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第70話  まとめ買いは若旦那の香り




 準備をするべく、俺とレベッカさんは店の外に出た。

 作戦の概要をレベッカさんに話し、できればもう一人くらい協力者がいてくれるとやりやすいという旨も伝える。


「……という作戦で、レースを安く手に入れようと思うんですが、協力してくれませんか? ふつうに買ってもいいんですが、商人だと思われたくないんで、こんな回りくどい手を使うんですけども」


 とりあえずレベッカさんが手伝ってくれないと話にならない。

 いや、一人でもできるけど、交渉事は花があったほうが上手くいくってのが常識。……今回のはちょっと意味合いが違うけど。


「うーん。面白そうだし私はかまわないけど、本当にうまくいくの、それ? 逆に高く売りつけられちゃうんじゃないのー?」


「どうでしょうね。もしかすると、そういうのもありえるかもしれませんが、そもそも手持ちがあまり多くありませんし、あのレースが全部手に入るなら、手持ちの分――金貨一枚くらいなら払っても問題ないです」


「そうなの? 確かにたくさんあったけど、今はレースにそんなに払う人いないし、商人だとわかったとしても、そんな金額にならないんじゃないかしら」

「そうかもしれません。でも、万全を期したいんですよ。レースは全部欲しいけど、レースが目的だとは思われたくないと言いますか。おそらくエリシェであれだけの品揃えがある店は他にないでしょうし」


「うーん。……確かに、ちょっと狡賢い性格なら、値上げするか売り渋りするってこともありえるのかもしれないのかなー? じゃ、やるだけやってみようか」


「はい。お願いします」


 よし。レベッカさんには手伝ってもらえる確約が取れた。

 だけど、今回の作戦をやるなら、もう一人くらいいたほうが確実なのだ。

 だが……、ディアナはまずダメだ。エルフがやっても不自然極まりない。

 マリナもダメだ。ターク族がやっても不自然極まりない。

 とすると……、


「レベッカさん、実はあと一人くらい協力者が必要なんですよ。ちょうどよいことに、お姉さんがたが、暇そうに立ちんぼってらっしゃるから、手伝ってもらおうかなと」


 イメージプレイ完全対応の彼女たちなら、演技力も折り紙つきだろう。

 それに、ついでに仲良くなれるかもしれない特典も。

 昔から娼婦は事情通だと相場が決まっているしな……。

 もちろん、お友達価格でアレがナニしたりする可能性を理由にしているわけではない。でも、情報を教えてもらう為に、二人きりの密室が必要だったり、無料じゃなんだから客という格好を取る必要があったりするのかもしれないが、それは仕方がないだろう。はずだ。


 そして、暇そうにしている薄緑の髪をした若い娼婦(たぶん絶対俺より二つ三つ年下)に声をかけ、事情を説明すると「……ん? いいよ。そんかし、なんか、一着買ってくれる?」とだるくオネダリされたが俺はこれを快諾した。

 もちろん、これは俺がチョロイというわけではなく、もともと報酬として店で服を買ってあげようと思っていたからだ。というより、今回の作戦の内容からして、服で払うのが効率的だったってのもある。

 繰り返すが俺がチョロいわけではない。はずだ。


 さらに細かい作戦を立てながら、酒屋へ行き少し強いやつを二本購入。

 これだけで100エル出費してしまったわけだが、たぶん元は取れるだろうから必要な出費だと割り切る。余ったらその分は屋敷で飲めばいいし、ディアナが意外と酒好きだから喜ぶだろう。


 さらに、俺とレベッカさんは、一度店に入っているんで、店主に同一人物だとバレない程度の簡単な変装をすることにした。

 レベッカさんの知り合いの古着屋で上着を借り、帽子をかぶる。

 この際、俺はなるべくボンボンぽいのをチョイスしてみた。レベッカさんはセクシー系のを着てもらう。作戦の性格上どうしても必要! 必要なんです! と熱心に説き伏せて実現した。

