わせてほしいの?」あの女を生かしておくなら、全員まとめて道連れよ!江藤小雪のことが好きだって、知らないと思っているの?彼女の写真を見ながらオナニーしてるのも、全部お見通しよ!」
拓海の平静な表情がひび割れた。
「お前……」
「そうよ、全部知ってるの。警告したでしょう?私にかかわらないでって。それなのにあなたたちは何をした?『しっかり生きていこう』の一言で、あなたたちが私に与えた傷や屈辱を水に流せと?寝言は寝て言って!」
彼の手を振りほどき、彼の険しい表情など全く意に介さず。
「この件、これで終わりにはしないわ。江藤小雪の評判を台無しにしたくなければ、私に近づかないことよ」
江藤小雪が拓海との関係を明かそうとしないのは、逆に私のチャンス。
人を刺激するなんて、私だってお手のもの。
私が狂って江藤小雪を壊すのを恐れているなら、もうこれ以上絡んでこないはずだ。
ドアを開け、最後にもう一言付け加えた。
「昨夜のことは、犬に噛まれたと思ってやるわ」
ドアの内側で、拓海は深いため息をついた。眉間を揉みながら頭を抱える。最大の秘密がばれたのだ。
今回は真希を簡単にはなだめられそうにない。彼女がここまで怒っているということは……小雪をまた傷つけるかもしれない。
配下にメッセージを送り、真希を監視して過激な行動を起こさせないよう命じた。
あと二日でここを離れられると考えると、真希は気分が高揚し、食欲も湧いてきた。
道端で串焼きを食べながら座る。
ちょうど楽しんでいるときだった。
数人のチンピラが向かいに座り、先頭は金髪の男だ。
「ねえちゃん、一人?」
無視する。
「俺たちと遊ぼうぜ」先頭のチンピラが突然、私の体を触った。
私は手にした串焼きをいきなり彼の顔に投げつけた「失せろ!」
チンピラたちが指さして喚く「このクソ女、覚えてろよ!」
こうしたチンピラは最も厄介だ。彼らが去るとすぐに、私は会計を済ませて立ち去った。
ホテルに戻り、シャワーを浴びてゆっくり休もうとした。
突然、ドアが蹴り破られた。
私は驚いてベッドから飛び起きた。
「誰だ!?」
「俺だ」
拓海が冷たい風を纏い、ボディーガードに護衛されて室内に現れた。
彼の陰鬱な眼差しは、私の背筋を凍らせた。
「何の用よ?」
「連行しろ」
「ちょっと!」
ボディーガードに説明も聞かず車に引きずり込まれた。
私は激怒しそうだった。
「夜中に突然私を拉致するなんて、何をする気!?」
拓海の全身に重い低気圧がまとわりついている。
「真希……俺はお前とちゃんとやっていく覚悟を決めたのに。なぜ小雪を傷つけることをやめない!」
江藤小雪にまた何かあったのか?
「拓海、もしかして江藤小雪の髪の毛一本でも抜けたら、全部私のせいってこと?」
「まだ言い訳する気か!」
パン!
写真が私の顔に叩きつけられた。
そこには私が数人のチンピラと同席している様子、中にはチンピラに顔を触られている写真もあった。
「私を盗撮したの?」
拓海はもはや清らかな仏の子から、是非も弁えない悪魔へと変わった。
彼の冷たい視線がゆっくりと私の顔をなぞる。
「なんて美しい顔……そして醜い心臓」
彼は私の髪を掴み、無理やり顔を上げさせた。
記憶の中の真希は、気は強いが悪い娘ではなく、むしろ時々間抜けで可愛らしいところがあった。
だからこそ結婚相手に彼女を選んだのだ。
だが今の彼女は何をしている?
小雪に嫉妬し、繰り返し陥れようとしている。罰を与えても反省せず、むしろエスカレートする一方だ!
「お前を尾行させていなかったら、お前がそんなに邪悪だとは知らなかった……小雪をレイプさせるなんて!」
江藤小雪がレイプされた?
「違う!私の仕業じゃない!彼女を恨んではいるけど、女の子の名誉を傷つけるような真似はしないわ」
「否認か?」
拓海は写真のチンピラを指差した「これがお前がチンピラを使って小雪に暴行を加えた証拠だ!」
「たかが写真数枚で私を有罪にするつもり?納得できないわ。そのチンピラたちは?彼らを見つければ私の冤罪が証明できる!」
「フッ……奴らは自供したぞ。お前が黒幕だと!」
私はあまりに甘く考えていた。
誰かが故意に冤罪を着せようとするなら、何もしなくても罪人にされてしまうのだ。
このチンピラと遭遇した瞬間から、私を陥れる罠はすでに始まっていた。
江藤小雪……お前は本当に恐ろしい。
私を陥れるためなら、自分自身にそこまで酷い仕打ちをできるとはな。
「代償は払ってもらう」
不吉な予感がした。
江藤小雪の今回の件は重大すぎる。もし彼らが私の仕業と決めつけたら、私に待っているのは何だろう?
身震いするような寒気が走った……
「行かないわ!降ろして!」
ドアはロックされ、開かない。背後には拓海の陰鬱な眼差しがある。
しばらくすると、車は廃墟となった荒れビルの前で停まった。
「降りろ!」拓海に引きずり降ろされ、無理やり七階へ連れて行かれる。
そこに座る白い影が一目でわかった。
あまりにも見慣れた、江藤小雪だ。
「小雪、真希を連れてきたよ」
小雪がゆっくりと振り返る。彼女の顔には暴行されたような青あざがあり、まるで壊れかけの陶器の人形のようだった。
怨みを含んだ一つ一つの音節「お兄様」
「いい子だ、主犯を連れてきたから。まず降りておいで?」
拓海は慎重に声をかける。
彼の手は震えていた。最愛の人を失うかもしれない恐怖が、細胞の一つ一つを緊張させている。
「悔しい……お兄様。もう汚れてしまった。憎い!」江藤小雪が絶叫する。
「小雪、お兄様にどうしてほしい?彼女を殴る?罵る?何でも言ってごらん。お兄様は何でもするから。だから降りてきてくれ」