目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第4話 マナー違反

 情けは人の為ならずというスキル名からなんか人とは違うっぽいなぁとは思ってた。でも、レベルの違いは圧倒的で、ショウと名乗る金髪男に驚かれたのだった。


「なんでそんなにレベルが高いんだ⁉」


「んー。なんでって……」


 僕はスキルのせいだと考察する。それを伝えようとしたのだけど、手で制された。


「いや、すまん。言わなくていい。スキルの詮索なんてマナー違反だった」


「んー? マナー違反?」


 首を傾げて問いかけると、ため息をついて腕を組む。僕が何かまずいことを言っただろうか。なんだかお説教する雰囲気だ。


「おっさん、いや、ガイさん。スキルってのはな、個人情報なんだよ」


「あぁ。そうなんだ。個人情報保護法?」


 思った法令を口にすると、それにショウくんは頷いてくれた。合っていたのだろうか。


「そう。あのな、ゲームの世界でもマナー違反があるんだよ。スキル名。本当はレベルも聞いちゃダメなんだけど、俺が先に聞いて教えてもらってしまったからなぁ……」


 苦虫を噛み締めたような顔をしている。別に僕は構わないと思っていたけど。でも、あまりにレベル差が開いているというのもダメな気はする。


 僕もゲームをしていないわけじゃない。最近のゲームをやる暇がなかっただけで、昔はゲーマーと呼ばれる類の人だった。


「僕は気にしてないよ」


「おっさんは気にしてなくても、俺が気にするわ。周りの人にも知られただろ?」


 レベル差が開いているということは、要望の眼差しを向けられ、時には虐げられ、時にはいいように使われるということ。そういう人を見たことがある。所謂、チート勢。


 チートという言葉は二十年前にはなかった。違う言葉だったと思うけど忘れた。


 たしかに、レベルを告げた時点でいろんな人から嫉妬の眼差しを感じる。そして、一番厄介なモンスターを倒して欲しいという要望の眼差し。


「まぁね。僕は、ひっそりと暮らしたいんだけどね」


 自分の要望を伝えてみるけど、ショウくんが許してくれたとしても他の人が許してくれないだろうね。どうしたものか。失敗したかもしれない。


「ガイさんの好きにしたらいいわ!」


 後ろを振り返ると、さっきまで怪我人を治療してくれていた看護師さんが声を上げていた。周りの人は何を言っているんだと言った風。


 けど、看護師の女性の目は何かを訴えていた。僕の好きにしたらいいといいながら、こっちの心配をしてくれているようなそういう雰囲気を感じた。


「そうしたいけど……」


 僕は、精神病を患っている。だから人の気持ちにも敏感だし、人には優しくしたいという気持ちがある。優しさというのは紙一重で、自分が優しくしていても相手から拒否される場合もある。それに、余計なお世話だという場合もある。


 それ以上に、人からの感情を凄く敏感に感じるのだ。治ることのない病気を持っている以上、うまく付き合っていくしかない。


「私は、アカリ。ガイさんが、ひっそり暮らしたいというならそうした方がいいわ。他の人なんか気にすることないわよ。さっき、散々人を助けたんだもの。好きなことをするべきよ!」


 アカリさんへと周りの人の視線が集中する。僕は周りの人がアカリさんを攻撃してしまわないかと凄く恐くなった。そうなってしまうと、選択肢は狭まる。


「うん。でも、大丈夫。できることをするよ」


 僕の返事で周りの空気が少し緩んだ。ショウくんまで心配そうにこちらを見つめてくる。自分の責任だと感じているのかもしれない。さっきは咄嗟にレベルを聞いたのだと思うし、仕方がないさ。


 僕も正直に答えてしまったし。レベルがインフラしていると勝手に思ってしまった僕の落ち度でもある。


「俺にも責任がある。ガイさんのしたいことを手伝うよ」


「私もガイさんとご一緒するわ?」


 なんだか、ショウくんとアカリさんが一緒に来てくれるという。そうは言っても、どうすればいいかがわからない。


「今は、まだしたいこともなにも……」


 自分の気持ちを正直に話した。まだ何もわからないし、この状況をどうすれば打開できるのかがわからない。それまでは、ゴブリンの様なモンスターをひたすら倒すことしかできないだろう。


「そりゃそうか。じゃあ、俺のチームはガイさんの傘下に着くよ。一緒に行動しようぜ?」


 意味がわからなかった。俺のチームって何? どういうことかな?


 戸惑っていると、ショウくんが号令をかけた。


拳武闘争けんぶとうそう集合!」


「「「ハッ!」」」


 僕たちの前にずらりと総勢十人の男女が並んだ。個性豊かな人たちが並んでいる。様々な髪の色、ピアス、刺青、スキンヘッド強面と言われるボクと無縁の人たち。


「これより、ガイさんの傘下へ入る! この人の指示は絶対だ! わかったか⁉」


「「「ハッ!」」」


 なんかよくわからないことになっているんだけど、この人たちが僕の傘下って、部下ってこと? そんなの無理だよぉ。


「ガイさん、こいつら好きに使っていいからな?」 


「えっ? いやー。使えって言われても、どうしたらいいのか……」


「じゃあ、まずは、この辺にいる怪我人を探すことからか?」


 僕の言っていること聞いてるかな。頭にハテナマークを作っていると、ショウくんはウインクをした。


「人命救助が、ガイさんの強さの秘訣かと思ったけどぉ?」


 ショウくんには、スキルもバレているんじゃないかと。そう思ってしまうほど僕の気持ちを見透かされているかもしれない。スキルもよくわからないし。


 でも、この世界でこのスキルを活かすなら、人命救助は必要不可欠だ。人を助けながら僕も強くなれるならその方が絶対いい。


「そうだね。人助けが、僕のしたいことかも」


 その答えに満足したように頷いてくれたショウくん。アカリさんへと視線を巡らせた。


「アカリ姉さんは、治癒担当かな?」


「姉さんていう程しっかりしてないし、なんで年上だと思っているのかわからないけど、それでいいわ?」


 アカリさんは凄まじい形相でショウくんを睨みつけていた。なんだか、凄い関係の三人になりそうだけどこれから大丈夫かな。


 とりあえず、状況を知る為にスマホは圏外だからテレビがあるところへ行こうか。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?