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結成、ランペイジ商会

「こいつでどうだ? どうせお得意先になるんだ。いいよな?」


 ボコッと空いた穴を親指で差しながら、コナツがドヤ顔を決める。


「上等だ」

「じゃあ、飲みながら話を聞こう」


 もう、そんな時間か。


「ウチに寄っていくか? 母ちゃんも紹介したいし」

「遠慮するよ。できるだけ、人には聞かれたくないんだ」

「そうか。じゃあ、酒だけ持ってくるから待ってろ」


 そういって、コナツが厨房へ引っ込んだ。


 ドンガラガッシャーン! と激しい物音が。


「何事ですか!?」

「わからん。が、だいたい察しが付く」


 数分後、酒瓶を持ってコナツが戻ってきた。頬に大きな腫れができている。


「家に穴を開けたって話したら、ぶん殴られた」

「そりゃあ、そうだろう」

「まったく。また修繕すりゃあいいだろって言ったって聞かねえんだから」


 サピィとの商談が終わり次第、夜通しで修理しろと念を押されたらしい。


「あとこれは、母ちゃんからな。お客さんがいるなら、つまんでもらえってよ」

「うわ。こんなにたくさん! ありがとうございます!」


 何人分あるのかというステーキを、コナツはもう片方の手に持っている。


「母ちゃん、息子の面倒で手が離せねえってさ」 

「ありがたくいただくよ」


 自己紹介を終えて、昔話を肴に夕飯が始まった。俺とクリムの故郷であるこの街に、コナツがやってきたのだ。奥さんとの仲を取り持ったのも、俺である。


「オレと組みたいんだって?」

「コナツさんは、我々の専属鍛冶屋ってことになります。売り手側として、我が商会の名前を考えないと」

「それなんだが、【ランペイジ】ってのはどうだ?」

暴れん坊ランペイジですか?」

「ああ。ランバートは昔、ランペイジって言われててさ」


 別に大したことではない。ランバート・ペイジを短くして、『ランペイジ』と言われていただけだ。暴れん坊だったこともない。


「やめろ。照れくさい。黒歴史だ」

「お前さんから名乗ったんじゃねえかよ!」


 言いながら、コナツがジョッキを俺に向けた。


「そうだったか?」

「ああ。ガキの頃だ」

「カッコ悪いったらなかった。だが、オレはランペイジに何度も助けられた」


 コナツは武器を作るのは達者だが、ハンターとしての素質はゼロである。それを周りからからかわれては、俺とクリムがフォローに回った。


「意外ですね?」

「だって、魔物なんて言葉が通じないんだぜ?」


 これだけで、コナツがいかにハンターに向いていないかわかる。


「クリムだって、ランバートを悪く思っていない」

「あの、クリムさんとは?」

「こいつの仲間だったやつだ。射撃の腕は一流だった」


 結局、俺たちは離れ離れになった。しかし、後悔はしていない。俺はこうして、新しい仲間に会えたから。


「まあ、とにかくだ。ランバートがエンチャンした宝石を、この在庫にはめろってんだろ? だったら、ランバートっぽい名前がいいかなって」

「素敵です」


 こうして、商店名は採用に。


「では、私の話を聞いていただけますか?」


 サピィは、自分が魔族だと語った。その後の経緯も。


 コナツが、ノドを大げさに動かして酒を飲む。


「マジかぁ。でも、商人さんだってんなら、仲良くするに越したことはねえ。よろしくな」

「軽っ!」


 俺は、思わず呆れた。コイツ、ノリが軽すぎる。心配して損をした。


「てっきり、周囲にバラすかと思ったぜ」

「バラしてどうなる? 上得意を、一人失うだけじゃねえか。商売ってのは、信用が大事なんだ。しかも独占できるってんなら話は違う」


 そう。俺が提案したアイデアに、コナツは二つ返事で乗ってくれた。


「武器にそのなんたらジュエルを組み込んで、売ると」

「ああ。そのためには、お前の力がいる」


 初心者ハンターだと、レア以上の武器を獲得しにくい。かといって、店売りの武器では火力に難がある。

 そこで、俺がジュエルを集めて、拾ってきた装備ごとコナツに買い取ってもらうことにした。

 装備をコナツが加工し、レアより手の届きやすい値段で販売する。

 下手に素人が作って売るより、名のしれた鍛冶屋に任せたほうが安全だ。


「ただのロングソードを、アレだけ強化したんだ。あの剣がなければ、突破しきれない状況はいくつもあった」

「そのようだな。ダンジョンも変質していたっていうから、心配していたんだ。取り越し苦労だったけれどな」


 強い酒を煽りながら、コナツはガハハと笑う。


「まあ、お前さんが拾ってきたこれらの装備品では、たとえ強化したとしても限界がある。ランバートの加護が必要だってんだろ?」


 俺の施したエンチャントをプラスして、扱いやすい装備として売れば、新米ハンターの生存率は飛躍的に上がるはずだ。

 もちろん、必要以上に強くしすぎないレベルで。


「お前の案は、アイテムを腐らせずに済みそうだ。オレが必要な分以外は持っていけ」

「おう、とりあえず、持って帰ってきたバルディッシュにジュエルを仕込むか。どれがいい?」

「サファイアを頼む。もう氷のエンチャント済みだ」

「よし。任せろ」 


 打ち合わせを終えて、俺たちはセーフハウスへ戻る。

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