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第34話  古道具屋は鉄錆びの香り





 今日の蚤の市での儲けは2312エル。日本円に換算すると346,800円だ。ちょっと軽くフリマでも出してみるか! 程度の気分ではじき出せる金額ではない。つーか、ちゃんとした社会人の月給レベルじゃん。俺の収入で言ったら2ヶ月分くらいだよ。それに、なんたって今日売った品々のほとんどが100円ショップで買ったものなんだからな、仕入れ値としては1万円にも満たなかったはずなんだぜ。


 みんな口々に安い安いと買っていったし、あんまり安いと他の人の迷惑になるかもしれん。次からはもう少し自重した値付けにしなければならないだろうな。目立つようなことは極力避けるべきだろうし――――すでに、ディアナが思いっきり目立ってることは抜きにして――――なんせ異世界人なんて身の上なんだから。


 ちなみに、儲けは2312エルだったが、ネトオクで売るための品を買い込んだので、現在は1800エル程度にまで目減りしている。

 日本円換算だとそれでも悪くない額だけれども、武器は中古といえどたいしたもんは買えないかもしれない。俺がこっちの世界でリサーチした限りでは、武器や防具の類はそれこそ、日本で現代刀や武者鎧の新品を買うくらいの金額を出さなければ良いものが手に入らないようなのだ。……まあ、鍛冶屋の職人が丹精込めて一本一本打つんだろうし、高いのはむべなるかな。とするとやはり中古しかないかなと思うわけだ。

 ……ま、安い新品の武器で満足するという選択肢が抜けてるのが、物欲男の救いようのないところではあるんですけどね……。

 中古でもいいから良いものが欲しいんだよ! 安いけどそれなりものより、中古でも作りの良いもの! これは一種の哲学なんです!


「ここよ」


 レベッカさんに案内されて到着した中古武具店は、表通りからだいぶ離れた川沿いにあった。

 店の規模は、ちょうどコンビニエンスストアくらいの規模といったところか、所狭しと武具が無造作に置かれ、一部は店の外にまで侵食している。リサイクルショップというよりは、昔ながらの古道具屋といったところだろうか。


 いかにも掘り出し物がありそうな風情である。これこれ! こんな店を探してたんだよ! さすがレベッカさん! 頼りになるわぁ。


「それで、武器の種類はどうするの? 得物によって戦い方も変わってくるし、剣と一口に言ってもいろんな種類もあるわよ?」


 なるほどな、確かに剣たって、両手剣やら片手剣やら直剣、サーベル、刀にレイピア、短剣なんかも剣の類なんだろうし、盾を持つスタイルなのかって問題もあるな。さすがに2刀流にはしないけど……。

 でもま、力もないことだし、せいぜい片手剣だなぁ。盾もあったほうがいいかな。


「そうね、確かに片手剣と盾ってのは安定しているわ。……ただし、『人間相手』にはね。ジローが何に対して武装するのかによるけれど、もし、魔獣や亜人やモンスターと戦うことも考慮するなら、単純に攻撃力を重視したほうがいい面もあるわよ」


 うーん。魔獣や亜人が「野生動物」でモンスターは魔素から生まれる……いや「湧く」んだっけ。たしかに、身を守る為の武装として買うんだから、対魔獣ってのは正しいと思うんだけど、どっちかっていうと盗賊や山賊が怖いというか……。でも考えてみたら、俺の屋敷の周辺にそんなのいるのか? っていう話なんだよな。魔獣や亜人なんかも見たこともないし。

 とすると、他の地域に行ったりすることを考えて選んだほうがいいのかな。別にダンジョンにもぐったりするわけでもないし(興味はあるけれど)、基本的には対人間でいいと思うけど……、でも対人間て……。人間相手に戦えるのかっていうとまた別の話だよなぁ……。

 ……ぶっちゃけ、無理だよね。それだったら、剣なんかよりもうちょっと殺しの手ごたえの少なそうな、弓矢とかのほうがマシだわ。


 とすると……、対人間、つまり盗賊やら山賊なんかが出た場合は……。

 少なくとも俺は戦えないと思っておいたほうがいいな。ディアナもマリナも正直あんまり戦わせたくはない。

 簡単に負けてディアナとマリナは戦利品よろしく連れ去られて、俺はぬっ殺されるってのが最悪のパターン。物を取られるだけで済むなら安いもんだけど、無理と思っていたほうがいいだろうからな。

