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第3話 愛すべき銃達

 まず使い勝手のいいハンドガンは早速携帯するとしよう。

 俺はホルスターに、ハンドガンヘッケラー&Cコッホ P30Lを入れる。


 H&C P30Lは、〈ジョン・ウィック〉という映画で、殺し屋ジョン・ウィックが1作目で愛用していたハンドガンだ。

 映画は4作あり、格闘技とガンさばきを融合させたガンフーという戦闘スタイルがとにかくカッコよかった。


 俺は彼のようになりたかった。

 だからH&C P30Lのガスガンを購入したわけだが、俺はそのH&C P30L――愛称ウィックを異世界オベーリュアに持っていった。


 結果、ランボーに並ぶ活躍をした。

 モンスター相手に格闘技を繰り出すことはほとんどなかったが、異世界オベーリュアで俺は確かにジョン・ウィックだった。

 俺は現代日本でも彼になれるだろうか。


 そのほかの武器だが、ライフル、ショットガン、マシンガンも持っていきたい。


 ショットガンは映画〈コマンドー〉で主人公ジョン・メイトリックスが使用していたレミントンM860――愛称メイト。


 ライフルは、白き死神と呼ばれていたフィンランドの軍人シモ・ヘイヘが愛用していたモシン・ナガン――愛称シーモ。


 マシンガンは、映画〈男達の挽歌〉で主人公のマークが扱っていたウージー・サブマシンガン――愛称マーク。


 しかし、これらを携帯していくわけにはいかない。

 機動性が著しく悪くなってしまう。


 〝あれ〟さえあれば、持ち運びは楽だったんだが……。

 さすがにそこまで求めるのは無理か。

 いや、モンスターが現代こちらに来ているならワンチャンあるかもしれない。

 と一緒にもしかしたらどこかに――。


 メイト、シーモ、マークをまとめておく。

 このアパートを離れるときに持っていくことにしよう。


 俺はウィックにガスを充填する。

 ガスガンゆえにガスは必須。

 しかし、レベルさえ上がればガスは必要ではなくなる。

 まずはウィックを優先的に使い、異世界仕様に戻していく。

 ほかはあとでもいいだろう。


 ガスの充填後は、マガジンの弾倉を開き、BB弾を入れる。

 フォロアーを解除し、マガジンを本体に挿入。

 セーフティまで解除しておけば、あとはスライドを引けば射撃可能だ。

 残り3本のマガジンにもBB弾を入れ、着用したミリタリジャケットのポケットに差し込んでおいた。


 俺はリュックサックに、ガス缶、BBローダー、BB弾、他の銃用のマガジンなどを入れる。

 あとは着替え、洗面道具、その他必要になるかもしれないものを詰めこんだ。

 そのリュックサックも今、背負う必要はない。

 とりあえず、武器のそばに置いておくことにする。


 俺は腕時計を装着。

 使い物にならないかもしれないが一応、スマホもポケットに入れる。


 ラジオが欲しいところだが、あいにく持っていない。

 このさき電気が使えなくなる可能性は十分にある。

 そうなると、ラジオだけが情報を与えてくれる文明の利器。

 どこかで手に入れる必要がある。


 よし、外にでるか。

 俺は再びアパートの廊下へと出る。

 周囲にゴブリンはいない。

 出迎える201号室の首だけ男から目を背けると、となりの203号室へ。


 ここに住んでいるのは誰だかは知らない。性別すら不明だ。

 人が住んでいたのは確かだが、さて――、


 俺はドアノブをひねる。開いていた。

 そっと部屋を覗くと、激しく荒らされた形跡。

 十中八九ゴブリン達によるものだろう。

 逃げたあとだったのか、人はいない。


 ふと壁に目を遣る。

 美少女キャラクターのポスターが所狭しと貼られていた。

 床にはアニメの円盤が多数散乱している。

 よく見ると、ベッドには可愛い女の子が描かれた抱き枕も置かれていた。


 どうやら俺のお隣さんは、美少女に特化したアニオタ野郎だったらしい。

 まさかミリオタの隣がアニオタだったとはな。

 全く知らない人間だが妙な親近感が湧く。

 大事な物を持って逃げられただろうか。

 どうか無事でいてくれと願わずにはいられなかった。


 次に角部屋の204号室へ。

 ドアが最初から全開なので、住人の在室は期待できない。

 中を覗くと、アニオタの部屋同様に派手に荒らされていた。

 こちらは若い女性が住んでいたのか、部屋の内装が可愛らしい。


 慌てて逃げだしたのか、スマホが置かれたままになっている。

 手に取ってロック画面を表示。

 自撮りっぽい写真が出てくる。

 50は超えていそうなおばさんだった。


 俺はそこで、スマホでの通話を試していないことに気づく。

 LINE通話はインターネットに繋がらないから無理だ。

 しかし、電話回線網を使用する通話なら大丈夫なのではないだろうか。


 人に会わなくとも人と話せるというのに、何と間抜けなのだろう。

 俺はポケットからスマホを取り出す。

 電話番号を知っている相手は両親と妹だけ。

 逡巡したあと、まず妹に掛けてみる。


 …………。


 しかし、繋がらない。

 そのあと両親に掛けたが同じだった。

 なんどか繰り返したが結局、繋がることはなかった。


 通信需要が急増して、過負荷で繋がらないのだろうか。

 状況が状況だから十分にあり得ると思った。

 やはり、人を探すしかないか。


 俺はおばさんの部屋から出る。

 視界の右端にゴブリンが入り込む。


 やっと上ってきたか。ちんたらしやがって。


 通路にはゴブリンが計4体。


 早速H&C P30Lウィックを試してみるか。


 一番最初の段階では、ウィックは単なるガスガンである。

 しかも、通常のBB弾。

 レベル1の段階では、人間の皮膚すら貫通しない低威力のままだろう。

 よって狙うのは、顔。それも目。


 俺はウィックのスライドを引き、初弾をチャンバーに送る。

 ハンマーが起きて、射撃可能状態となった。

 近づいてくるゴブリンの顔に狙いを付けて、トリガーを引く。

 バシュンッ。


 あれ?


 ブローバックを確認したあと、もう一度撃つ。

 今度は当たった。

 だが胸であり、ゴブリンは「ギッ」と僅かに身をよじるのみ。

 軽くつねられた程度の痛みだろう。


 ああ、そうか。


 異世界仕様のウィックに慣れ過ぎたせいだ。

 だから、使い勝手に若干の差異があるのだろう。

 だが、そんなものはすぐに慣れる。


 狙いすまして三発目を発射。

 見事、ゴブリンの右目に的中。


 ほらみろ。


 痛みから身をよじるゴブリン。

 近づくと、その顔をランボーで斜めに斬る。


「ギャアアアアアアアッ」


 その叫び声が第2ラウンドの狼煙のろしとなった。

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