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第3話  異世界衣装はコスプレの香り




 親ゆずりの臆病者で子供のころから損ばかりしている。



 そんなわけで、もう少しだけ向こうの世界の情報を得たら鏡は売却してしまうことにした。単純に異世界とか怖いし、過去の世界だとしたら、それはそれで恐ろしい。

 ハッキリ言って俺の手に余るんだよコレ。こちとら社会性お留守のプロニートですよ。しかも年単位で熟成されてるやつ。


 厳密には売却する前に「異世界へ渡航できる権利」を100万円くらいでネットで若者を募って売ろうかと考えている。行けなかったらお金は頂かないという風にすればいいしな。

 300人も向こうに送れば3億円ですよ。ウッハウハ。

 その後で、ノウハウを売るという触れ込みで鏡ごと売却してしまえば、異世界とも後腐れなくサヨナラできるし、お金もたくさんゲットできて一石二鳥だわ。7億円とかで売れば、合計で10億円! 遊んで暮らせる!!

 ……とはいえ、現段階では完全に絵に描いたモチ。もっと情報を得て、それなりに上手くやらなきゃなー。


 で、まあ、結局はもう少し鏡の世界の情報が必要なのだ。なのでいったん鏡の世界へ入り、例のシェイクスピア服を持ってくることにした。あ、向こうのものってこっちに持ち込めるのかな、そういえば。


 ……普通にこっちの世界に持ち込めました。


 ひょっとすると持ち込めない可能性も考えてたけど、まあこれで、屋敷の家具はこっちでオクに掛けられる。ちょっとした軍資金にはなりそうだ。フヒヒ。



 屋敷の服は何年も宝箱の肥やしだったとは思えないほど、しっかりしており、サイズも多少小さい程度で問題なく着れた。

 しかし……、これは恥ずかしい。ヒラヒラとした飾りの付いたシルクのシャツってだけで、なんとも言えない気分だが、さらに刺繍入りのベスト。これもちょっと光沢のある生地だし、パンツもかすかに光沢がある。なんで全体的に光沢多めなんだろう。

 だいぶコスプレっぽくて恥ずかしいが、あの世界に溶け込むには必要な処置だと自分を納得させる(農夫もこんな格好だったような気がするしな)。まあ、自前の服だと、ジャージとかトレーナーとか、そんなもんしかないし、それよりは自然だろうと思うことにした。


 バッグに必要な道具、というか、もしもの時の自衛の為の武器(自作のナイフを数本)を入れ、編み上げブーツを履いて鏡の中へ入る。


 屋敷の外にでて、ふと気付く。そういえば時間のことなんにも考えてなかった。


 日本時間は午前10時をちょっと回ったところだが、こっちも同じ時間とは限らないのだった。全く知らないところで日が暮れたりしたら、それこそ死の危険がある。


 日の高さを確かめようとして、眼に入ったものに愕然とする。

 ああー…………「この世界の情報」こんなところにありましたよ。なんで気が付かなかったんだろ。



 昼間なのに月が2つ出てました。





 ◇◆◆◆◇





 太陽はちょうど頭上の位置。昼の長さがどうなのかはわからないが、とりあえずすぐに日が暮れる心配はなさそうだ。ここが異世界なのはもう確実と言っていい。

 地球に月が二つあった歴史はないはずだからな。


 屋敷の前の林を抜け草原に出る。前に来たときと違い、全くの異世界だと思うと、林の木々もなんだか見たことがない種類のものが多く混じっているように見えてくる(実際全部異世界種? なわけだけど)。


 ――そういえばガラパゴス島では、観光客が他の地域の種を持ち込まないように、靴底を洗ってから上陸させたり、遊歩道以外は歩かせないなどの管理を徹底しているらしい。

 全然気にしてなかったけど、異世界を行き来するなら、そのへんもある程度は気を配らないと思わぬ事態にならないとも限らないな。こっちの虫を一匹持ち込んだばっかりに、向こうの虫が何種類も絶滅したりとか絶対にないとは言い切れないし。


 そんなことをツラツラ考えながら歩いていると。



 ガサッ ガサッ



 50mくらい向こうの茂みから音がして、すわモンスターかと身構えたところ。


 不精ヒゲのワイルド系猟師が出てきた。

 殺したばかりと思しきイノシシ的な生き物を引きずって。





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