「マスター、ここはどこなのですか? マスターや仲間達と魔帝バラゾーマモスを倒した後、急に自己認識が途絶したのですが、再接続したらこの場所にいたのです。ゴブリンがいたのでなんとか滅殺しましたが……この場所は一体?」
「えっとだな――……」
混乱気味のアドメスに、俺は説明する。
「……そういうことなのですか。色々と不明な点が多いですが、確かに分からないことを考えていても仕方がありませんね。とりあえず、マスターの言った通り、人を探しましょう」
人を探すといえば、アドメスには生体反応を探る能力があったはずだ。
俺がそれを要求すると、アドメスは両のコメカミに人差し指を当てて目を瞑る。
すると5秒後――。
「いましたっ。この建物の半径100メートル以内にいます」
「半径100メートル以内だと? 結構近いな。もっと範囲を狭められないか」
「ちょっと時間が掛かりますが、がんばってみます」
「おう」
――10分後。
「分かりましたっ。この建物の中にいます」
「アパートの中? 本当かっ?」
「はい、もっと狭めますね」
「おうっ」
――5分後。
「分かりましたっ。この部屋にいます」
「この部屋だと? そうか。ベッドの下か、あるいはクローゼットの中かっ」
「違います。私の目の前にいますっ」
「それ、俺だよ!」
15分も時間使ってくだらないコントさせるなと軽く詰ると、「……すいません、すいません」と小さくなって謝るアドメス。
そうだった。
ちょっと待て。
もしかしてこいつも……。
「アドメス。〈ペルソナの娘〉達はお前の中にいるのか?」
「ほかの…………あ、あれ? いないっ、いないですっ。あれ、おかしいな。全員、いない。なんでだろう??」
どうやら
俺がそれを伝えると、アドメスは「えええええええええっっ!!?」と驚愕の顔を浮かべたのち、「ま、いっか。また育んでいけばいいです」と3秒で気持ちを切り替えた。
アドメスのレベルを上げるには、単純に時間が必要だ。
アンドロイドだからといって、チップや回路、エネルギーコアなどの強化素材を集めるわけではない。あらゆる経験をして感情を錬磨することによって、アドメスの中に別の人格が宿るのだ。
その人格――ペルソナの娘は6人いて、それぞれが何らかの特技を有している。
つまり、ペルソナの娘の増加に比例して、アドメスはグレードアップしていくこととなる。
Type: S(
そのアドメスは銀のアタッシュケースを握っている。
言葉に出すときは短く、銀箱。
これはアドメスの常時発動スキルであり、物の持ち運び用として使用できる。
アタッシュケースの中は次元の狭間に繋がっていて、そこに物を保管する形となる。
容量は、重量換算で最初は100キログラム。
アドメスのレベルが上がれば、その容量が増えていくという寸法だ。
「アドメス。その銀箱に入れたい物がある。ついてきてくれ」
「はい。マスター」
◇
「――よし、当たり前だが、全部入ったな」
自室に置いておいた、
取りたいときは銀のアタッシュケースの中に手を突っ込んで、その物をイメージすればいい。
とりあえずはまだ、ランボーとウィックの装備でいくとしよう。
「もういいですか?」
「おう」
「では、消しますね。――リペル」
アドメスが唱えると、銀のアタッシュケースがその場から消える。
銀のアタッシュケースそのものが次元の狭間に遠ざけられたのだ。
ちなみに現実世界に引き寄せる場合は、アトラクトと唱えればいい。
さて。
アドメスとも会い、銀のアタッシュケースに物も収納した。
そういえば、何か忘れているような。
そうだ、ラジオだ。
探していない部屋がとなりにあったが、どうだろうか。
俺はアドメスを引き連れて、104号室へ。
開け放たれている104号室へ入るや否や、壁を見てぎょっとする。
壁にはたくさんの写真が貼ってあった。
203号室のアニオタは美少女キャラクターのポスターだったが、こっちはリアルな女性の写真。
「マスターが好きそうな感じの、きれいな方ですね。おっぱいも大きいですし」
「そ、そうだな。それは否定でき――ん? あれ?」
何か見覚えがあるなと思ったら、103号室の浜辺美波似の写真だった。
隣室にストーカーかよ。
「これはなんですかね、マスター」
アドメスが四角いコンクリートマイクのような物を手に取る。
――って、コンクリートマイクそのものだった。
十中八九、隣室とを隔てる壁に当てて盗聴していたのだろう。
かなり浜辺美波似に隣人にご執心のようだが、ワンチャン彼女と一緒に逃げた可能性もあるかもしれない。
いや、ないか。ないなっ。
「マスター。では、これはなんですか?」
アドメスが四角いラジオのような物を手に取る。
――って、ラジオそのものだった。
「ラジオじゃねーかっ。でかしたぞ、アドメス」
「お役に立てたようで良かったです。なでなでお願いします」
ずいっと頭を差し出してくるアドメス。
「あ、ああ。よしよし、よしよし、よーしよしっ」
頭を撫でまくると、「~っ♪」となんとも形容できない声で嬉しさを表すアドメス。
ご褒美が頭なでなでは、異世界にいた頃から変わらないようだ。
犬かっ。
文庫本ほどの大きさの至って普通のラジオ。
電気はもちろんのこと電池もいらない、手回し充電式なのはポイントが高い。
防水でないのが減点だが、十分だろう。
俺はさっそく充電して、ラジオを使ってみる。
放送局よ、稼動していてくれ――と祈りながら。
放送バンドはAM。
合わせる周波数は適当。
とにかく最大級激甚災害について何か知りたい俺だった。
チューニングダイヤルをゆっくり回す俺。
「………
聞こえた。
しかし受信感度がすこぶる悪いのか、それ以降は耳障りなノイズしか聞こえなくなってしまった。
全員、死亡……?