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ようやくありついたハニートーストは、罪の味

「小さいサイズで構わないと言ったんですが?」

「助けてくださったお礼に、ミニでもデラックスにしてみました」


 これはもうまさしく、お菓子の家ならぬ「お菓子の城」と言えます。


 お皿にチョコのソースが散りばめられて、ぜいたくこの上ありません。


「アイスから、いただきます」


 う~んっ。これは、実に罪深うまい!


 パン一斤だったので、食べられるかどうか不安でしたが、これは入っちゃいます。トッピングなどが控えめなのが、またシンプルで素晴らしい。隣の席なんて全部乗せですからね。


 カットされたいちごを一口、いただきます。これもまた、パンと調和しています。天然のジャムですよ! バナナも、酸味がきいてまた格別ですね。


 味としては、豪華なフルーツサンドといえましょう。教会でも出るのですが、あっちは普通にジャムっぽく扱っているだけです。お砂糖も控えめで、ほとんど果物の甘さしかありません。


 なのに、これはお砂糖の爆弾ですね。


 どんどん、お城を崩していきます。浴槽の中身へ。


「中身は、全部食パンなんですね」


 さいの目に切って、バターを染み込ませています。あ~、サクサクですね。アイスを塗って食べる、と。


「なるほど。なるほどなるほど。あーなるほど」


 もう、語彙力が死にますね。咀嚼するだけで、感激です。サクサクっとした食感が、癖になりそうですね。 


「ごちそうさまでした」

「お気に召しましたでしょうか?」

「はい。とっても。お二方も、お気持ちが通じ合ってよかったです」


 わたしが言うと、二人が恥じらいながらも仲良さそうにします。

 その風景が、わたしにとってなによりのごちそうかも知れませんね。




 ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ ~~~~~ 



 あれから、どれくらい経ったでしょう? 時々思い出します。



「こんにちは。また来ちゃいました」

「ちーす! いらっしゃーい冒険者さん」


 ミニスカートが眩しい制服に身を包んで、日焼けエルフさんが出迎えてくれます。


 ゴートブルのハンバーグを食べに、わたしは再び喫茶店を訪れました。こちらのご夫婦も、共にエルフさんなんですよねぇ。だから、思い出したのかも。


 元気にしていらっしゃいますかね?


「また焼けましたね」

「そうそう。見てココ」


 エルフさんが、服をめくります。鎖骨付近に、ブラ紐の日焼け残りがありました。


「――ッ!」



 わたしは……息を呑みます。


 彼女の鎖骨に、星型のホクロを見つけました!



 あのときわたしが助けたエルフさんは、この人だったんですね!? おそらく厨房のダンナさんも。



 人って、変わるものなんですねぇ。まあ、あれから半年も経ちましたから。



 当時はわたしも化粧が濃かったので、あちらもわたしを覚えていないようですね。



「どうかした?」


 エルフさんがキョトンとしていました。


「いえ。胸があってうらやましいなと。それよりハンバーグを」

「あいよーっ!」




 いやあ。まさかあのエルフご夫婦が、あのときのカップルだったとは。いいことはするもんですね。



「あれ、帰ってたの? シスター・クリス」

「シスター・エマ。ごきげんよう」


 教会に帰ると、エマさんがザンゲ室の番をする場面に出くわしました。


「ちょっといい感じのご夫婦を見かけまして。こちらまで気持ちよくなるくらいでした」

「よかったわぁ。あたしが見てあげたカップルの一人かしら? そういえば、半年前のカップルなんてもうザ・根暗って感じだったわ」


 エマさんが、当時を語ります。あれ、どこかで聞いたことがありますね……。




「なんか、『ダンナとマンネリなんですー』っていうから、『日サロにでも行けば?』ってアドバイスしてあげたのね。そしたら後日、喜ばれたって。口調まで変わってたわ」



 な、なるほど。元凶はここにいましたか……。


「どうかした?」

「ええっ、い、いえ。なんでもありませんよー」




                 (ハニートースト編 完)

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