小学校に侵入しそうだったゴブリン達を排除した後、正門のバリケードを強化して中へといったん入って話を聞くことにした。
三階の一番端の教室を陣取って皆で固まって座っていた。人数は二十人といったところ。これだけ大きな小学校だというのに少ない。
「この人たちが、この小学校の生き残りなんですか?」
大勢いるであろう小学生のことを考えるとこれだけかという感じなんだけど。ショウくんはどうかなと思い視線を移すと、コクリと頷いている。
何やら納得している様子だ。
「そうです。夜だということもあり、親御さんと一緒にいた子達が避難してきたんです。犠牲になった子もいるかもしれませんけど……」
「なんか、生き残りなんて変な言い方してすみませんでした」
すぐに頭を下げる。僕の悪いところだ。すぐに悪い方へと決めつけるんだから。それで、今までどれだけ怒られてきたことだろうか。
あっ、彼女とかではなく会社の上司にだ。大昔に彼女がいたこともあるが、ここ二十年はいない。悲しい人生なんだ。
別に一人で生涯を終えてもいいと思っている。負け惜しみとかではけっしてないよ。うん。
「いえ。いいんです。本当のことですから。こんな状況で我々教師も困惑しています。私たちは残っていたから無事でしたが、帰った教員はどうなったのか、まだ連絡がありません」
眼鏡をかけた女性は悲しそうに俯くと今にも涙を流しそうな表情をしている。こんなことになってどうしていいのかがわからないといったところかな。
「あっ、今の状況ですよね。テレビってつきますか?」
「いえ……。なんかアンテナが壊れてしまったみたいで」
そうなると、さっき見たことを伝えるしかないけど。それでもいいのかな。
「そうなんですね。さっきテレビを見たんですが、この隕石が落ちたのは全世界に落ちたみたいです。でも、東京には四つも落ちたんですよ。たまたまかもしれないんですけどね」
僕がそう告げると眼鏡の先生は目を開けたまま固まってしまった。
「俺が思うに、これは宇宙からの侵略なんじゃねぇかって思うんですよ」
ショウくんが自分の考えをみんなに伝える。言っていることはわかる。でも、だとしたらなんでゴブリンなんだろう?
いや、そもそもあの生き物がゴブリンかどうかなんてわからない。それに、人では多い方がいい。
「ゴブリンが宇宙空間で生きているって言うの?」
「あのぉ、そもそもゴブリンって? ラノベのキャラクターじゃないんですか?」
ボクとショウくんの話に割って聞いてきたジャージ先生。それを知っているということは、ただものじゃないなぁと内心ちょっと嬉しい気持ちになる。
ラノベとかをみてないと出てこないキャラクターだからねぇ。
「そうですね。だから、もしかしたら異世界からの侵略なのかもしれない。それはわかりません。ただ、全世界の人は寝床がなく、食料がない状態だ。さらに外へ出たらゴブリンに殺されるかもしれない。身近な人だけでも守りたくて、僕たちは動いたんです」
冷静に今の状況を分析しないと。一先ず、生き残ることを最優先に動く。あとは、けが人はアカリさんへ任せて戦うのは嫌だけど、
先生も少ないみたいで表に出ていた二人と、この教室にいた小柄な女性の三人のようだ。
「とりあえず、安全な場所はないということですね?」
眼鏡の女性は冷静に、僕が伝えたことを整理してその結果に落ち着いたのだろう。
「そうです。だから、安全な場所を作ろうと思い、国会議事堂を拠点にしようと大胆なことを思いついたのですが、まだまだかかりそうです」
小柄な女性は「プフッ」と噴き出した。今の話が面白かったみたいで笑顔になっている。
「この方は?」
僕が眼鏡の女性に聞くと、ため息を吐きながらどうしたものかといった風に答えてくれた。
「彼女は、新任の先生で、今年の四月に採用となったばかりなんです。それなのにこんなことになって……」
「それは、災難でしたね。ここの皆さんと一緒にどうするか考えましょう」
眼鏡の女性は眉間に皺を寄せてこちらを見つめる。
「どうするか、とは?」
「このままここで食料がなく、餓死するのを待つか、移動しながら安全な場所を探すかです」
安全な場所と言ったが、そんな空間があるのかどうかはわからない。
「安全な場所、あるんですか?」
「あったら、テレビとかラジオで知らせがありそうですよね?」
眼鏡女性の質問に頭を掻きながら答えると頬を膨らませて不機嫌を露わにした。「結局ないんじゃないですか」と呟いている。
でも、国も何にもしないとは思えないんだけど。自衛隊は何をしているのか。ここにいる元自衛隊の人たちは動いているのに。
「ガイさん! 外が騒がしいです!」
アキトと呼ばれていた男性が声を掛けてくれた。窓へ駆け寄り、外の状況を確認する。何やら喚き散らしながら走ってくるのが見える。
男性と女性の二人だ。カップルだろうか。男性が後ろから女性を押して必死に逃げているようだ。よく見えないけど、何かに追われている。
「あの、後ろにいるの。ゴブリンっすかね」
「そうみたいだね。助けたいけど、スキルの効果範囲がどこまでなのかわかってないから試してみるね」
感覚的には見えればいけるって感じなんだよね。さっきはただ助けに入ったから三十秒ほどでスキル効果が切れたんだよね。
ちゃんとスキルの効果と時間を見ると、攻撃をしている時に助けへ入るのがいいみたいだから。
ゴブリンが手に持っている包丁を振り上げたタイミングで『助ける』と念じた。思った通り視界は切り替わりゴブリンが目の前だった。
手をクロスしてガードしたが、ゴブリンは嘲笑うように包丁を振り下ろしてきた。
腕に激痛が走る。これまでに経験したことがないほどの激痛。攻撃時に助けへ入ったことでステータスは五分間、三割上昇したはずだ。けど、この痛みは耐えられないかも。
「うぅぅぅぅ。くっそぉぉぉぉ」
「グゲゲェ」
嘲笑うようにもう一度ナイフを振り上げて来た。僕も反撃しようと前進して怪我してない方の腕を振り上げた。
横から石のようなものがゴブリンの頭へ当たり、注意が逸れた。いまだ。ゴブリンの顔の前で腕を寸止めする。青い光が身体を包み込み、腕の痛みが少し引いた。
やれる。
「うおぉぉぉぉ!」
がむしゃらに突進して体当たりする。ゴブリンは声を上げると粉々に吹き飛んだ。後ろで見守っていた男女は口をポカーンと開けて固まっていた。
「さぁ、一先ず中へ入りましょう」
とりあえずなんとかなったけど、刃物への対策考えないとだね。鍋でも使おうか。家庭科室から失敬しようかなぁ。
これからどうするか、皆で考えないと。見捨てることなんてできないし。