今日の客はスケルトンとスライムだった。
「って、スケルトン、お前飯食うのか!?」
スケルトンは骨だらけのモンスターだ。当然、胃袋はない。どうするの、これ。
「ワレは、付き添いナリ。スライムが食べる」
ああ、そういうことね。通訳役ってわけだ。
茜は、カメラを回しながら、「ウケる」と一言。
「スライム、何食うの?」
「投げ銭の準備OK」
「スケルトンの食事シーン見たかったわ」
コメント欄は、大いに盛り上がっていた。
茜は、スケルトンのお腹をドアップで映している。
こいつ、視聴者のウケを分かってるな。
「スライム、何が食いたいのだ?」
スケルトンの問いに、ポヨンと跳ねる。跳ねながらぐるりと一周する。
なんか、水まんじゅうみたいで、うまそうだ。
スケルトンはうなずくと、「ビールを希望だ」と通訳。
「え、ビール?」
まあ、希望通りのものを出すしかない。
ジョッキにビールを注ぐと、スライムの前に置く。
ってか、こいつ、どうやって飲むの? 手、ないぞ。
すると、スケルトンが手に取り、スライムの口に持っていく。
スケルトン、スライムに対して献身的だな。こいつら、めちゃくちゃ仲いいな。
スライムがビールを飲むと、体が黄金色になった。
「何これ」
「俺も飲んだら、黄色くなるのか?」
「スライム亜種誕生ワロタ」
まあ、コメント欄も盛り上がっているし、いいか。投げ銭、サイコー。
スライムが口をパクパクしたかと思うと、ぷるんと音を立てて分裂した。
「分裂!?」
まさかの展開に開いた口が塞がらない。
「スライム、追加のビール希望してる」
スケルトンはサラリと言う。
「えーと、もう飲んだのでは……?」
スケルトンは首を振ると、「モット飲んで、黄色になりたいとイッテイル」と謎の発言。
「コイツ、黄色になりたい。仲間と違うコト、自慢したい」
このスライム、マウント取りたいんかい!
まあ、希望なら出すしかない。
追加のジョッキをカウンターに置く。
スライムは、スケルトンの助けを借りて一気飲みする。
「プハー」
まるで人間みたいな反応だ。
「スライム、オッサンっぽくて幻滅した」と茜。
カメラは、二匹のスライムをドアップで映している。どちらも、きれいな黄色に変わっている。
っていうか、二匹も黄色のスライムいたら、珍しさが半減しないか? 他人事だが、スライムの群れでの扱いが心配になる。
そんなことを考えていると、次の客が来た。
それは、ドラゴンだった。子供の。
「え、ドラゴン……?」
「これ、ヤバくない? 私たち黒焦げにされない?」
さすがの茜も、事態を重く受け止めているらしい。
「ス、スケルトン、通訳頼むわ」
ドラゴンがしゃべれるとは思えない。
「ヨシ、分かった。コイツ、ウマイモノ希望してる」
いや、ざっくりすぎんだろ!
ドラゴンといえば、炎を吐くことしか知らない。たぶん、辛いの出せば満足するだろ。
「じゃあ、カレー出すわ」
ここ最近、ゴブリンが常連なので、カレーのストックは十分だ。ゴブリンは「甘い」と言っていた。ドラゴンが同じ味覚かは分からない。だが、激辛でもいけそうな気はする。
「はいよ、カレーだ。口に合うといいんだが……」
というか、口に合わなければ間違いなく死ぬ。
ドラゴンもまた、スケルトンに「あーん」をしてもらって、カレーを食す。
「ドラゴン、かわいいな」
「貴重なシーン、切り抜き完了」
「草」
さて、反応は……?
ドラゴンは、一口食べると食堂の外に出る。そして、口から炎を撒き散らす。
「ドラゴン、辛いとイッテイル」とスケルトン。
「ええー、激辛苦手なのか!?」
予想外すぎる。
「ドラゴン、ホノオ吐いてるのは攻撃じゃない。辛いから、クチからホノオを出している」
スケルトン、通訳助かる。ってか、辛いと口から炎が出るって、漫画の世界だけじゃないのか!
「まあ、そういうこともあるさ」
無難な言葉を返す。
いやー、食堂の外で炎を吐く常識あって助かったわ。マジで。
「コイツ、明日も来るとイッテいる。次は、アマイの希望らしいぞ」
二日連続でドラゴンかよ。っていうか、甘いの希望とかお子ちゃまかよ!
「分かった、明日も待ってるぞ」
スケルトンが通訳すると、ドラゴンは嬉しそうに首を縦に振った。辛さのあまり、涙を流しながら。
モンスターばかり相手してると、ストレスで禿げそうだわ。
この日の投げ銭は、いつも以上の金額だったのに気づいたのは、モンスターが帰った後だった。