僕の家を出た一同は周りを警戒しながらしっかりと陣形を組んで歩いていく。僕を殿にしようというので、言われた通りにした。
何かあれば僕のスキルで助けに入れるからだ。前にはショウくんが陣取って、アカリさんの周りを囲んで円になっている。
ここからは歩いていくのが一番いいと思う。人を助けながらだけど。
何気に国会議事堂は遠い。歩いていくと結構かかるだろう。それも人助けしながらとなればいつ着くのやら。曲がり角を顔を出して敵の有無を確認しながら通過する。
ショウくんがハンドサインで指示してくれているみたいだ。これ、僕が殿でよかったかも。ハンドサインわかんないから。
後ろから来る敵も警戒しながら後をついて行く。目に入るビルやアパートは半分に折れたりして崩壊しているところが多い。店や住宅はガラスが割れ、人が片づけをしている場面も目にする。
「おばちゃん、怪我とかは大丈夫だった?」
ショウくんが側に寄って声を掛ける。
「いやー。ガラスが割れて大変だったよ! でも、あたしゃ部屋の奥で毛布に包まって寝ていたから無事だったのさ! はっはっはっ!」
豪快に笑うおばちゃん。運が良かったんだなぁ。こういう人もいるけど、モンスターに襲われてはひとたまりもないだろう。
「おばちゃんさ、変なモンスターがいるから気を付けてな? 人を食うかもしれないんだ」
「なんだいそりゃ! 恐いねぇ。家に引っ込んでるよ」
そう口にすると家の中へと入って行った。窓ガラスの割れている住宅がどれだけ安全かは疑問だけど。
「……せ!」
「……と……せ!」
なんだか騒がしい。あの方向は小学校があったと思うけど。避難所とかになっているのかもしれないな。誰かいるのかな。
「ガイさん、どうするっすか?」
「うーん。行ってみようか。助けが必要かもしれないし」
ショウくんは神妙に頷くとハンドサインで皆を先導して小学校の方向へと歩を進めた。ここまでモンスターには会っていない。あまり数がいないのかも。
マンションを曲がって視界が開けた。小学校のグラウンドが視界に入る。その奥には正門が。そこでは何かがうごめいていて必死に中へ入ろうとしているようだった。
「んんっ? なんか、あれゴブリンじゃないかな?」
「えっ? マジっすか? 全然見えないんすけど!」
目を細めて見ているショウくんは見えないらしい。アカリさんも首を振っているところを見ると見えていないようだ。
もしかして、レベルが高くなることで身体的な能力が上がることもあるのだろうか。まだ僕ほどのレベルになった人と会ってないからわからない。
だから、ステータスが高いのかどうかもわからないんだけど。
「僕、助けに行ってくる」
視界のうごめいているところを集中的に見つめて『助ける!』と心の中で叫んだ。すると、一瞬で視界が切り替わり、目の前にはゴブリン達が迫っていた。
腕を咄嗟に交差させて攻撃を受け止める。大きく息を吐いて心を落ち着けると同時に身体が青く発光を始めた。スキルが発動されたようだ。
僕には力がある。そう心の中で反復して唱えた。力が漲ってくる気がした。
「うぅぅおぉぉぉぉ!」
クロスしていた手を渾身の力を込めて切り開いた。
「ゲッ!」
「グッ!」
「ガッ!」
複数体いたゴブリンは一気に千切れ飛んでいった。残るゴブリンが鉄パイプで襲いかかってくる。防ごうとすると青い光は消えてしまった。
疑問に思った時はすでに遅く、腕に衝撃が襲い掛かる。あまり痛くはないはずなんだが、この時僕はビックリしていたのかもしれない。
気が動転して動けなくなってしまった。
鉄パイプを突いてきたようで、先端が目の前へと迫っていた。思わず目を瞑ってしまう。
「オラァァァ!」
鈍い音がした後に少し目を開くとショウくんが殴り飛ばしてくれていた。その他のゴブリンも仲間たちが倒してくれている。
ホッと一息つくと振り返ったショウくんが笑顔で労ってくれた。
「ガイさん! 流石っすね。一気に数体吹き飛ばしてましたね!」
「最初はよかったんだけど、スキルが切れちゃったみたいで焦っちゃった……」
「慣れだと思いますよ! スキルの効果時間を覚える必要がありますね!」
そうか。スキルにも使えている時間というものがあるんだ。それを僕は知らなかった。MMORPGなんてやらなかったものなぁ。
あれは、ネット環境でちゃんとコミュニケーションが取れている人がやるゲームだからね。難しいんだよねぇオープンワールドで誰にでも話しかけられるっていうのも。
「その辺のこと、後で詳しく教えて欲しいな。僕、あんまりスキルとかわからなくて」
すると目を見開いてキラキラさせて手を握ってきた。
「もちろんですよ! ガイさんに頼られるなんて嬉しいっす!」
顔のすぐ近くで大きい声を出されるとちょっと困るなぁ。
「あ、あのぉ。助けて頂いて有難う御座います!」
後ろから声を掛けてきたのは半袖のワイシャツにジャージを履いている男性と、オフィスカジュアルな姿の眼鏡をかけた女性、その他にも数人が後ろに立っていた。
「あっ。いえ。助けられてよかったです」
「もしよかったら、中に入って休憩していきませんか? それと、今の現状を教員達に教えて欲しいんですが……」
その言葉でわかった。先生だったんだ。必死で子供達を守っていたってことだね。頭が下がるよ。
「それなら、少しお話しましょうか」
ここにいる人たち、怪我は大丈夫なんだろうか。
食事はどうするつもりか。
考えないといけないことが多そうだね……。
これは、すぐには国会議事堂なんていけないぞ?