 とすると、盗賊対策は「ガチバトル」とは別のもの・・・・を用意しておいたほうがいいだろう。


 結論。人間とガチで戦うための武装はこっち・・・では買う必要ない。防具は別だけど…………でもないか。防具も一部は向こうで選んでくるか。



「では、魔物も相手できそうな構成で選んでみます。……まあ掘り出し物次第ではありますけれどね。魔物相手なら片手剣より両手剣のほうがいいんですか?」


「そうねー。ましてジローの歳から剣をはじめるなら余計にね。それくらい片手剣で『殺し』を乗せるのは難しいわ。単純に同じ程度の武器、同じ程度の熟練度なら攻撃に3、4倍の差が出るくらい。片手か両手かってのはそれほどの差が出ることなのよ。人間相手ならそこまで殺傷力が必要ないから、片手剣で十分なのだけれどねー。魔物相手に片手剣で十分なダメージを入れるのはかなりの熟練を要するといえるわね」


 なるほどな。

 じゃあ、いっちょ両手持ちの剣で探してみるか!



「ジローは、両手持ちの剣でいいとして、奴隷ちゃんたちはどうするの?」


「あ、もちろん2人にもなにか買おうと考えています。マリナにはなにがいいんですかね、マリナはなんか使ったことがある武器とかあるか?」


「物干し竿流であります!」


「ん? なにそれ。……佐々木小次郎か?」


「物干し竿を槍に見立てて一人で訓練していたであります!」


 さすがマリナ。チャンバラ遊びじゃねーか。

 まあ、マリナの天職「騎士」なんだし、……槍ならちょうどいいのかな?


「私は弓が少しだけ使えるのよご主人さま」


 ディアナが申告してくる。確かにエルフっていえば定番ですよねー。

 個人的には定番はあえて外したい気もするけど、個人の趣味より効率を優先したほうがいいか……。でもま、ディアナは天職がまだ決まってないんだし、これからまだまだいろいろ試せる時が来るんだろう。

 趣味装備はそれからだ!



 外の日差しが入り込む店内は、それなりに明るく商品を物色するには十分に明るかった。出入り口近くのカウンターには店主らしき男がなにか記帳をしており、俺たちが店内に入ると顔を上げ軽く挨拶し、またすぐ記帳作業に戻る。あまり積極的に接客するタイプの店ではないようだ。まあ、古道具屋の店主なんて向こうでもこんな感じではあるけど、こっちの世界でも同じらしい。


 個人的にこういう猥雑と言っても過言じゃない古道具屋は大好きだ。掘り出し物という可能性を内包した小宇宙というか、夢が詰まってるっていうか……。実際にはゴミだらけなんてオチがほとんどなんだけどさ……。でも、つい諦めきれずにすべての商品をチェックしちゃったりするんだよな。

 まして、今の俺には「真実の鏡」なんていう反則級の技もあるのだし。


 お目当ての武器のコーナーは店の一番奥にあり、両手剣だけでも10本以上はありそうだった。綺麗に壁に飾られているものから、床に放り出されているものまで多種多様あり、値札も付いてたり付いてなかったりで、なんていうか非常に雑だ。

 それらを一本一本一本「真実の鏡」を使って調べていく。


 比較的綺麗な剣から調べていくが、だいたいこんな感じのものばかりだ。


 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 近接武器


 【名称】

 トゥハンドソード


 【解説】

 近接戦闘職が装備可能な剣


 【魔術特性】

 なし


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 ロクフェイト・オポッサム


 ――――――――――――――――――――――



 形が違うのや、サイズが微妙に違うのやらも、どれも「トゥハンドソード」やら「クレイモア」やらと表示される。見た目が多少違っても性能的には大差ないのだろうな。

 所有者のところに名前があるのは、ここの店主の名前だろう。


 床に転がっている錆びたデカイ剣などは、こうだ。



 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 近接武器


 【名称】

 クレイモア-1


 【解説】

 近接戦闘職が装備可能な剣

 錆付いている。


 【魔術特性】

 なし


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 ロクフェイト・オポッサム


 ――――――――――――――――――――――


 微妙である。

 とはいえ、レベッカさん曰く、錆びは鍛冶屋に持って行けば落とせるし、素性の良い剣ならばリペアは可能だという話。状態悪くても素性の良いのがあればそっち選ぶのも手なんだけどなぁ。


