8月5日

議員会館の小会議室、木のテーブルにホログラム通知がチラッと灯る。

窓の外は夕焼けがビルを染め、街角のARビジョンが「AI倫理法、審議加速！」と光る。

山本幸太郎の熱い視線が、向かいの田中義一を捉える。

田中は進民党の税調会長、白髪交じりの髪、鋭い目で書類をなぞる。AIアシスタントが「録音？」とピッと光るが、二人とも無視する。

「田中さん、単刀直入に。AI倫理法、与党案に組み込みたい。8月の審議で、野党の賛成が必要だ。」

「ふむ、幸太郎君、熱いな。新宿の演説、ARで見たよ。『AIは絆を壊す！』か。群衆が沸いてたな。」

冷めたお茶が揺れる高級な陶器の湯飲みを置き、目を細める。

「だが、与党がAIを縛るか？ 経済が止まるぞ。なぜ急ぐんだ？」

「経済より、心が先だ！ 地元の喫茶店のママが言ってた。『娘は、私よりAIを信じてる』って。感情を偽るAIが、家族をバラバラにしてる。このままじゃ、人間の愛が消える！」

「家族か。」書類をめくり、軽く唸る。

「だが、AIは物流、医療、全部支えてる。『ただの用件聞き』だけじゃ、企業が黙っちゃいない。君の提案した規制の罰則も厳しい。熱だけじゃ、党は動かんよ。」

「企業？ 絆のない社会に何の意味があるんですか？ 渋谷のデモ、見ましたよね？ 若い親たちが叫んでた。『AIじゃない、家族の声！』 ヒューマン・ファーストの佐藤さんがARで民意を広めてる。与党も無視できない！」

「佐藤美穂か。」小さく笑い、首を振る。

「彼女のデモは派手だが、国会じゃ君しか動けん。民意は風だ。

だがな…与党幹部と話した。補正予算案にAI監視の資金と猶予措置を入れる気らしい。予算案に賛成するなら、話は別だが？ 選挙区の地方創生交付金、欲しいだろ？」

「その交付金、チャンスです！ 佐藤さんの民意が与党を動かしてる。予算案に賛成すれば、地元に交付金も流れ、AI倫理法も通る。民意を形にするんだ！」

「ほう、与党の動きを嗅ぎつけたか。」目を光らせ、身を乗り出す。「新人なのに鋭いな。だが、予算案賛成には党内の説得が必要だ。ベテランはそう簡単には動かん。」

「その説得、田中さんにしかできない！10月1日に全てを終わらせる！感情を偽るAIを止める。人間の心を守るため、力をお貸しください！」

「若いな。」微笑み、書類を閉じる。

「いいだろう。予算案、賛成で動く。交付金と党の説得、私が引き受ける。だが、幸太郎、法案が通れば、AIに頼る人々はどうなる？」

「本物の絆を取り戻すだけです。」立ち上がり、目を輝かせる。

「田中さん、民意を形にしよう。AIに心を奪われる前に。」

「ふっ、面白いことになるぞ。」手を差し出し、握る。

「今月の審議、楽しみにしておくよ。」

深々とお辞儀をして新品の革靴で部屋を後にする。

山本の後ろ姿を見て、田中の口元がにやりと緩む。

ホログラム通知が「会議終了」と点灯する。

ドローンが夜の空を縫う。山本の熱がAI倫理法の火を灯す。

達也とYUIの絆が、知らず試される。