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第3話 金髪男

 南の広場で悲鳴が聞こえた。行って何かできるのかは疑問だけど。今はとにかく人を助けないとこのままだと沢山の死人が出てしまう。


 怪我人を手当してくれている看護師さんの女性も悲鳴の聞こえた方を気にしている。


「すみません! ちょっと行ってきます!」


 南の広場へと駆ける。足が早くなっている? 僕ってこんなに颯爽と走れたっけ?


 出ている腹を揺らしながら走っているのにも関わらず、スピードは出ていると思われた。何せ周りの人も走っていたのに僕だけグングン抜いていくのだから。


 これはやっぱりステータスが上がっているおかげなんだろうか。そんなことを考えていたら、逃げ惑う人々が目に入った。


 人々の後ろにいたのはゴブリンとおもしきモンスターが三体。走っていた女性が転んだ。そこへ一体のゴブリンが近づいていく。


 まずい! 助けないと!


 視界は一気に変わり、ゴブリンが目の前に現れた。まただ。急に瞬間移動したみたいにゴブリンの前に来た。今度はあまり戸惑ってはいなかった。


「くっ!」


 今度のゴブリンは鉄パイプを持っていた。咄嗟に頭をガードすると衝撃が走るが素手で叩かれたぐらいの衝撃。思ったより軽いことに衝撃をうけたのだが、視線を上げると鉄パイプが曲がっていたのだ。


「ギギィ!」


 鉄パイプをみて何やら声を上げたゴブリン。もう一度振りかぶってきた。どうにもできないことがわかっているので、前へと踏み出した。


 そして、身体を丸めて突進する。僕は戦うことなんてできない。人を助ける為に少しでも遠ざけられたらいい。それだけの気持ちだ。


「うおぉぉぉ!」


 なんか軽い衝撃が身体に走ったかと思ったけど、音は思いのほか大きかった気がする。ちょっと目を開けると向かいの店の壁へゴブリンが埋まっていて絶命しているようだ。


「おらぁぁ!」


 声が聞こえた方へと視線を向けると、金髪のゴツイ男がゴブリンを殴りつけていた。しかし、ゴブリンはちょっとよろけたぐらいで蹴りを放ってくる。


 金髪男はそれを華麗に避ける。喧嘩慣れしているようで、なかなか強いのだろう。僕とは大違いだと思うけど、なんか僕倒せちゃってるんだよね。まぐれで。


 目の前のゴブリンに集中していたが、横からもう一体のゴブリンが迫っていた。引き留めていた人らしい人が膝をついている。


 やっぱりこのモンスター強いんだ。僕に倒せるわけない。たまたまだったんだ。


 そんなことを言っている場合ではなく。ゴブリンはバッドで殴りに来た。


「あぶない!」


 「ない」の辺りで金髪男とゴブリンの間に立っていた。振りかぶっていたバッドが襲い掛かって来るが、なんとかクロスした腕で受け止めた。


 初めてちゃんと攻撃を受け止めることができた。そして、身体が青く光り出した。なんだ?


「おぉ! おっさん、サンキュー! なんで光ってんの?」


「いいんだ。これは、僕にもわからない!」


 言葉尻に力を込めてクロスしていた腕を払いのけた。


「ギゲェ!」


 ゴブリンは地面を滑りながら遠ざかって行く。振り払っただけなのに、ゴブリンをなんとかできた。僕にも力があるのだと思うけど。今まで喧嘩なんかしたことないから……。


「やるじゃん! その光はたぶんスキルが発動してる! チャンスだおっさん!」


「そ、そうなの?」


 金髪男に言われるがままになんとかしようと考え、自分の好きなアニメの技を脳内でイメージする。僕の見ていたアニメ「その拳に愛を」という拳をぶつけて相手と分かり合うというコンセプトのアニメ。


 細かいことは、後で。


 足に力を入れて、駆ける。


 景色が流れていき、一気にゴブリンへと肉薄する。


「ローリングサンダー! うおおぉぉぉ!」


 駆けた勢いをそのままに、振り上げた右腕。

 右回転させて裏の拳をぶつけていく。

 ゴッという一瞬の音と感触が拳に伝わったが、その後。


 凄まじい音がしたと思ったら、ビルの一階を盛大に破壊し、肉片と化していた。


「えっ? そんなに……」


「おっさん! チョォー強いじゃん! やべぇエグイ!」


 金髪男はゴブリンをなんとか倒したみたいで、余裕の表情をしていた。なんでこんなに喧嘩慣れしているのかという疑問がよぎったが、愚問だなと思い聞くのを踏みとどまる。


「んー。なんか、たまたま倒せたみたいで」


「いやいや! マジで、西葛西の救世主になるんじゃない?」


 それは、カッコいいのか? よくわからないけど、目の前にいる人たちを守れるのならそれにこしたことはない。


「君は、すごいね。戦い慣れている」


 ドヤ顔の金髪男。こちらを満面の笑みで見ている。


「俺は、ショウってんだ。おっさんは?」


「僕は、ガイだよ」


 ショウは目を見開いて固まっている。何に固まっているのか理解できなかった。


「おっさん、名前カッコいいな!」


 あぁ。はいはい。見た目は冴えない男ですからねぇ。よく言われますよ。格ゲーにいそうな名前とかね。


「君もかっこいいじゃないか」


「ショウでいいぜ? なぁ、そんなに強いなら一緒に組んで、この辺の敵を一掃しないか?」


 それは、いい提案だけど。僕は別に戦闘狂というわけではないんだけど。


「僕は、別に戦いたいわけじゃあ……」


「あー。そうだよなぁ」


 僕の気持ちも汲んでくれているようで、ブツブツと「そりゃそうだ。普通のおっさんなんだもん。なんでこんなに強いんだろう」と聞こえるくらいの独り言をしゃべっている。


 協力はしたいけど、とりあえず人命救助かな。


「君は、スキル発動とかわかっていたけど、何かこの世界の異変について知っているのかな?」


「いや、ちげーよ。ただ、MMORPGのゲームみたいだったから、わかっただけ。スキルの使用中とかは発光したりしるんだよ」


 なるほど。ゲームかぁ。最近のゲームは忙しすぎてできていなかったからなぁ。僕がやっていたのはもう二十年も前。EE、エンドエリアという世紀末ゲームが最後だ。


 最近のはオープンワールドというどこにでも行けて、不特定多数の人とやりとりのできるゲームが主流と聞いていた。それが、こういう形で役に立つとはねぇ。


「ゲームの世界みたい、ということだね?」


「ステータスみた?」


 自分も表示しているのだろうか、虚空を操作しながら話しかけてくる。


「みたよ?」


「レベルは?」


 さっきは、53だったけど。と思いながらステータス画面を開くと57になっている。


「五十七かな」


「はぁぁぁぁ?」


 大きな声を出しながら顔を近づけて来た。


「あっ、低い?」


 なんか、レベルはインフラしてそうだからねぇ。


「違うしっ! 高すぎだろ!」


 高い? なんで?


「俺なんて、倒したゴブリン三体目だけど、まだ7レベルだぞ!」


 ええぇっ?

 待って待って待って。

 僕のスキル「情けは人の為ならず」って、そんなに強力なスキルなの?

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