お散歩犬モンスターを昇天させて俺はLv 100を獲得したはずなのに、この疲労感は何なのだ。
「おい、爺さん、お散歩犬モンスターを昇天させたのに、どうしてこんなに怠いんだ?」
《お前さんには、もうちょっとわしを敬う態度が必要じゃの》
「あ゙ー、分かったよ……ヘンタイ伝道師様、俺はLv 100を獲得したはずなのに、どうしてこんなに怠いんでしょうか? こんな感じか?」
《最後のが余計じゃが、まあ、いいじゃろう。お前さんのLvはお散歩犬モンスター昇天前の状態からプラスマイナスゼロなのじゃ》
「何だよ、それ! どういうことなんだ?!」
要は、俺の『失態』により、獲得Lvと喪失Lvが同じになってしまったらしい。
俺はお散歩犬モンスターを昇天させてLv 100を獲得したものの、モンスター昇天に不要な巨砲を無駄撃ちしたことでLv 100を引かれてしまった。それで今は、最初と同じLv 0になってしまったと言うのだ! そんなことが失態になるなんて、俺は聞いていない!
「なんだよ、5分以内にぶっぱなさないといけないって言うから急いだのに! こんな話は聞いてないぞ!」
《ホホホ、急がなくても出てしまったのじゃろう?》
「何言ってるんだ、そんなわけ……ゲフンゲフン」
巨砲が臨戦態勢になってから5分以内に撃たないとLv 10減ると脅した癖に、いざ5分以内にぶっぱなしたら、ヘンタイ・モンスターがそれで昇天しない限り、Lv 100が差っ引かれてしまう。こんな理不尽なことはない。
「おいおい、それだったら巨砲をぶっぱなさないで5分経過を待ったほうがよかったじゃないか! こんな理不尽なことがあってたまるか!」
俺はエア爺さんに怒って食って掛かろうとしたが、爺さんには実体がないんだった。それに実際、それ以上の文句を言う元気すら残っていなかった。俺はへなへなと崩れ落ちた。
「くそ、そんなの聞いてない~……」
《回復ポーション『ティンケル』を使えば、Lvが回復するぞ》
「〇ン蹴る?!」
俺は縮み上がって両手で股間を隠した。
《違う、違う。『ティンケル』じゃ。とにかくそれでLvが300上がるのじゃ》
「そんなにすごいのか!? 早くくれよ!」
現金なことに、力が身体に再びみなぎってきたように感じられて俺は立ち上がった。
《待て待て、そうは簡単に問屋が卸さないのじゃ》
「え?!」
エア爺さんの説明によれば、回復ポーション『ティンケル』はライブ配信の視聴者から入手するしかない。でも、無料で投稿できる通常のチャットではもちろんもらえず、俺のLvも一切増えない。
Lvを増やすには、投げ銭を含む有料のチャット、通称『スパチャ』をもらうのが1番効率良い。1番安い青スパチャとその次の値段の黄スパチャでは、それぞれライフレベルがLv 100、Lv 200増加する。
ティンケルは、1番高い赤スパチャの特典だ。しかも赤スパチャだけでLvが300も増える。ティンケルを飲めば、更にLv 300増えるが、その場で消費しないで後のためにとっておいてもよい。
青スパチャより安い投げ銭は、1円単位で99円まで設定されており、1円=Lv 1の計算だ。でもスパチャのようにチャットが強調されたり、固定されたりすることはない。
俺はそれを聞いて脱力してしまい、地面にがっくりと膝をついた。
「何だよ……今、体力回復したいのに……」
でもこのままでは終われない。大勢の美女達が俺(の巨砲)を地上で待っている。
「どうすれば赤スパチャをもらえるんだ……ですか?」
《それは視聴者のコメントをつぶさに読んで彼らの好みを把握するしかないのう》
「何だよ、それ……」
俺は、大して役立たないアドバイスをもらってがっかりした。だから、ぼぅっと光る丸い物体がふわふわと浮遊して俺に近づいてきたのに最初、気付かなかった。
『僕の名前はふぐりン♪』
『僕の名前はたまリン♪』
何だか懐かしいメロディに似たフレーズが聞こえ、俺が顔を上げたら、金色に光る丸いブツが2個、宙に浮いていた。
「何だ、これ?」
《この子達は、助っ人エロ妖精じゃ。Lvを回復してくれるが、気まぐれで神出鬼没じゃ》
「はぁ?!」
もっと説明を求めたのに、エア爺さんは《健闘を祈る》と言い捨てて後は反応しなくなった。
「おい、お前達、本当に俺のLvを回復してくれるんだろうな?」
彼らは俺に答えることなく、突然懐かしいメロディで歌い始めた。
『僕の名前はふぐりン♪』
『僕の名前はたまリン♪』
『2人合わせてふぐたまだ、君と僕とでふぐたまだ♪』
ふぐたまはそう歌いながら、俺の巨砲の根元の左右にそれぞれピタッとくっついた。その瞬間、ふぐたまと巨砲は黄金色に輝いた。あまりの眩しさに俺は目をつぶった。光が消えて目を開けた時にはふぐたまの姿はなくなっていた。
「うわっ?! 何だ?!」
“おっ、ふぐたまで復活!”
宙に浮かぶ目の前の画面にそんなチャットが流れた。
すぐに画面に大きく『Lv 100』とテロップがピロンという音と共に流れ、もう1度それが繰り返された。その後、画面の右下に表示されている俺のLvは200になっていた。
画面にはあっけにとられる俺も映っていた。
「え? 俺がまた映ってる?!」
俺がさっき右手に持っていたはずのスマホは、いつの間にか宙に浮いて俺を撮影しており、ライブ配信がまた始まっていた。