腹が減っては戦はできぬ。
ある意味、単身で戦状態に突入しそうな俺は飯を探すことにする。
ラジオは調子が悪く、後回し。
〝全員死亡〟の不穏すぎるワードは気になるが、それについても後でいい。
「コンビニエンスストア、ですか。そこに行けば食料を調達できるのですか?」
アドメスがツインテールを揺らしながら訊いてくる。
髪は人間の髪に似せた合成繊維でできているらしい。
生体組織も含まれているようで、成長機能もあるとか。
顔と指の皮膚は人間の肌に極力近いシリコンベースの素材だ。
こちらも生体組織の恩恵で、自己修復機能が備わっているとのこと。
「ああ、食料以外でもなんでも揃ってるぞ。日本のコンビニは世界で一番、充実しているからな」
「でも、こんな状況ですし、略奪されて何もないのでは?」
こんな状況。
ライフラインはかろうじて生きているが、町は壊滅状態である。
アポカリプス。
おそらく、この状態はそう定義づけできるはずだ。
いや、さすがにコンビニの食料に手付かずってことはないか。
いやいやっ、俺は世界一のモラルを誇る日本人を信じるぞっ!
「あ、マスター。犬がいますっ」
「犬?」
「ほらあそこに。おーい、イッヌーーっ」
道路の脇からぬらりとでてきた〝そいつ〟に声を掛けるアドメス。
黒い毛皮に、燃えるような赤い両眼。
体格は土佐犬の3倍ほどで、凶悪的な獰猛さはその比ではない。
口の中には鋭い乱杭歯が見えているが、あれで噛まれたら死ぬまで咀嚼されるだろう。
「ばか。あれはヘルハウンドだ。犬じゃない」
「え? あれ? 本当だ。私、怖いんで隠れてますね」
言うや否や、自販機の脇にさっと隠れるアドメス。
言われる前に行動。
うん、その自主性は素晴らしいぞ、アドメス。
「ガルウウウウウウウウッ」
俺を獲物認定した哀れなモンスターが、威嚇の唸り声を上げる。
レベル65じゃ、微塵も恐怖は感じないがな。
これはさっそくあのスキルでも試してみるか。
俺は
「ガルアアアアアッ!!」
勢い猛に突っ込んでくるヘルハウンド。
やれやれ。
なんでモンスターってのは、何の考えもなしに突っ込んでくるバカが多いのかね。
「発動せよ、
刹那、ランボーの刃が赤い光を帯びた。
ヘルハウンドが俺の首に食らいつかんと、飛び込んでくる。
軌道が高過ぎ、はい終了。
俺は下からランボーを振り上げ、ヘルハウンドの下顎をかっさばく。
勢い余って道路を転がるヘルハウンド。
まだ生きているのか、根性と気合い?で立ち上がってくる。
しかし次の瞬間、その体が炎上。
道路で黒煙を上げながら激しく踊り始めると、やがてぴくりともしなくなった。
スキル、ヒート。
発動した瞬間にランボーは火属性となり、斬られた側からしてみればその傷口は痛く、熱い。
だが、ヒートの特性はそれだけではない。
斬られた状態で体力(ゲームでいえばHP)が25パーセント以下になると、条件達成となり、その体が燃え上がる。
その後、生き残るか息絶えるかは、それこそそいつの根性と気合いに掛かっている。
ランボーの刃から赤い光が消える。
10秒はさすがに短いな。
まだ、ヘルハウンドはいるんだがなぁ。
気配を感じて見向くと、ヘルハウンドが5匹、道路に集まっている。
ハイエナの習性のようにヘルハウンドは一匹では動かない。
今回は全部で6匹。ゴブリン24匹分ってところか。
まあまあの経験値は得られそうだ。
やられる要素は皆無。
だからこそ、普通に戦っても面白くはない。
この縛りプレイでやってみよう。
そうと決まれば、俄然やる気が漲ってくる。
どう戦えば10秒で終えられるか。
なんとなくシミュレーションして、あとは出たとこ勝負。
俺は空き缶を拾うと、ヘルハウンド達の頭上に放り投げた。
モンスター共の意識が空き缶に向けられる。
「発動せよ、フリーズ」
刃を青く光らせるランボー。
俺はダッシュでヘルハウンドとの距離を一気に詰める。
奴らが俺の接近に気づいた。
攻撃体勢に移ろうとした眼前のヘルハウンドの両目を、一振りで削ぐ。
次に、一瞬の動作でランボーを逆手に持つと、左のヘルハウンドの眉間に突き刺した。
飛び掛かってくる3匹目のヘルハウンド。
しゃがんで避ける俺はランボーを下腹部に刺す。
ヘルハウンドが自らその傷口を広げ、臓物が外に飛び出た。
怒り狂ったような2匹が同時に強襲。
俺は咄嗟に回し蹴りを繰り出す。
横っ面に食らったヘルハウンドが右方に吹っ飛ぶ。
後ろから迫るヘルハウンドの噛みつきにカウンターを合わせ、口角から背中まで裂いてやると、俺は跳躍。
飛んだ先には回し蹴りをお見舞いしたヘルハウンド。
横たわっているそいつの頭蓋に、両手で握ったランボーを上から突き刺した。
ランボーの刃先から青色が抜けていく。
よしっ、ミッションクリア。10秒、ほぼジャスト。
そして条件達成なわけだが――、
生死はともかく、6体のヘルハウンドが瞬間的に氷に包まれる。
ヒートのように、熱さでモンスターが断末魔の踊りを披露することはないが、フリーズは凍ったあとが見物だった。
俺はウィックを構えて、凍った6体に数発づつ打ち込む。
派手な音を立てて氷が破壊される。
当然、中にいたヘルハウンドも解体され、そこここに肉片が飛び散った。
なかなかのグロ映像である。
ランボーが白く光る。
レベルアップの時間だ。
【
【殺傷力 698→ 801】rankB
【親和性 112→ 139】rankC
■材質/
鉄
■スキル
弱毒付与24%・炎熱ヒート10s・氷結フリーズ10s
数値が上がっただけで、ほかに変化はない。
ゴブリン・レッドナイトを倒したあとだし、まあこんなものか。
ウィックは死後攻撃認定されて経験値はなし、と。
「マスター、お疲れ様でーす。とってもカッコよかったですよっ」
自販機の影からひょいっと出てくるアドメスが手を振りながら、こちらに向かってくる。
その後ろから、ヘルハウンドが忍び寄る。
「あ」
やべ、もう一体いたかっ。
「でも私も一体くらい、氷漬けのイッヌー、じゃなくてヘルハウンドを破壊したかったです。ストレス解消になりますからね。今度から残しておいてくだ――がっ!?」
ヘルハウンドに、頭を上からがっつり
うわぁぁ。