力自慢なはずのドワーフさんは、身動きが取れません。
腕力だけでゴリ押してくる相手の対処法なら、シスターローラからコッテリ指導を受けたもので。
「誰も、お食事の邪魔をすることは許されません」
「なんだと、人間のメスが偉そうに!」
もうひとりが、硬直しているワタシにアッパーを仕掛けてきました。
「偉そうなのはあなた方です。ホアタァ!」
押す感じで肩を蹴り、わたしは相手の殴る威力を殺します。彼にも片手でアームロックを。
「痛い痛い!」
指を極められると、痛いんですよね。力が抜けています。
カメラマンさんが、バシャバシャとストロボを炊きました。
「イデデデデ! 放せ、このやろう!」
「技は解きません!」
二人の肩を極めます。
「モノを食べるときは、誰にも邪魔されず、救われていなければいけません。あなた方は、その禁を破った。これ以上騒ぎを起こすようなら、ご退場願います!」
腕を折らないまでも、彼らにはしっかりと食べ物が台無しになった痛みをわかってもらわねば……。
「そこまで」
カメラマンさんがストロボを炊いて、ドワーフさんを黙らせます。
「もう抵抗しないでしょう。顔写真も撮ったし」
わたしは、カメラマンさんに肩を叩かれて技を解きました。
「お店で暴れたから、わたしも退場ですかね?」
結果的に、お店をめちゃくちゃにしてしまいましたからね。失礼したほうがいいのかも。
「いいえ、撮ったのはこいつらだけよ。伯爵に見せて、厳重注意してもらうわ。親も割り出せるから」
カメラマンさんが言うと、ドワーフ貴族さんたちは震え上がりました。
「ひええ! 出禁だけは勘弁してくれ!」
ドワーフ貴族さんたちが、カメラマンさんの脚にしがみつきます。
「それは、今後の振る舞い方次第よ」
ビシッと、カメラマンさんが伝えました。
貴族の二人は、カメラマンさんの胸元についた称号を見て、青ざめます。
なんと、カメラマンさんは子爵様でした。
「仲良くなさい……とは言わないわ。オタク同士である以上、議論がエキサイトするのは仕方ないもの。けれど、周りの迷惑も考えてちょうだい。ここは、あなたたちだけが騒いでいい場所じゃないんだから。いいわね?」
「……はい。すいませんでした」
お説教を受けて、ドワーフさんたちが黙り込みます。
うなずきながら、カメラマンさんはスタッフにだけ写真を提供します。
ドワーフ貴族さんたちは、「イエローカード」の扱いにとどまりました。今度暴れたら出禁にすると。
お店に戻ると、コックさんとエルフさんが見つめ合っていました。
ふたりとも、モップを持っています。
床を掃除してくれていたのでしょう。
「……あの、ケガ……は」
「だ、大丈夫です」
ダークエルフのシェフと、エルフメイドさんは、互いに無事を確認し合います。
「えっと、いつもありがとうございます。これからも、仲良くしてください」
か細い声で、エルフさんはダークエルフさんに告げました。
「ぼぼぼ、ぼくでよろしければ」
相手の反応も、上々です!
これは、うまくいったかもですね!
「あ、すいません! すぐに作り直します」
我に返ったコックさんが、厨房へと戻っていきます。
「あの、ありがとうございました」
エルフさんが、頭を下げてきました。
「おケガがなくて、なによりです」
わたしはおじぎをして、席に戻ります。
「それにしても、子爵様でしたか。存じ上げませんでした」
カメラマンさんは、「いいのいいの」と返してきました。
「戦場カメラマンだったの。戦時中の事故で、元の性別とはサヨナラしちゃったんだけれどね。死にかけていたワタシを、伯爵が助けてくれたの。それからは、ずっとお友達」
ウインクをしながら、カメラマンさんは伯爵とのいきさつを話してくださいます。
「では、おまたせしました。ハニートーストです」
待ってました……って、さっきより豪華なんですけど!?