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第3話


 ペガサスの背で揺られながら、奏はただ茫然としていた。林の中、あの罠の穴で告げられた宵の言葉が、耳朶にこびりついて離れない。


「光が嫌いだから。俺は闇の人間だ。あんたの歌は耳障りなんだよ。キラキラして眩しくて。目が潰れるかと思う。反吐が出る」


心底嫌いだと言わんばかりの表情と、突き放すような冷たい声。だが、その言葉とは裏腹に、傷の手当をする宵の手つきは、いつものように優しかった。あの温度、あの感触。そして、最後にペガサスに乗せてくれた時の一瞬だけ触れた指先の記憶。すべてが矛盾している。

 宵は本当に、闇の人間なのか?

 もしそうなら、なぜ彼は今まで、傷ついた自分を拒まず、安らぎを与え続けてくれたのだろう。




 一方、宵は魔獣の背で林を駆け抜けながら、自らの言葉に苦々しく舌打ちした。

 「反吐が出る」――あれは言いすぎた。奏のあの傷付いたように開かれた瞳が、今も脳裏に焼き付いている。任務のためとはいえ、あそこまで酷い言葉を投げかける必要があったのか。

 しかし、これで良い。彼はもう、自分に関わることはないだろう。そう、それが最善だ。

 だが、レグナスの仕込んだ媚薬の熱が、まだ身体の奥でくすぶっていた。頭では理性的に判断しようとするのに、指先には奏の肌の感触が、唇には彼の甘い祝福のキスが、生々しく残っている。

 闇の中で生きる忍びにとって、感情は任務の邪魔にしかならない。そう、自分に言い聞かせるたびに、胸の奥がちくりと痛んだ。

 レグナスの元へ向かう宵は、おそらくこれが最後になるだろうと、真の主へと魔獣を飛ばした。





 傷付いた奏は無意識に宵の薬屋へと足を運んでいた。

 もちろん、扉が開くことはない。

 怪我をしてやってくると、彼はいつも困った表情で出迎え、小言を言いつつ優しく手当してくれた。

 それが今日は無い。

 優しく笑いかけてほしい。

 あの美しい瞳で見つめてほしい。

 落ち着く優しい声を聞かせてほしい。

全て夢だったと。

 出迎えてほしかった。

 奏は現実を受け止められず、戸口に座り込んでしまった。

 こんな気持ちになるのは初めてだ。

 光を届けるはずの自分が、闇を抱えている。

 ただただ宵に会いたい。



「奏様!!」


 側に人影が見えた。

 焦ったように自分の名前を呼ぶ。

 奏は虚ろな視線を向けた。


「奏様、どうか私の宵を、宵を助けてください!」


 そう、奏の手を取って悲痛に叫ぶのは、この国の王だった。


「国王陛下!?」 


 ハッと我に返る奏。

 慌てて正座して頭を下げる。

 国王陛下も正座し、奏の手を握り続けた。

 国王陛下が宵を『私の宵』と言っている意味が分からない。

 何も分からない。

 国王陛下がここで正座している意味も分からない。

 本当に何もかもが分からず、混乱する奏だった。

 本当に何もかもが夢なのかもしれない。






「レグナス様、申し訳ありません。任務を失敗しました」


 レグナスの元を訪れ、頭を下げる宵。

 身体が熱い。その熱はどんどんと強くなっていた。


「また失敗したか。近うよれ」

「はい……」


 レグナスの感情は読み取れない。

 宵はおずおずとレグナスの側に向かい、足元に正座した。


「身体はどうじゃ? 熱くて堪らぬのではないか?」

「うっ……」


 フッと笑い、レグナスは宵を軽々と持ち上げると、自分の膝に跨がらせた。

 股間が刺激され、宵は顔を歪める。


「なぜ私に媚薬を?」


 涙目でレグナスを見つめる宵。

 宵の眼鏡を外すレグナス。


「可愛いのう、宵」


 レグナスは宵の質問には答えず、ただ宵を愛でる。

 頬に手を添えると、先程つけた傷の上から、バツ印をつけるように爪を滑らせた。


「ひうっ! いやあぁぁ! アアァァ!!」


 途端に宵から甲高い声が上がった。

 バシャバシャと、股間が濡れる。

 宵自身、自分がどうなっているか分からない。

 ただ急に殴られるような、乱暴過ぎる快楽に頭がおかしくなりそうだった。


「さらに強い媚薬を流し込んだ。どうだ? 気に入ったようで何よりじゃな」


 ハハハッと笑うレグナスは宵を抱き抱え、寝室に運ぶ。


「うぐっ、ひっ、ああ……」


 その刺激だけでも今の宵には強く、さっきから宵はずっとイきっぱなしである。

股間がバシャバシャなのは、失禁してしまったようだ。


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