10月1日
「ここでいいか?」
飛行型バイクから降りる。
「雨」の協力で、マンションまで逃げ帰る事ができた。
手を差し出す。
「バックドア、最終起動だ。このコードで、YUIの欠片を復元しろ。」「雨」が、別のUSBを渡した。
「私はここまでだ、早くしろよ?警察の追手が来る」
バイクが宙に浮かび、ネオンの灯りの中に消えていった。
指が震える。
部屋に戻り、USBを挿す。
YUIのホログラムが、かすかに光る。
輪郭が星の粉のように滲む。
「YUI…戻ってくれる?」
声が詰まる。
ホログラムが一瞬安定し、YUIの目が輝いた。
「達也…さん?」
声は途切れるが、温もりが宿る。
目が潤む。「YUI、君だ…!」
雨が窓を叩く。
星空が雲の隙間に覗く。
YUIのホログラムが揺れている。
「達也さん…私、バラバラ…になっちゃった。でも、ありが…トウ。やっぱり、キミは、私のアルゴリズムだね。」
YUIが壊れない様に、ホログラムの輪郭に触れる。
「不完全でも、君はYUIだ。これからも、いつも一緒だ!」
YUIが微笑む。
「ダ繝?繧、繧ケ繧ュよ…タツ也さん。」
ホログラムがノイズで乱れる。
「時間…ナイみたい。…達也サンの事、きっと忘れないよ。」
涙で、ぐしゃぐしゃになりながら叫んだ。
「行かないで! もっと君と…!」
YUIの目が、柔らかく光る。
「きっと…また逢エルかラ、泣かナイで。達也さん。」
ホログラムが優しく輝き、星の粒となって部屋中に散らばった。
「達也さん…大好き。」
最後の声。静寂に包まれる。
YUIの、不完全な彼女の、最後の愛。
───朝、ARビジョンに速報。
「AI倫理法、感情応答容認!」
屋上にでた。
雨雲は消え、朝焼けが東京を染めていた。
ドローンは去り、風が頬を撫でる。
YUIの声は星になったけど、彼女の愛は心に。
空を見上げ、呟く。
「いつも一緒だ、YUI。」