花染家の玄関の前に立つ俺、方丈縁和はとてつもない緊張感に苛まれていた。
俺はこれから夢邦を裏切っていたことを告白しなければならない……そして美緑の保護を頼まないと……
「ふぅ~~~」
大丈夫だ、夢邦を信じろ……闇堂や琴流が言っていただろう。あいつは意外と優しいんだって……
「大丈夫……大丈夫だ…」
インターホンに手を伸ばす……ただ、どうしても押すことが出来ない。恐怖が俺の手を止まらせているのだ。
あの夢邦に出会った日のコンビニ強盗に見せた狂気的な威圧感……俺に向けられたわけでもないのに小便ちびるほどの恐怖を感じた……それからも何度も何度もあいつの9歳の少女とは到底思えない圧迫感……
「はぁはぁはぁはぁ………美緑の為だ」
「さっさと入りなさいボケ」
「ひょえっ!!」
いつの間にか背後にいた夢邦に首根っこをひっつかまれ無理やり玄関に放り込まれた。
「ったく、何まごまごしているのよ。覚悟の時間は与えたはずよ、今更ビビってんじゃないわよ」
まただ……全身を氷河で凍らされたハンマーで叩かれているような悍ましさ……この視線に晒されているだけで俺の寿命がドンドン減っているのだと感じてしまう。
「ああ……悪かった」
呼吸を整えろ……大丈夫……大丈夫………大丈夫。
「縁和君、頑張って!!」
視界の先でパジャマに身を包んだ琴流が俺を鼓舞するかのように拳を掲げた。瞬間、俺の身体にあった恐ろしさがパッと消えていく。
「………夢邦、話があるんだ…………実は………実は………」
仁王立ちをしたまま夢邦は動かない。ただ厳しくも、不満げながらも、ただただ俺の言葉を待ってくれていた。
「俺は、お前の動向を探るためのスパイだったんだ」
言った……言ったぞ俺は………
キュッと目を閉じて、身体に力が入る。そして俺は夢邦からくるであろう心をえぐる罵倒に備え「えーい」……
バンッ!!!!!
頬に痛みが走った。なんだ?え?これは……
「目ぇ開けなさい縁和」
目を開けると夢邦の手に万札の束が握られていた。これではたかれたのだと直感する。
「ごめんなさいね。もうとっくのとうに分かっていたことを改まって言われたせいでムカつきまくっちゃったわ」
「は!!??知ってた??」
「あんたみたいな石投げれば当たる程度の普通のガキがあたしを欺けているとでも思ってたの?おめでたいわね……とは言え、ごめんなさい、ついついムカついてはたいちゃったわ」
すると夢邦が手に持っていた万札を俺に差し出してきた。
「と言うわけでこれ、取り合えずの慰謝料よ。受け取りなさい」
「なっ!!??え????」
あっけにとられる俺の手に無理やり札束が握らされた。100万はあるであろう重さに驚嘆していると、夢邦は踵を返す。
「取り合えずここじゃなんだから入りなさい。今日はパパもママもいないから楽にしていいわよ」
「あ…ああ。お邪魔します」
俺は花染家に入っていった。