 服と髪型程度でも、店主は俺たちが入店しても軽く一瞥した程度だったんで、これくらいでもじゅうぶんだろう。


 娼婦向け服屋まで戻ると、いよいよ作戦を敢行する。


「それではオペレーションWAKADANNAを発令する! 各人配置につけ!」

「はーい」

「おっけーよ」


 白状しよう。

 イタズラ気分で悪乗りしてました。

 すでに酒も飲んでちょっと酔ってたしね……。





 ◇◆◆◆◇





 作戦は店に入る前から始まった。

 娼婦――エレピピ(おそらく源氏名だろう)の第一声から。


「ねぇねぇ、若旦那ぁ。あたし、実は欲しい服があるんだぁ~。ちょこっとだけ、見てっていい?」


 わざと店の奥にいる店主にも聞こえるように、デカい声で言わせる。

 さっきまで、気だるいというか、いわゆるアンニュイな雰囲気だったのに、とつぜんアホギャルみたいのに変身しおった。

 確かにその方向性でと伝えてはあったけど、こんなにすぐ対応するとは……。恐るべしイメクラ娼婦……。

 最初見た時は、長い薄緑の髪がいっそ上品に見えたものだが、アホギャル状態だと、自分でヘアカラーやったアホみたいに見えてくるから不思議だ。

 エレピピ……恐ろしい子!


「服ぅ? へっへっへ、どうせ脱がせるんだし、なに着ても同じだろぉ?」


「同じじゃないもん。女は美しく着飾る心がないと、すぐにおばちゃんになっちゃうんだから!」


「そうかー? しょーがねーなー。じゃあちっと見てみるか!」


 俺はといえば、エロおやじの形態模写をしようとしただけだが、ただの得体の知れないナニカになってしまった。

 ブラック企業の顧問のヤクザが、こんな感じの人物だったんで、知らず真似てしまっているに違いない。


 ちなみに顧問のヤクザとは、顧客と拗れたときに「先生お願いします!」とやると、あら不思議、拗れがスッパリなくなって、それどころか追加注文まで入るという、快刀乱麻の存在である。

 まあ、そのために安くない顧問料を払っていたようだが、普段はただの強キャラ系エロおやじだったな。


 キャッキャしながら店に入る。

 俺も酒が入ってノリノリだが、娼婦のエレピピもノリノリである。

 そこまで頼んでないのに、腕をガッチリ組んで豊かな胸をグイグイと押し付けてくる。

 俺もついついデレデレして、演技でもなんでもないリアルエロおやじの完成だ! 非常にクオリティの高い演技ができそうです!


「ちょっと、ジ……わかだんなったら、デレデレしすぎなんじゃないのー?」


 レベッカさんも打ち合わせ通りに、腕を組んでくるがけっこう控え目だ。仕事の一貫という免罪符があれば、こんなことも頼める自分が怖い。


 うん。しかし、まだレベッカさんそこまで役に入り切れていないようだな。

 レベッカさんの天職は「斥候」。敵地に潜入してスパイ活動とかもしてたらしいし、実際の演技力は我々の誰よりも上をいくはず。


「あ~、これかわいー。ねぇねぇ若旦那ァ、これ。これ買ってぇ?」


 真っ青な薄手のドレスを手にとって、見せにくるエレピピ。

 違うわ……この子……。まるっきり別人よ……。私、知らない。あんな子知らないっ……。と白目剥いて口走りたくなるほどなりきって演技しおる。


「わ、わたしもこれ欲しい……なぁー。に、似合わないかなぁ? ねぇどう思う……?」


 真紅のイブニングドレスを手にとって、恥ずかしそうに見せにくるレベッカさん。

 うんうん。レベッカさんは芋演技で癒されるね。ホントにこんなんでスパイ活動とかできてたのか心配になるね。


 しかし、若い女たちにオネダリされるのってこういう感じなんだ……。

 演技とはいえ、なんともこれは……。


 (けっこう鬱陶しいもんだな)


