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第7話 銀のアタッシュケース

「マスター、ここはどこなのですか? マスターや仲間達と魔帝バラゾーマモスを倒した後、急に自己認識が途絶したのですが、再接続したらこの場所にいたのです。ゴブリンがいたのでなんとか滅殺しましたが……この場所は一体?」


「えっとだな――……」


 混乱気味のアドメスに、俺は説明する。


「……そういうことなのですか。色々と不明な点が多いですが、確かに分からないことを考えていても仕方がありませんね。とりあえず、マスターの言った通り、人を探しましょう」


 人を探すといえば、アドメスには生体反応を探る能力があったはずだ。

 俺がそれを要求すると、アドメスは両のコメカミに人差し指を当てて目を瞑る。

 すると5秒後――。


「いましたっ。この建物の半径100メートル以内にいます」


「半径100メートル以内だと? 結構近いな。もっと範囲を狭められないか」


「ちょっと時間が掛かりますが、がんばってみます」


「おう」


 ――10分後。


「分かりましたっ。この建物の中にいます」


「アパートの中? 本当かっ?」


「はい、もっと狭めますね」


「おうっ」


 ――5分後。


「分かりましたっ。この部屋にいます」


「この部屋だと? そうか。ベッドの下か、あるいはクローゼットの中かっ」


「違います。私の目の前にいますっ」


「それ、俺だよ!」


 15分も時間使ってくだらないコントさせるなと軽く詰ると、「……すいません、すいません」と小さくなって謝るアドメス。


 そうだった。

 personalityパーソナリティ01のアドメスは物事に対して一生懸命だが、どこか抜けている奴だったか。


 ちょっと待て。

 もしかしてこいつも……。


「アドメス。〈ペルソナの娘〉達はお前の中にいるのか?」


「ほかの…………あ、あれ? いないっ、いないですっ。あれ、おかしいな。全員、いない。なんでだろう??」


 どうやらRANBO-06 FEランボー、やH&C P30Lウィック同様に、アドメスもレベルが1まで下がっているようだ。


 俺がそれを伝えると、アドメスは「えええええええええっっ!!?」と驚愕の顔を浮かべたのち、「ま、いっか。また育んでいけばいいです」と3秒で気持ちを切り替えた。


 アドメスのレベルを上げるには、単純に時間が必要だ。

 アンドロイドだからといって、チップや回路、エネルギーコアなどの強化素材を集めるわけではない。あらゆる経験をして感情を錬磨することによって、アドメスの中に別の人格が宿るのだ。


 その人格――ペルソナの娘は6人いて、それぞれが何らかの特技を有している。

 つまり、ペルソナの娘の増加に比例して、アドメスはグレードアップしていくこととなる。


 Type: S(Seven七つの)P( Personalities人格)のアドメスは、ちょっと特殊なアンドロイドなのだ。


 そのアドメスは銀のアタッシュケースを握っている。


 言葉に出すときは短く、銀箱。

 これはアドメスの常時発動スキルであり、物の持ち運び用として使用できる。

 アタッシュケースの中は次元の狭間に繋がっていて、そこに物を保管する形となる。

 容量は、重量換算で最初は100キログラム。

 アドメスのレベルが上がれば、その容量が増えていくという寸法だ。


「アドメス。その銀箱に入れたい物がある。ついてきてくれ」


「はい。マスター」



 ◇



「――よし、当たり前だが、全部入ったな」


 自室に置いておいた、レミントンM860メイトモシン・ナガンシーモウージー・サブマシンガンマーク。その他、必要そうなものをまとめて銀のアタッシュケースの中に放り込んだ。


 取りたいときは銀のアタッシュケースの中に手を突っ込んで、その物をイメージすればいい。

 とりあえずはまだ、ランボーとウィックの装備でいくとしよう。


「もういいですか?」


「おう」


「では、消しますね。――リペル」


 アドメスが唱えると、銀のアタッシュケースがその場から消える。

 銀のアタッシュケースそのものが次元の狭間に遠ざけられたのだ。

 ちなみに現実世界に引き寄せる場合は、アトラクトと唱えればいい。


 さて。

 アドメスとも会い、銀のアタッシュケースに物も収納した。


 そういえば、何か忘れているような。


 そうだ、ラジオだ。


 探していない部屋がとなりにあったが、どうだろうか。

 俺はアドメスを引き連れて、104号室へ。


 開け放たれている104号室へ入るや否や、壁を見てぎょっとする。

 壁にはたくさんの写真が貼ってあった。

 203号室のアニオタは美少女キャラクターのポスターだったが、こっちはリアルな女性の写真。


「マスターが好きそうな感じの、きれいな方ですね。おっぱいも大きいですし」


「そ、そうだな。それは否定でき――ん? あれ?」


 何か見覚えがあるなと思ったら、103号室の浜辺美波似の写真だった。


 隣室にストーカーかよ。


「これはなんですかね、マスター」


 アドメスが四角いコンクリートマイクのような物を手に取る。

 ――って、コンクリートマイクそのものだった。


 十中八九、隣室とを隔てる壁に当てて盗聴していたのだろう。

 かなり浜辺美波似に隣人にご執心のようだが、ワンチャン彼女と一緒に逃げた可能性もあるかもしれない。

 いや、ないか。ないなっ。


「マスター。では、これはなんですか?」


 アドメスが四角いラジオのような物を手に取る。

 ――って、ラジオそのものだった。


「ラジオじゃねーかっ。でかしたぞ、アドメス」


「お役に立てたようで良かったです。なでなでお願いします」


 ずいっと頭を差し出してくるアドメス。


「あ、ああ。よしよし、よしよし、よーしよしっ」


 頭を撫でまくると、「~っ♪」となんとも形容できない声で嬉しさを表すアドメス。

 ご褒美が頭なでなでは、異世界にいた頃から変わらないようだ。

 犬かっ。


 文庫本ほどの大きさの至って普通のラジオ。

 電気はもちろんのこと電池もいらない、手回し充電式なのはポイントが高い。

 防水でないのが減点だが、十分だろう。


 俺はさっそく充電して、ラジオを使ってみる。

 放送局よ、稼動していてくれ――と祈りながら。

 放送バンドはAM。

 合わせる周波数は適当。

 とにかく最大級激甚災害について何か知りたい俺だった。


 チューニングダイヤルをゆっくり回す俺。



「……………………」



 聞こえた。

 しかし受信感度がすこぶる悪いのか、それ以降は耳障りなノイズしか聞こえなくなってしまった。


 全員、死亡……?


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