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第39話

あの時の私は、自信過剰で、頑固で、どこか聖女ぶっていた。

小雪と話し合い、「もし出て行きたくないなら、私が残れるように力を貸す」とまで言ったのだ。

結局のところ、私は拓海のことが好きで、自分を見失っていたのかもしれない――


「もし彼女が江藤家の妻になりたいと言うのなら、その座を譲ってもいいと思っていた。」


拓海は真希を驚きの目で見つめ、まるで何かに衝撃を受けたかのようだった。


「どうして知っているんだ?本当は……」


本当は既に情報を封じていたはずだったが、黒澤家の力を甘く見ていた。


「結局のところ、今回の元凶は小雪よ。人の恋愛に首を突っ込んで、佳穂を傷つけた。拓海、あなたは不思議に思わないの?小雪がいるところはいつも揉め事が起きる。なぜ、いつも傷つくのは彼女で、彼女だけが被害者で、周りはみんな加害者なの?まるで世界で彼女だけが善人みたいに。そんなこと、あると思う?」


真希は胸の内を一気に吐き出した。

「本当はあなたも全部分かっているんじゃない?ただ、彼女を特別扱いして甘やかしているだけ。」


拓海は眉をひそめ、佳穂が言っていたことや、小雪の挑発的な言葉、ふとした瞬間に見せる、今まで知らなかった彼女のもう一つの顔を思い出していた。


本当に、一度ちゃんと調べるべきかもしれない――


「お兄ちゃん……」

小雪の声はか細い。


拓海と真希の言い争いは、全て聞こえていた。

以前なら、拓海が自分だけを見てくれていた時なら、こんなことは気にも留めなかっただろう。

でも今、拓海の心には別の誰かがいる。だからこそ、もっと慎重に隠さなければならない――


真希は鼻で笑い、病室に入ってきた。

「小雪、たった半年で我慢できずに帰国したけど、自分の立場が分かってる?聞いた話だと、その障害を持つ家長、まだ結婚してないんだとか……」


小雪は驚愕の表情で真希を見た。何を言っているの?


ちょうどその時、拓海が入ってきた。

真希は振り返り、


「このことは、今は黙っている。でももし訴訟を取り下げてくれるなら、私も協力する。拒否するなら、お前の父がどう出るか分かってるでしょ。」

そう言うと、真希は二人に背を向け、警察署へ向かった。


彼女自身、その言葉が小雪にどれほどの衝撃を与えたか、知る由もなかった。


「お兄ちゃん、真希の言ってること、全部でたらめよね?私、あの障害者もう死んだはずでしょ?その家もお兄ちゃんが買収したんだよね?真希、ちょっとおかしいんじゃない?」


小雪は拓海の返事を待ち、静けさが病室を包む。


「真希は、薬物の影響で脳に障害が出て、記憶が混乱しているんだ。今の彼女の記憶は、結婚して半年ちょっとの頃で止まっている。」


拓海の視線が何気なく小雪に向けられると、彼女は目を泳がせていた。


「今、何を考えている?」


「何でもないよ。お姉さん、かわいそうだなって思ってただけ。」

……そうか。


「この件、誰にも言うな。分かったな?」


「うん。」

小雪は素直にうなずいた。


真希は病院を出ると、そのまま警察署へ向かい、弁護士も同行していた。

拓海の側の弁護士はすでに到着していた。

江藤財閥の弁護士は、どれも一流ばかりだ。

さらに南家の弁護士までいた。


真希が驚いたのは、南家の弁護士も小雪のために動いていたことだった。

要求は、佳穂への厳罰だった。


佳穂はこの結果を予想していたのか、皮肉な笑みを浮かべていた。


最終的な判断を下したのは、やはり拓海側の弁護士だった。


佳穂は半月間の拘留が決まった。


南家の弁護士は、南家当主の意向を佳穂に伝えた。


「南家の全ての職務を辞めてもらう。今後、南家には君という人間はいないものとする。自分の身の振り方は自分で考えろ。」


これが、拓海を怒らせた者の末路だった。彼が動かずとも、数えきれない人間が勝手に片付けてくれるのだ。


「ついに、あの親父も私を南家から追い出したか。」

佳穂は、少しも悲しそうな顔をしなかった。


彼女は真希の手を取った。

「出所したら、一緒にどこか遠くに行こう。」


軽く言うけれど、真希の胸は苦しかった。


南家の両親も、兄も佳穂を好いていなかった。


佳穂は、まるで野良猫のように、たくましく育ち、真希や青嵐と出会った。


彼女は「この世界で一番自分を愛してくれるのは、真希と青嵐だけだ」と言っていた。


その後、真希が拓海を好きになり、彼女には青嵐しか残らなかった。

でも青嵐も去り、彼女はすべてを失った。


毎日、冷たく重苦しい南家で暮らし、次第に心が壊れ、権力や利益を求め、必死で自分が愛される価値があると証明しようとした。


結局、何も手に入らなかった。


真希は佳穂の手を強く握った。

「私はずっとあなたの味方だよ。」


佳穂が拘留されている間、真希は必要なものを用意しに行った。

洗面用具や下着など、少しでも佳穂が辛い思いをしないように。


大きな荷物を抱えて、買い物を終えたばかりだった。


その時、キラキラにデコレーションされた高級車が、真希の目の前でぎこちなくドリフトして止まった。


爆音で頭が痛くなるほどだった。


車のドアが開き、真っ赤なハイヒールが最初に目に入る。


続いて、見覚えのある二人の姿が現れた。


「やだ、誰かと思えば、有名な真希様じゃないの。」

佐々木春香と木村凛、小雪の友人であり、真希や佳穂の天敵だ。


真希は佳穂の荷物を届けることしか頭になく、彼女たちに関わる気はなかった。


「どいて。」


「えー、いいじゃない。久しぶりなんだから、ちょっと話そうよ。」


春香が真希の行く手を塞ぐ。


真希はじろりと睨みつけた。

「頭おかしいんじゃない?」


春香は顔色を変えたが、真希が続けた。


「敵と昔話するなんて、ヒマなの?」


春香はすぐにムキになり、もう余裕がない。


真希はさらに一言付け加える。

「何年ぶりかと思えば、全然成長してないじゃん。使えないわね。」


春香は怒りに震えていた。

そんな様子を面白そうに見ていたのは凛。車のドアに寄りかかりながら、笑い声を響かせた。


「真希、やっぱり全然変わってないね。相変わらず生意気で……本当にムカつく。」


彼女は後ろの車から降りてきた二人を呼んだ。


「みんな、紹介するわ。これが有名な黒澤家のお嬢様で、拓海の妻よ。どうやって拓海様をゲットしたのか、ぜひご教授してもらったら?」


「いやだわ。私たち、名家のお嬢様よ?プライドもあるし、男を追いかけるなんて、恥知らずで男に困ってる女じゃないと、できないことよね?」


他の数人もそれに同調して笑った。


「みんな知ってる?この人、どうやって拓海を落としたか。教えてあげる。真希さん、セクシーランジェリーで誘惑して、薬まで盛ったんだって。」


凛は真希の顔のすぐ前まで近づき、わざと大声で言う。


「結婚してどれくらい?半年?一年?それとも三年?彼、あなたに触れたことあるの?」

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