 ハッ! せっかく二人ともシナリオ通りにがんばってくれてるのに、良からぬ思考が。

 まだまだ、エロおやじにはなれないってことだな。

 ……別になる気もないけど。


「おう、もうちっとちゃんと選べよぉ?」と言いながら、店主にコソッと話しかける。すべて打ち合わせ通りの流れだ。


「……ところで店主、今女たちが見てる、あのへんの服いくらくらいするんだ? 実は格好つけてるけど、そんなに金ないんだ……」


 声を落として店主に話しかける。

 俺の役柄は、女にいい恰好したいけど実はあんまり金持ってない若旦那という設定だ。なにが若旦那なのかは聞いてはいけない。その場のノリだ。

 レベッカさんとエレピピは娼婦という役柄。役柄もなにもエレピピはホンマモンの娼婦だけど。

 俺、なにやってんだろ……。


「お兄ちゃん、けっこうやられてるみたいじゃねぇか。あのへんのなら銀貨一枚でかまわんぜ。いくつか買ってくれるならまけてもいい」


 と、店主。わりと最初から譲歩してくれている模様。

 でも一着100エルは少し高いかな。こっちの服は新品と中古の価格差がデカいんで、相場がよくわからない感じがあるが。

 とりあえず、一律で銀貨一枚とかアバウトにほどがあるぞ。


「そうか! ありがとう、よかったらこれ飲んでくれよ!」


 最初に来たときと同じように、店主の机の上には酒の瓶とコップが置かれていた。

 俺はそのコップに勝手に酒を注ぐ。

「お、ワリィね」とグイグイ飲み始める店主。チョロい。


 そうこうしてる間にも、レベッカさんとエレピピは、二人で喧々諤々「あーこれかわいー」だの「これも素敵!」などと言いながら、服を選んでいる。

 実際二人には一着ずつ買う約束をしているので、演技半分本気半分といったところなんだろう。


 店主がコップ酒を空ける。なかなかイケる口だ。

 空いたコップにすかさず次の一杯。

 そして、「いいから、これも全部飲んでよ」と酒瓶を机に置いた。


「お前ら、どうだ? 気に入ったのあったのかぁ? どれ、俺も選んでやるよ」


 オペレーションWAKADANNA、フェイズⅡへの移行。


「うんとね、若旦那、あたしこれとこれとこれがほしーのぉ」

「……わ、私は、これが欲しい、なー」


 レベッカさんがいまいち乗り切れないようだが、とりあえず自分たちが欲しい服は決定したらしい。

 エレピピは赤いの青いの黄色いのと三着も持っていたから、戻させたが。

 信号機かお前は。


「ほれこれなんかもいいんじゃないか?」


「えー? なんでメイド服ぅ? 若旦那ってそういうの好きなんだぁ」


 うん。好き。大好き。

 てか、さっきからレベッカさん、ずっと顔を赤くして半笑いでキョドってるんだけど、いきなり頼む芝居としてはハードルが高かったのかもしれない。

 むしろエレピピがノリノリで仕事しすぎなのか。

 女優の天職でも持ってんのかな。寸劇商談やる時のパートナーとしてこれからも協力してもらってもいいかもしれない。


「それより、あたしアクセサリー欲しいなぁ?」


 本当はレベッカさんが言うはずだったセリフだったが、ほぼポンコツと化したレベッカさんの代わりに独断で劇を進めるエレピピ。


「ア、アクセサリーもかぁ。全く金のかかる女だなお前は。……なぁ店主、アクセサリーはおいてるのか?」


 置いてないのは確認済だ。

 あるのは、せいぜいレースくらい。


「お? うちはアクセサリー置いてないぜ。古着が専門だかんな」


「そうか……。だがアクセサリー屋にまで行かれたら、俺も破産……。なんか他にないか……。おっ、これは?」


 ちょっとわざとらしい感じにレースを発見する俺。


「おい、ほらレースがたくさん売ってたぞ。服とこれ買ってやるからアクセサリーは今度にしとけ」


「え~、なんかじみぃ~。でも、よく見ると案外かわいいのかなー。これとかぁ、どう?」


「いいよねー。レースもいいよねー」


「ハンカチも欲しいって言ってただろ? アクセサリーなんか、もう沢山持ってんだし」


「いいよねー。ハンカチもいいよねー」


「あたしは、こっちの袖用のレースとか、襟用のが欲しいかなぁ~」


 少々強引な気もするが、レース買う流れに持っていく。

 レベッカさんは、いまだにテンパッてる。ああいうレベッカさんは初めてみるな……。


「なんで、そんないくつも欲しがるんだお前ら……。店主、あのレースはどんくらいするもんなんだ?」


 すでに店主は、いい感じに酒も入ってグダグダになり始めてきている。

 俺があげた酒はウイスキー(の類)だからな。ある程度、酒を飲む人でもあのペースで飲めば酔うだろう。


「ああー、おう。それか。ぜんぜん売れねぇやつだからなぁ」


 予想以上にぞんざいな感じ。

 これならいける……かな。


 オペレーションWAKADANNA、最終フェイズに移行だ!