 両手剣コーナーはひとまず諦め、マリナ用の槍を見てみることに。

 乱雑に立てかけられたショートスピアだの、ランスだのの中に良さそうなやつを発見した。



 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 長柄武器


 【名称】

 滅紫めっしのハルバード-1


 【解説】

 近接戦闘職が装備可能な斧槍

 魔術色『滅紫』により滅びの呪いを攻撃対象に付加

 錆付いている


 【魔術特性】

 滅び B


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 ロクフェイト・オポッサム


 ――――――――――――――――――――――


 良さそうっていうか、強そうっていうか……。

 滅びの呪いって……、うっかり切っ先に触れたら滅んじゃうのかなぁ。危険だよね。

 普通の槍にしようと思っていたけど、これはハルバード。いわゆる槍に斧が付いたようなやつで、ポールアームとかいったっけ、この手の武器は。柄は黒い木で出来ており、先端部は金属製で槍と斧を合わせたような意匠になっている。滅紫というだけあって、先端部はくすんだ紫色で、けっこう盛大に錆びている。色味的にはマリナに似合いそうで良いな。

 錆びてるし、重量もけっこうあってマリナに扱えるか微妙な気もするけど、とりあえずキープしとこう。値札付いてないから買える金額かどうかはわからんが。



「どう? 良いのあったー?」


「いやぁ、槍というか、良いハルバードは見つけましたが、両手剣はいまいちですね。いちおうこれから片手剣を見てみようかと思ってますけど」


 レベッカさんが金属篭手を片手に話しかけてくる。わりと仰々しい篭手だけど買うのだろうか。


「ああ。これ? ジローにどうかなと思って。値段も安いし、篭手は重要よー?」


「あ、ありがとうございます」


 俺用の篭手を選んでくれていたらしい。

 レベッカさんから受け取ると、どう見ても金属製なのに軽い! チタンと同じ程度の重さだろうか。でも淡く青白く輝いていて、チタンであるはずがない。ギルドカードと同じ材質のようだけど……。

 早速真実の鏡で鑑定してみよう。



 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 篭手


 【名称】

 ミスリルガントレット+2


 【解説】

 全職業が装備可能な篭手

 精霊加護により命中率上昇を付加


 【魔術特性】

 なし


 【精霊加護】

 命中率上昇 E


 【所有者】

 ロクフェイト・オポッサム


 ――――――――――――――――――――――



 おおっ、初の「+2」! というか精霊加護が初だなぁ。てか、ミスリル。これがミスリルなんだな。ゲームなんかじゃお馴染みだけど、さすがファンタジー世界だね。俺もいずれミスリルでナイフ作ったりしてみたいな。

 そのミスリルだが、硬さはどれくらいのもんかわからないけど、とにかく重量が軽い(金属としては)。これなら、軟弱者の俺でも装備できそうではあるな。ただ、この篭手をしてさらに剣も持って戦うっていうと……、剣道とかスポーツチャンバラとかいうレベルじゃ済まないほど疲労するだろう。

 軽いといっても、100gか200g程度はあるだろうからな……。

 でも、命中率アップなんていうオマケが付いて、しかも値段がたったの450エル。これは買うしかない!


