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第61話

これらの証拠が積み重なり、彼女を閉じ込める密室の檻となった。

拓海の裁きを待つばかりだ。


演技も、泣くことも忘れ、彼女はただ困惑した。


――こんなもの、一体どこから出てきたの?


自分がやったことは、細心の注意を払って証拠なんて残していなかったはずなのに。


今さらバレてしまったら、どうすればいいのか。彼女は恐る恐る拓海の顔色をうかがい、その心を読み取ろうとした。


必死で言い訳を考えながら、次々と証拠が突き付けられる。

静まり返った暗い部屋に、突然、耳まで赤くなるような生々しい音が響き渡った。


映像には、一人の男と一人の女が裸でベッドの上でもつれ合っていた。


男は片腕しかなく、顔には醜い傷跡が刻まれている。彼は女の腰を強く掴み、女の喘ぎ声は途切れ途切れの音となって部屋に響く。


「やめて!消して、消して!」


小雪は叫んだ。


悪事の証拠だけなら、まだ耐えられる。しかし、この映像こそが、彼女の心を完全に打ち砕いた元凶だった。


あの日、金髪男と真希が同時に姿を消した。


彼女は、金髪男がすでに国外に逃げたものと思っていた。

まさか、まだ東京にいて自分と連絡を取ってくるなんて。

金髪が暴走して自分を巻き込むのを恐れ、彼に金を渡してさっさと出国させようとしたのだ。


まるで爆発寸前の時限爆弾。いつ破裂してもおかしくない。


だが、次第に金髪の要求はエスカレートし、金だけでなく彼女自身まで求めてきた。小雪は悔しさと絶望を噛み締めながらも、他に選択肢はなかった。


まだ拓海を完全に自分のものにできていない今、自分の野心のために代償を払うしかなかった。


――犬に噛まれたと思えばいい。


そうして、一度、二度、三度……金髪の欲望はとどまるところを知らなかった。


その悪夢のような日々は、彼女の心を蝕み、夜ごと頭を抱えて発狂しそうになりながら、金髪を殺してしまいたいと何度も思った。


だが、彼は用心深く、誰も信じていなかった。小雪が隙を見て彼を殺そうとすると、いつもすぐに目を覚ます。


結局、彼女はその考えを諦めた。もし下手に手を出せば、殺されるのは自分の方だったから。


やがて、彼女は妊娠した。

彼女の中である計画が芽生える――この子を使って拓海を縛り、少しずつ彼や江藤家の全てを奪い取る。


同時に、この子がいれば金髪も完全にコントロールできる。彼が拓海に復讐し、人の上に立とうとするなら、必ず自分の言うことを聞くしかない。


――もし真希が死んでいなければ、本当にうまくいったかもしれない。


映像は繰り返し流れる。


醜悪な男の下敷きになり、みじめな姿を晒す自分を見て、小雪の心はついに崩壊した。


人を殺すより、心を壊す方が残酷だとは、こういうことだ。


「お兄ちゃん、無理やりされちゃったの。本当に、どうしようもなかったんだ!」


土壇場になっても、彼女の自己中心的な本質は変わらない。


無理やり? 


誰が小雪を無理やりできる?拓海が守ってきたこの東京で、彼女は思いのままだったはずだ。


「本当に、気持ち悪いよ。」


拓海の冷ややかな視線に、小雪は悟った。もう彼は、何一つ自分の言葉を信じていない。


「はははは!」

彼女は狂ったように笑った。

「真希、あなたの勝ちよ。」


やっぱり、生きている者は、死んだ人間には勝てない。


「私が気持ち悪い?!」


小雪は護衛の腕を振りほどき、よろめきながら立ち上がると、顎を高く上げて言い放った。

「私がどれだけ汚くても、あんたよりはマシよ。」


彼は全てを知っていたくせに、すぐに暴かなかった。まるで自分たちをバカにするように、弄んでいたのだ。


偽善者で、自己中心的で、傲慢な最低男!


