俺の巨砲が臨戦態勢になってすぐのことだった。
突然若い女の声が聞こえた。普段だったら大歓迎だが、このダンジョンに生きた人間は俺以外いないのは分かっている。
犬の首輪以外、何も身に着けていない若い女が四つん這いになってこちらに向かって来るのが暗がりの中にぼうっと浮かび上がってきた。よく見ると、頭には犬の耳がついており、お尻にはフサフサとした尻尾が揺れている。
裸でお散歩する趣味を全うできなかった未練を持つお散歩犬モンスターらしい。
彼女は俺の巨砲を見た途端、頬を赤らめて叫び、スリスリと巨砲に頬ずりした。
「キャー、なんて素敵な大砲なの?!」
「うううっ!」
水鉄砲の白い水がお散歩犬モンスターの顔にかかってしまったが、彼女はびくともしなかった。それどころか巨砲をがっちり掴んで離さない。
《Lv 10減らずに済んでよかったが、1匹目のヘンタイ・モンスターは昇天できておらんぞ》
「どういうことだ?」
《お前さんの巨砲の出す白い水をヘンタイ・モンスターが望んでいる場合、白い水をかけてやればヘンタイ・モンスターは昇天するんじゃが、他の物を望んでいる時はそのままじゃ》
「何だよ、それ。俺は他の物なんて持ってないぞ」
《そのヘンタイ・モンスターが望む物を頭の中に浮かべるのじゃ》
「そんなの知るか!」
俺は、一瞬、もう何もかも投げ出したくなった。でもやっぱり死にたくない。
何かヒントはないかと思い、お散歩犬モンスターをよく見ると、首輪が目に入った。その途端、俺の巨砲はシュルシュルと紐のような形に変わり、首輪にカチリとはまった。
「お、おい、俺の巨砲が!」
《情けないのう。こんなんでは5日以内にこのダンジョンを出られないぞ》
「ヒントをくれ!」
《犬の散歩じゃ》
「何だそれ……」
俺は、とりあえず巨砲が変身したリードを持ってお散歩犬モンスターを散歩させ、適当に暗がりを指さして言ってみた。
「ほら、あそこにいるイケメンから変態のお前がまる見えだね」
「いやん……」
お散歩犬モンスターは身悶えして恥ずかしがった。もちろんどこぞのイケメンがこのダンジョンにいるはずはない。だって、このダンジョン唯一のイケメンは、リードを持っているこの俺様しかいないからな、エッヘン。
「後ろの穴も丸見えだぞ。恥ずかしくないのか?」
「い、いやん……恥ずかしい……」
お散歩犬モンスターは、尻尾を振りながらお尻をフリフリした。俺はそのお尻をでろんと撫でてやった。お散歩犬モンスターは、ビクビクと震えて喜んだ。
「きゅうーん♡」
お散歩犬モンスターは、開いた口からだらりと舌を出したまま、涎を垂らして身体を弛緩させ、徐々に消えていった。それと同時に俺の巨砲もシュルシュルと元の形に戻ってから一発発射した。
《無駄撃ちすると後が辛いぞ》
「自慢じゃないが、俺は1日何度だってできるんだ」
《その分、持続力が問題なんだな》
「失礼な、そんなことはない!」
《名は体を表すとはよく言ったものじゃ》
俺がエア爺さんに抗議していると、突然目の前にぼうーっとチャットがズラズラと流れる画面が現れた。よく見れば、今の俺も画面に映っている。
“なんかあっけなさ過ぎだな”
“スパチャの価値なしww”
“スパチャどころか、普通の投げ銭ももったいない”
主にそんなチャットが流れてくる。
「何だよ、これ?! おい、爺さん、聞こえるか?」
《今のヘンタイ・モンスター昇天は、HenTubeでライブ配信されておったのじゃ》
「はぁ~?!」
《投げ銭1円につきLv 1が増えるのじゃから、配信に感謝してほしいくらいだの》
「投げ銭1円がLv 1?! 気が遠くなるな!」
《ただし今の配信じゃ、投げ銭ゼロだったがの》
「なんだよ、それ! それは爺さんがちゃんと教えてくれなかったからだろ?! ライブ配信してるって知ってれば、俺だって配信映えを気にしたから、投げ銭もらえたに決まってるだろ!」
《ほう、そうかい。次からはお前さんの実力を期待しておるぞ》
だが、俺はそれ以前の問題を思い出した。
「おい、爺さん、どうやって配信すりゃいいんだよ。今のはどうやって撮影したんだ?」
突然、宙に俺のスマホが浮かんで落下を始めた。開
「うわっ! ローンで買ったばっかなんだぞ!」
俺は慌ててスマホをスライディングキャッチした。忌々しくも、エア爺さんは答える労力を省いたみたいだ。
「ふうーっ、助かった……」
買ったばかりのスマホを手にした途端、疲労が全身を襲い、俺は床に崩れ落ちた。