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第4話

「ひゃっふー! 二十九! 二十九万人ですよ!」


 自宅のベッドに寝っ転がって、YUUKIは足をバタバタと動かした。

 シロとチームを組んだ配信一つだけで、鈍化していたチャンネル登録者数が一気に動いたのだ。

 YUUKIの喜びは当然だろう。


 YUUKIとシロがチームを組んだ配信動画は、主にシロという美少女目当てで現在も拡散が続けられており、次の配信では三十万人達成を狙えるところまで来ていた。

 一方のシロのチャンネルも、既にチャンネル登録者数が三万人を突破したらしく、シロからYUUKIへ喜びのメッセージが届いていた。


 また、YUUKIにとって幸いだったのは、シロが戦力に数えられることだった。

 チーム結成後、互いの実力を知るためにポイズン・スネイクを一匹呼び出して、一対一で戦った。

 もちろん、YUUKIはあっさりと剣の一振りで倒し終えた。

 一方のシロも、小さなハンドガン一発で、ポイズン・スネイクを仕留めてみせた。

 あくまでも配信を映えさせるためだけに組んだYUUKIにとって、シロが戦力となることは嬉しい誤算だった。


「駆け上がるぞ!」


 YUUKIの野心は燃えていた。

 シロと組めば、チャンネル登録者数三十万人はおろか、五十万人も見えてきたのだから。




「うぃっす、うぃっす。YUUKIです。本日はついに、神龍のダンジョン地下四十五階を攻略していこうと思います」


「頑張ります!」


『白たん! 白たん!』


『白たん! 白たん!』


 YUUKIの配信に流れるコメントは、今ではシロの応援一色だ。


「うおおおい! 俺の配信だっつーの!」


「なんか、ごめんなさい」


 だが、YUUKIは気にしていなかった。

 シロへの応援だろうと、シロ目当ての視聴だろうと、同じ視聴者だ。

 同時接続者数一万人。

 YUUKIが視聴者を煽って盛り上げる前からこの数字は、YUUKIにとって驚異的だ。


「じゃあ、行きますか!」


「はい!」


 YUUKIとシロの連携も、だいぶん形作られてきていた。

 基本的には、シロのハンドガンという遠距離攻撃で魔物を仕留め、ハンドガンでは仕留められないほど頑丈な魔物がいればYUUKIが接近戦によって仕留める、という形だ。


 先頭を歩くYUUKIがライトによって魔物を発見し、シロが撃つ。

 倒せば二人でハイタッチ。


『ああああああああああ白たんの手えええええええええええ』


『YUUKI屋上来いやああああああああああああああ』


 そして、コメント欄に溢れる嫉妬の嵐。

 完全な、一つの様式美が完成した。


「地下四十五階、攻略!」


「やりましたね!」


『うおおおおおおおおおおおおおお』


『ついに』


 YUUKIとシロ。

 二人の活躍は加速する。

 配信を開始すればトレンド常連。

 ダンジョン配信チャンネルを紹介する専門チャンネルに取り上げられてからは、シロと組んだ直後以上に注目度が増した。


「えー、今日は特別編です! 俺のチャンネル登録者数四十万人突破と!」


「私のチェンネル登録者数十万人突破を記念して」


「初の質問コーナーをやります!」


「お手柔らかにお願いしまーす」


 注目度が増せば視聴者層の幅も広がり、視聴者層の幅が広がれば求められる活動の幅も広がって来る。

 企画力の乏しいYUUKIに代わり、シロと言うブレーンが視聴者からの声を吸い上げて、今ではダンジョン配信以外の企画にも手を広げ始めていた。


「最初の質問です。『お互いの第一印象を教えてください』」


「第一印象、ですか」


「俺は、お化けみたいだったかな」


「お化け!?」


「ダンジョンの中で、真っ白な人がしゃがみこんでるんだぜ。そりゃあ、お化けに見えるだろ」


「むむう」


『草』


『確かに初めては見た時はビビった』


「シロは?」


「うーん、恐そうな人」


「どこかだよ。こんなに優しそうな顔のやつを捕まえて」


「ええ……」


『鏡見ろ』


『鏡見ろ』


 初めての質問コーナーは大成功に終わり、普段ダンジョン配信を見ない人たちも質問コーナー配信で人柄に触れ、新たな視聴者として獲得することに成功した。


 配信を終え、YUUKIとシロはハイタッチを決める。


「いい感じだったな!」


「うん、そうだね!」


「次の質問コーナーは、俺のチャンネル登録者数五十万人達成の時かな」


「それがいいと思う。あんまり頻繁にやっても、飽きられちゃうだろうし」


「確かになー。よし! 飽きられないためにも、五十万人突破したら、質問コーナーだけじゃなくてでっかいサプライズをしかけるか!」


「わあ、いいかも。何するの?」


「それは当日のお楽しみ」


「私にもサプライズなの!?」


 一つの欲が叶えば、次の欲が現れる。

 人間とは、そんな向上心によって成長をしてきた。


 YUUKIにとって、シロはとっくに特別な存在になっていた。

 配信外でも遊びに行く程度には。


「五十万人達成記念で、俺はシロに告白するぞ」


 二人でならずっと上に行くことができるという確信めいた感情が、いつしか恋心へと変わり、シロの特別になりたいとYUUKIを突き動かした。


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