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第8話 イッヌー

 腹が減っては戦はできぬ。


 ある意味、単身で戦状態に突入しそうな俺は飯を探すことにする。

 ラジオは調子が悪く、後回し。

〝全員死亡〟の不穏すぎるワードは気になるが、それについても後でいい。


「コンビニエンスストア、ですか。そこに行けば食料を調達できるのですか?」


 アドメスがツインテールを揺らしながら訊いてくる。

 髪は人間の髪に似せた合成繊維でできているらしい。

 生体組織も含まれているようで、成長機能もあるとか。


 顔と指の皮膚は人間の肌に極力近いシリコンベースの素材だ。

 こちらも生体組織の恩恵で、自己修復機能が備わっているとのこと。


「ああ、食料以外でもなんでも揃ってるぞ。日本のコンビニは世界で一番、充実しているからな」


「でも、こんな状況ですし、略奪されて何もないのでは?」


 こんな状況。

 ライフラインはかろうじて生きているが、町は壊滅状態である。


 アポカリプス。


 おそらく、この状態はそう定義づけできるはずだ。


 いや、さすがにコンビニの食料に手付かずってことはないか。

 いやいやっ、俺は世界一のモラルを誇る日本人を信じるぞっ!


「あ、マスター。犬がいますっ」


「犬?」


「ほらあそこに。おーい、イッヌーーっ」


 道路の脇からぬらりとでてきた〝そいつ〟に声を掛けるアドメス。


 黒い毛皮に、燃えるような赤い両眼。

 体格は土佐犬の3倍ほどで、凶悪的な獰猛さはその比ではない。

 口の中には鋭い乱杭歯が見えているが、あれで噛まれたら死ぬまで咀嚼されるだろう。


「ばか。あれはヘルハウンドだ。犬じゃない」


「え? あれ? 本当だ。私、怖いんで隠れてますね」


 言うや否や、自販機の脇にさっと隠れるアドメス。


 言われる前に行動。

 うん、その自主性は素晴らしいぞ、アドメス。


「ガルウウウウウウウウッ」


 俺を獲物認定した哀れなモンスターが、威嚇の唸り声を上げる。

 レベル65じゃ、微塵も恐怖は感じないがな。


 これはさっそくあのスキルでも試してみるか。

 俺はRANBO-06 FEランボーをナイフホルスターから抜き取ると、構えた。


「ガルアアアアアッ!!」


 勢い猛に突っ込んでくるヘルハウンド。


 やれやれ。

 なんでモンスターってのは、何の考えもなしに突っ込んでくるバカが多いのかね。


「発動せよ、炎熱ヒート


 刹那、ランボーの刃が赤い光を帯びた。


 ヘルハウンドが俺の首に食らいつかんと、飛び込んでくる。

 軌道が高過ぎ、はい終了。

 俺は下からランボーを振り上げ、ヘルハウンドの下顎をかっさばく。


 勢い余って道路を転がるヘルハウンド。

 まだ生きているのか、根性と気合い?で立ち上がってくる。

 しかし次の瞬間、その体が炎上。

 道路で黒煙を上げながら激しく踊り始めると、やがてぴくりともしなくなった。


 スキル、ヒート。

 発動した瞬間にランボーは火属性となり、斬られた側からしてみればその傷口は痛く、熱い。

 だが、ヒートの特性はそれだけではない。

 斬られた状態で体力(ゲームでいえばHP)が25パーセント以下になると、条件達成となり、その体が燃え上がる。


 その後、生き残るか息絶えるかは、それこそそいつの根性と気合いに掛かっている。


 ランボーの刃から赤い光が消える。


 10秒はさすがに短いな。

 まだ、ヘルハウンドはいるんだがなぁ。


 気配を感じて見向くと、ヘルハウンドが5匹、道路に集まっている。

 ハイエナの習性のようにヘルハウンドは一匹では動かない。

 今回は全部で6匹。ゴブリン24匹分ってところか。

 まあまあの経験値は得られそうだ。


 やられる要素は皆無。

 だからこそ、普通に戦っても面白くはない。


 10


 この縛りプレイでやってみよう。

 そうと決まれば、俄然やる気が漲ってくる。

 どう戦えば10秒で終えられるか。

 なんとなくシミュレーションして、あとは出たとこ勝負。


 俺は空き缶を拾うと、ヘルハウンド達の頭上に放り投げた。

 モンスター共の意識が空き缶に向けられる。


「発動せよ、フリーズ」


 刃を青く光らせるランボー。

 俺はダッシュでヘルハウンドとの距離を一気に詰める。

 奴らが俺の接近に気づいた。


 攻撃体勢に移ろうとした眼前のヘルハウンドの両目を、一振りで削ぐ。

 次に、一瞬の動作でランボーを逆手に持つと、左のヘルハウンドの眉間に突き刺した。


 飛び掛かってくる3匹目のヘルハウンド。

 しゃがんで避ける俺はランボーを下腹部に刺す。

 ヘルハウンドが自らその傷口を広げ、臓物が外に飛び出た。


 怒り狂ったような2匹が同時に強襲。

 俺は咄嗟に回し蹴りを繰り出す。

 横っ面に食らったヘルハウンドが右方に吹っ飛ぶ。

 後ろから迫るヘルハウンドの噛みつきにカウンターを合わせ、口角から背中まで裂いてやると、俺は跳躍。


 飛んだ先には回し蹴りをお見舞いしたヘルハウンド。

 横たわっているそいつの頭蓋に、両手で握ったランボーを上から突き刺した。


 ランボーの刃先から青色が抜けていく。


 よしっ、ミッションクリア。10秒、ほぼジャスト。

 そして条件達成なわけだが――、


 生死はともかく、6体のヘルハウンドが瞬間的に氷に包まれる。

 ヒートのように、熱さでモンスターが断末魔の踊りを披露することはないが、フリーズは凍ったあとが見物だった。


 俺はウィックを構えて、凍った6体に数発づつ打ち込む。

 派手な音を立てて氷が破壊される。

 当然、中にいたヘルハウンドも解体され、そこここに肉片が飛び散った。


 なかなかのグロ映像である。


 ランボーが白く光る。

 レベルアップの時間だ。



RANBO-06FEランボーのレベルが22→26に上がりました】

【殺傷力 698→ 801】rankB

【親和性 112→ 139】rankC

 ■材質/ブレード

 鉄

 ■スキル

 弱毒付与24%・炎熱ヒート10s・氷結フリーズ10s 



 数値が上がっただけで、ほかに変化はない。

 ゴブリン・レッドナイトを倒したあとだし、まあこんなものか。

 ウィックは死後攻撃認定されて経験値はなし、と。


「マスター、お疲れ様でーす。とってもカッコよかったですよっ」


 自販機の影からひょいっと出てくるアドメスが手を振りながら、こちらに向かってくる。

 その後ろから、ヘルハウンドが忍び寄る。


「あ」


 やべ、もう一体いたかっ。


「でも私も一体くらい、氷漬けのイッヌー、じゃなくてヘルハウンドを破壊したかったです。ストレス解消になりますからね。今度から残しておいてくだ――がっ!?」


 ヘルハウンドに、頭を上からがっつりかじられるアドメス。


 うわぁぁ。

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