「妹の写真で自慰して、妻を冷たく虐げ、他の女に目移りして、気まぐれに振り回し、真希を心身ともにボロボロにしておきながら、今さら人前で愛を語る? 拓海、人は死んだのよ。何を今さら、悲劇の主人公ぶってるの? 私が気持ち悪い? この世で一番気持ち悪いのは、あんたよ!」


もう何も失うものはない。なら、せめてお互い傷つけ合えばいい。


「真希が最後まであんたを愛してたとでも思ってるの? 笑わせないで。もうとっくにあなたになんか興味なかった。憎しみさえもなかったのよ。あなたの存在は空気みたいなもの。ただ、あなたを地獄に突き落とす、その機会を待っていただけ。


今ごろ、後悔で胸が張り裂けそうなんじゃない? 真希はすぐそばにいたのに、気づけなかった。彼女が死にそうになっても、あなたは何も知らなかった。お腹の子が自分の子供だってことも、知らなかったでしょう。どうせ、あなたがその子を堕ろさせたんじゃない?」


拓海の顔色がどんどん暗くなっていくのを見て、小雪はますます狂気を増していった。


「拓海、ほんとに哀れね。十年以上、私に弄ばれて、今度は真希にも翻弄されて、可哀想すぎるわ。」


女の勘は鋭い。小雪の推測は、ほとんど的中していた。


真希が拓海と結婚式を挙げたのも、遺書に書いてあったような「新婦になりたい」なんて理由じゃなかった。ただの精神的な復讐だ。


本当の理由は、世界中の人間を証人にして、血塗られた式を拓海の記憶に刻みつけるため。


彼が犯した罪と悪行を、永遠に思い出させるためだ。


自分の手で、真希と自分の子供を殺した。その事実から、逃れられないように。


時が経てばすべてが薄れる――そんな甘い考えは許さない。


真希は自分が集めた証拠や、協力者が集めてくれた資料を、すべて拓海に託した。拓海が小雪の本性を知れば、さらに大きな罪悪感に苛まれる。そして、その怒りや憎しみはすべて小雪に向かう。


彼が苦しむ限り、小雪も道連れだ。


真希は、それを見届けたかったのだ。愛の炎で焼き尽くされるのか、憎しみで引き裂かれるのか――


「真希のこと、ちょっと見直したわ!」


今まで気づかなかったが、真希にはこんなに残酷な一面があった。自分にも厳しく、敵にも容赦がない。


命を失った者と、愛する人と子供を失った者。


唯一、無傷で立っているのは自分だけ。


こうしてみれば、自分こそが勝者じゃないか。悪事がバレただけの話。


母親が江藤達也の妻である限り、拓海も自分を殺すことはできない。江藤家の令嬢として、これからも贅沢な暮らしができる。


これまで拓海にしがみついていたのは、彼をもてあそぶのが楽しかったから。


あの高慢な拓海が自分のために頭を下げる――その優越感が心地よかった。


いなくなったら、また新しい相手を探せばいい。


彼女はふと、何も恐れるものがなくなったような気がした。


「拓海、哀れね。一番あなたを愛した人を、自分の手で殺してしまったんだもの! 真希は絶対にあなたを許さない!」


絶望した? 後悔してる?


もう遅い。真希は死んだ。あなたには、もう罪を償うチャンスなんてない。


「死にたいのか!」

拓海は激しく小雪の首を締め上げ、持ち上げた。


小雪は息ができず、必死で拓海の手を叩いて離そうとした。

苦しさで、意識が遠のいていく。


「旦那様!」


執事がすぐに駆け寄り、静かに諫めた。


「こんなふうに殺しては、彼女には甘すぎます。」


そうだ、こんな死に方では、小雪にはあまりにも簡単すぎる。


真希が受けた苦しみは、これから小雪にも味わわせなければならないのだ。

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