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 五月は書斎で本を読みながら、忙しく動き回るハーベンの姿をちらちらと盗み見ていた。気づかれたいけれど、こちらを見てほしくない。そんな気持ちで穏やかな顔で仕事をしているハーベンへ視線を向ける。すると、ふっとハーベンの笑みが深まった。

「はかどると思ったけれど」

「え?」

 銀色の髪をかき上げて、ハーベンがつかつかと五月が座っているソファへの方へと歩いてくる。五月は彼を見ていたことがバレてしまったのかと、手にしていた本で顔を覆った。その本を柔らかな手つきで取り上げたハーベンは笑っている。

「同じ部屋に君がいたら、構いたくて仕方ない」

「――……あ」

 ハーベンの白くて骨ばった手が五月の顎に添えられた。されるがままに上を向くと、羽が触れるような口づけが降ってくる。額に瞼に頬に、そうして最後に唇が重なった瞬間、五月の体を甘やかなしびれが襲った。

「ん、う……」

 長いキスではないはずなのに、五月の口からは吐息交じりにつうっと銀糸が零れ落ちる。唇を離したハーベンが、微笑みを浮かべたままそれを指先で拭ってくれた。

「サツキ、愛している」

「ん、僕も。ハーベン」

 もう一度、今度は本当に軽く唇を合わせて、ハーベンは五月の手を取りソファから立ち上がらせる。

「どうしたの?」

「今日はもう仕事はやめだ! 昼食を摂ったら庭に出よう」

「ぼ、僕のせい?」

「私のためだよ」

 少しおびえた目をした五月の頬に手のひらを当てて、ハーベンは笑いながら答えた。そしてつないでいる方の手を軽く引っぱって書斎を出る。ハーベンが調理をすることを差し引いても、まだ昼には少し早かったが、二人は食堂へと歩いて行った。

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