 しかし、果たしてこの「+2」とか「+1」とかってのは、どの程度認識されてるものなんだろうか……? 真実の鏡なしでは、わからなそうなんだけど。

 それとなく聞いてみるか。



「レベッカさん、武器に特殊な能力が付加されてたりすることってあるんですか? あとたとえば呪われてるとか……」


「え? エンチャントのこと? 呪われてるってのはわからないけど……、えっと……、そうね。エンチャント済みのが置いてあるなんてこともあるにはあると思うけれど、実際に使ってみないとわからないからね。信用ある店では時々すごい値段で出てることがあるけれど……。こういう店にはないんじゃないかな」


 普通はないらしい。いや、ちょっと調べたなかでもそこそこポロポロ出て来てるんですけど「+1」とか。それとも「+1」程度のはほとんど誤差くらいの能力でしかないのかな。最高が+100とかだったらどうしよう……。

 まあ、そのへんは実際に使ってみないとわからないか。


 それより、次は片手剣を漁ってみるべ。両手剣よりもさらに本数が多く、30本くらいありそうだ。これならきっと掘り出し物があるはず。


 片っ端から「真実の鏡」を掛けていく。

 やはり基本的には、普通の武器ばかりのようだ。「ブロンズソード」「ショートソード」「ロングソード」「ブロードソード」「シミター」「カットラス」「レイピア」「サーベル」「グラディウス」「エストック」……。

 すべて通常品か錆びて「-1」が付いているものだ。材質も一般的な鋼? 製のようで、重量もほどほどあり、片手剣といえど、軽々扱うというわけにはいかないだろうな。正直、通常の鋼の剣を買うなら、片手剣を両手で持つくらいじゃないと、筋力的に無理なんじゃないかという気がしてくる。


 そんな中に一本だけ変なやつを見つけた。



 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 近接武器


 【名称】

 さびついたつるぎ -2


 【解説】

 激しく錆付いた剣

 真実の姿は名剣か駄剣か


 【魔術特性】

 ?


 【精霊加護】

 ?


 【所有者】

 ロクフェイト・オポッサム


 ――――――――――――――――――――――


 知ってる知ってる。

 ゲームだと、鍛えなおすと伝説の剣になったり、龍殺しの剣になったりするんだよねー。これも買っとこ。


 いやぁ、やっぱ楽しいわぁ、古道具屋。鑑定能力があるから、物選ぶのも苦労しないしな!



「ご主人さま、こっちにも剣がいくつかあるみたいなのよ。ぜんぜん整頓されていないのです」


 と、ディアナ。確かにコーナーごとに、ひとまとめにうっちゃってあるという表現がピッタリくる惨状だからな。両手剣コーナーにも片手剣コーナーにもこれというのがなかったし、こうなったらシラミツブシにするしかない。


「こうなったら総当り戦だ! ころがってる両手剣があったら、みんな俺のところに持ってくるんだ!」


 ということで、みんなが探して持ってきてくれるのを、一本一本鑑定していく。店主がなんか言ってくるかとも思ったが、まったく我関せずで帳簿を付けたり新聞を読んだりしている。悠々自適の生活って感じでちょっと憧れる。


 …………しっかしまぁ。よくもこんなに何本も剣があるもんだわな。

 両手剣と片手剣と合わせたら100本近くあるぞ。短剣なんか入れたらどれほどになるかわからんなこれじゃあ。


「主どの! 表にも一本あったであります」


 そう言って、一振りのロングソードを持ってくるマリナ。そういえば、表はまだ見ていなかったな。まあ表なんかクズしかないんだろうと思ってたってのもあるし、実際クズしかないんだろうし。


 マリナの持ってきたロングソードは刀身の幅が狭く、身も薄い頼りないもので、刀身は黒く錆付いており、拵えも赤錆に覆われており、到底期待できそうなものではなかった。身が薄いからか刀身自体は1m程度あるだろうに、重量はさほどでもなくこれなら俺でも扱えそうだった。

 ダメ元で真実の鏡を発動させる。

 どうせ「ロングソード-1」だろうと思っていたのだが……。


 ――どうやら掘り出し物だったらしい。



 ――――――――――――――――――――――


 【種別】

 近接武器


 【名称】

 濡烏ぬれがらすの魔剣ハートオブブラッド-1


 【解説】

 千の魔獣の血を吸い赤く染まった魔剣


 近接戦闘職が装備可能な剣

 魔術色『濡烏』により回避率上昇の加護を付加

 魔剣固有スキル『吸収』の呪いを攻撃対象に付加

 魔獣に対してクリティカル率上昇

 錆付いている


 【魔術特性】

 回避率上昇 B

 吸収 C

 対魔獣 A


 【精霊加護】

 なし


 【所有者】

 なし


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