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第4話 おパンツ仮面【Lv 200】

 次に暗闇の中にぼぅっと現れてきたのは、ピンクのレースのおパンツを頭にかぶったマッパのヘンタイ・モンスターだった。


 マッパではあるが、ピンクのマフラーにピンクのグローブ、ピンクのブーツを身に着けている。マスクの代わりに頭にかぶっているおパンツの目に当たる部分には、銀行強盗のマスクみたいに穴が開けられており、本来脚が通されるおパンツの穴からはツインテールがにょきっと出てきている。


 かの有名なおパンツ仮面を彷彿とさせる恰好だが、このヘンタイ・モンスターには致命的な欠陥があった。ボンキュッボンの裸の女の子じゃなくて、腹の出たオッサンがマッパなのだ! しかも、穴から見える目はギラギラと血走っていてどう見ても正常ではない。


「おパンツ仮面、見参!」


「パン、ツー、丸、見え!」


 偽おパンツ仮面の登場宣言に対し、俺は最高の礼を返した。両手をパンと打ってからピースサインをし、指で丸を作って最後に目の前に手をかざす、あれだ。


“さむっww”

“何だよこれ”


 視聴者の受けは、残念ながらよくなかった。スパチャは期待できないみたいでがっかりした。


 偽おパンツ仮面も、俺の最高のギャグに反応するどころか、ヌンチャクを振り回して攻撃してきた。


「うわっ?! おい、危ないじゃないか!」


 俺のナイスな運動神経がなければ、ヌンチャクが当たっていただろう。


「おいおい、おパンツ仮面はボンキュッボンの女の子のはずだろ?! 俺は男を相手にする趣味はないんだよ」


「黙れ、おパンツ仮面の必殺技を受けてみろ!」


「おえー?! やめろーっ!」


 おパンツ仮面の必殺技と言えば、おっぴろげキックである。ボンキュッボンのおパンツ仮面が股をおっぴろげて敵に飛び蹴りするのだ。もちろん、敵の紳士諸君は食い入るように肝心の場所を見つめてしまうので、おパンツ仮面にコテンパンにやられてしまう……もちろん本物のおパンツ仮面の話だが。


 俺は男の(いや、オッサン)おパンツ仮面のおっぴろげキックなんて受け入れない! 受け入れたくない!


 ……だが! ここでひるんでいては5日以内にヘンタイ・ダンジョンを脱出できない。俺は自分自身を奮い立たせ、スマホに向かって決め顔で宣言した。


「逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ 逃げちゃダメだ」


すぐに好意的なチャットが流れた。


“おおwwその勇気にスパチャあげたいぐらいww”

“そうだよな、逃げちゃダメだよな”


「だったら赤スパチャくれよ……じゃなかった、ください!」


 俺は宙に浮かぶスマホを見上げて土下座した。


 その瞬間、ちゃりーんと音がした。


 ――おおっ、赤スパチャか?!


 俺は超期待しながら固唾を呑んで画面を見守ったが、表示されたテロップは残酷だった。


『投げ銭1円ゲット!』


「へっ?!」


“何だよ、投げ銭もらったのにその態度か”

“あれはないよな”


 俺を非難するチャットが目に入った途端、俺は我に返った。すかさず宙に浮かぶスマホに向かって愛想よくニタァと微笑み、90度に腰を曲げて礼をした。


「ありがとうございます、ありがとうございます!」


 俺が視聴者とコミュニケーションをとっている間も、目の前の偽おパンツ仮面は、紳士的に俺を攻撃せずに待っていた……と思いきや、よく見たら、俺の巨砲を凝視してフリーズしていた。


 俺のモノが巨砲なら、奴のモノはポケットピストルレベルと言える。ソレがアソコにちょこんと座している。いや、アレがソコにちんまりと座している、か?


 しかも奴のブツは、ビヤ樽腹にのめり込んでいて辛うじて先っぽだけが見えるだけだ。こんな状況でもしているらしいのに、亀さんの頭がチューリップのつぼみ状態になっている。


 偽おパンツ仮面にとっても、俺の立派な巨砲との大きな違いがショックだったようだ。


「クソーッ! ちょっと大きいからって威張りくさりやがって!!」


「威張ってないぞ。まあ、かなり違うことは確かだが」


“確かにちょっとの差じゃないよなー”


 俺はそんなチャットを見て鼻高々になった。だが、すぐに風向きがおかしくなった。


「俺は、本当は、一皮剥けて大きくなりたかったんだ! なのに……! 子供の頃からプールでも銭湯でもバカにされて……うわーん!!」


 偽おパンツ仮面がおパンツ泣き、じゃなくて男泣きし始めた。


“あーあ泣かせちゃったー”

“ヘンタって自慢たらしくて上から目線だよなー”

“おパンツ仮面の気持ち分かるな”

“お前も小さいからだろww”


 俺は風向きが悪くなってきて焦った。このままじゃスパチャどころか、普通の投げ銭すら期待できなくなる!


「すまん、そんなつもりじゃなかったんだが……」


 そう下手に謝ってみせた瞬間、俺と偽おパンツ仮面の股間が金色に光った。


「うわっ?! 何だ?!」


 黄金の光が消えて目を開けると、なんと俺の巨砲は偽おパンツ仮面に座していた! 俺のモノは?!と焦って下を見ると、ポケットピストルが付いていた。


「なんじゃこりゃあ!?」


 俺は両手を天に向け、絶望のポーズを取った。するとパチンコ屋で大当たりした時のような大爆音が響いた。大爆音の合間に『青スパチャ!』のコールが入り、青スパチャのメッセージが画面に固定された。その後には俺をたたえるチャットがずっと流れてきた。


【自己犠牲の精神が尊い】

“ヘンタやるじゃん!”

“巨砲を犠牲にしておパンツ仮面を救った!”


 Lv 100をもらえる青スパチャをもらえたのは嬉しい。だが巨砲の犠牲に対して対価が少なすぎる!


 一方の偽おパンツ仮面は、巨砲を振り回して大満足していた。


「この巨砲が目に入らぬか!」


 巨砲をブンブン振りながら、偽おパンツ仮面の姿は徐々に消えていった。


「俺の巨砲~(泣)待ってくれぇ」


【【ヘンタかわいそう】】


 大きな犠牲を払い、最後の最後で黄スパチャが入る大爆音とコールが響いた。これで俺のLvは501になったが、気分は最悪だった。

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