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神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―
神が愛した、罪の味 ―腹ペコシスター、変装してこっそりと外食する―
椎名 富比路(しいな とみひろ)
異世界ファンタジースローライフ
2025年06月22日
公開日
6万字
連載中
神に仕えるシスター・クリスの趣味は、こっそり食べ歩きである。 懺悔室で教えてもらった、場末の大衆食堂。 ダンジョンで戦ったモンスターの肉を使った、チーズハンバーグ。 屋台のラーメン。 王宮御用達のスイーツ。 罪とわかっていながらも、食べ歩きはやめられない!

ダブル炭水化物は、罪の味

チャーハンは、罪の味

「これは、罪深うまい!」


 パラパラのお米と、それをサポートする具材のコントラストがたまりません。

 シャキシャキのネギ、引き締まったチャーシュー、そして絶妙な絡み具合の卵が、手を取り合っていますね。

 具材は、たったこれだけ。なのに、こんな深みが出るとは。


 添え付けのスープも、うれしいです。温まりますね。


 ここは場末の大衆食堂です。

 わたしは、ここのチャーハンがおいしいと情報を聞き、仕事を抜け出して食べに来ました。


 いやはや、大当たりです。

 変装してまで、食べに来たかいがありました!


 しかし、なんという罪深さでしょう。


 わたしは店主の処遇をいかようにすべきか、悩んでいました。


 このパラパラチャーハンのお米みたく、思考がバラけてまとまりません。


 なぜなら、店主はスケルトンだから。


「うまいものを食べてもらいたい」という一心で、彼はこの地にとどまっているのでした。

 もちろん、毒なども入っていません。ただただ、おいしいです。

 彼は、何ひとつ悪いことはしていません。



 しかし、どういたしましょう。


 わたしは、アンデッドの浄化を使命とするシスターなのです……。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「おはようございます、シスター・クリス」


 後輩の修道女たちが、わたしに声をかけてきました。


「ごきげんよう」


 わたしも、笑顔で返します。


「本日もよろしくお願いしますね」


 わたしがみなさんに声をかけると、後輩たちは「はいシスター」と返事してくれました。


 後輩とのあいさつを終えたわたしは、教会の外で掃き掃除をします。


「おはようさん、クリスのねーちゃん!」


 冒険者さん一行が、わたしに声をかけてきました。


「みなさん、おはようございます。今日は戦闘ではないのですね」


 わたしは時々、彼らとダンジョンを回ったりするのです。

 今日はお役御免のようですね。


「ああ。採取だ。食材用のキノコと、ウサギを取ってくる」


 大剣を持った冒険者さんが教えてくれました。 


「今日もお美しいですね、シスターは」


 引き締まった身体の女性シーフさんが、わたしを褒めてくださいます。


「いえいえ。みなさんには及びません」


 よかった。夜中に二軒隣のラーメンを食ったことは、バレていないようですね。


「またダンジョンに潜ることになったらよろしく」


 冒険者さんは、採取ミッションに向かいました。


「はーい。また次回」


 手を振って、わたしはお見送りします。


「シスター、交代のお時間です」

「はーい」


 迷える子羊に神の声を届けるため、わたしは今日も懺悔ザンゲ室に向かうのです。


 人が二人入るとキツキツの箱に、わたしは身体を沈めました。


 おっ、さっそく迷い人が入ったみたいですよ。 


「迷える子羊よ、お入りなさい。神はすべてを赦してくださいます」

「お願いします」


 女性の声ですね。


「あなたは、どんな罪を犯したのですか?」

「実は、ダイエットに失敗してしまいまして」

「ほほう」

「ランニングをしていたときです。やけに古びた定食屋を見つけてしまって」


 なんでも、いい香りにつられてホイホイ入ってしまったとか。そのときはちょうどお昼時で、市場も賑わっていたそうです。


「店に入ると、お昼からエールで始めてらっしゃる方もいまして」

「なんと罪深い……」


 わたしはお酒を嗜みませんが、みんなが働いている中で飲むお酒というのは、さぞおいしいのでしょう。実に罪深い!


「せっかくなので、私も一杯ひっかけてしまいまして」


 ひっかけるんかい!


「鹿肉とからめた、野菜炒めをおつまみに」


 この罪人めえ!


 わたしのお腹が鳴ってしまいそうじゃないですか!


「そこのキクラゲ入りチャーハンが、それはもう絶品でして」

「その話詳しく!」 


 思わず壁をぶち抜かんばかりに、わたしは身を乗り出してしまいました。


「あの……」

「し、失礼しました。続けなさい」


 神に仕えし者が、壁ドンしてしまうとは……。わたしも、修行が足りませんね。


「きくらげチャーハンは、あの店の看板メニューでして、抗うことができず」

「わかります。適度に油の乗ったチャーハンとは、罪の味です」

「ですよね! 酒のシメに合うんですよ!」


 相談者もノッてきました。


「米はパラパラで、全然パサパサしてないんですよ、卵もふわってして、具材もシャキシャキしていて」


 ああ、もうガマンなりません。


「ザンゲは……なさらなくて結構です!」

「え!?」


 相談者が、驚きの声を上げます。


「その代わり、お店への詳しい道のりをメモなさい。書けたら、この壁の隙間に差し出すのです」

「は?」

「穢れは、あなたから発せられてはいません。その元から絶ちましょう」

「え、店を潰すおつもりですか?」

「とんでもない!」


 思わず、大声が出てしまいました。

 いけません。これではわたしの正体がバレてしまいます。


「そのお店に出向いて、祈りを捧げましょう。きっと煩悩を断ち切れるはずです!」

「は、はあ、なるほど。ありがとう、ございます」


 紙が、わたしの元に差し出されます。



 お店につながるメモを、ゲットしました!

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