 レベッカさんとエレピピの服を選ぶように見せかけて、家の子たちのお土産用の服を選ぶ。

 ディアナ、マリナ、オリカ、レベッカさんにエレピピ……で五着。メイド服が二着。更にセーラー服(カナン族の民族衣装)は三着もあったんで全部確保。

 セーラー服が三着もあったのが、売れ残りなのか、人気商品だからなのか小一時間問い詰めたいところだが、俺得には違いないので問題はなかった。


 店主のところに服を二着持っていく。

 ここから金額交渉の開始だ!


「とりあえず、これとこれ買うよ。いくらになる?」

「二着なら銀貨二枚だぞ」

「若旦那ぁ、わたし、やっぱこっちもほしぃの☆」

「おいおい、しょうがねえな。店主じゃあこれも入れてくれ」

「それは少し高いやつだが、三着も買ってくれるなら、合わせて銀貨三枚にまけてやるよ」

「それでも銀貨三枚か。あ、じゃあこのレースのハンカチ何枚か付けてくれよ」

「じゃあ、それ三枚付けていいぞ」

「あ~、ずるいー。私もこれも買う~」

「おいおい、しょうがねえな。店主じゃあこれも入れてくれ。四着も買うんだから、もう少しまけて銀貨三枚と白銅貨五枚にしてくれよ」

「さすがにそんなにまけられねぇぜ!」

「じゃあ、この袖飾り用のレースを付けてくれ。それで銀貨四枚でどうだ?」

「それならいいぜ」

「若旦那! みてみて! なんかかわいーのあったぁ。これお揃いでどうかなぁ。かわいいでしょ?」

「なんだそれ、どっかの民族服か? 店主あれ二つ付けて銀貨五枚にまけてくれ。そんなにしないんだろあれは」

「う~ん。銀貨五枚かぁ。たくさん買って貰えるならいいか! いいぞ!」

「じゃあ、たくさん買うから、お土産にこのへんのレースも付けてくれ」

「わ、私、妹がメイドやってるからこれ買ってあげていいかなぁ。ねえ、わかだんな?」

「あたしも! あたしも!」

「えーい、もう勝手にしろ!」

「やったぁ!」「じゃあこれも欲しい!」

「店主、せめてオマケにこれとこれも付けてくれ……。なんかお土産でもねぇと母ちゃんに怒られちまうよ」

「お、おう。大変だな、あんたも」


「……じゃあ、全部で10着だな。お土産にレースもひとまとめ付けて……」

「いや、店主、迷惑かけたからな。これで取っといてくれ」

 そう言って、金貨を一枚渡す。

 さっきまでの交渉じゃ銀貨8枚と白銅貨6枚という形で決着がついていたが、レースを全部もらっていくわけだし、どうせ金貨で払うつもりだったしな。


「いいのか? 酒も貰ったのに」

「いいさ。また寄らせてもらうから、そのときにはまたサービスしてくれ」

「おう。また頼むぜ、若旦那」


 ミッション・コンプリート!

 無事に大量の服と、ほぼすべてのレースを手に入れることができた。

 レースは事実上サービスで付けてもらったようなもんだ。まあ、これが普通に買うのより安かったかどうかはわからないけど、面白かったから良しとしよう。本当なら服だけで金貨一枚分くらい買ってるんだからな。


 今回の殊勲賞はエレピピだな。店から出て、しばらく歩き礼を言う。

 エレピピは、もうお芝居モードから抜けて、最初の気だるいムードに戻っている。


「ありがとう。おかげで目的通りの金額で買えたよ。報酬として、さっき選んだ服持っていってくれ。仕事中だったのに悪かったね」


 立ちんぼが仕事中の範疇なのかはわからないが、遊んでる間に通りかかりの客を逃した可能性もあるしな。


「……ん。大丈夫。服、ありがと」


「ああ、またこういうの頼んでいいか? 今回の演技は素晴らしかったよ」


「……ほんと? 嬉しい」


 さっきまで完全にアホ丸出しだったのに、今は柔らかく微笑んでまるで菩薩のようだ。

 いや、観音様か? 娼婦だけに。


 すると、ボンヤリ中空を眺めるエレピピ。

 その右手には、コブシ大の空色の石が乗せられている。


「……やた。達成」


 おっ?

 おお! お導きだ!


 ……人のお導きって、光りもしないし精霊(小)も見えないんだな。

 突然、精霊石が出現してるという状況になるわけだ。


「わぁ、達成したの!? おめでとう! 精霊石なんだったー?」


 突然興奮するレベッカさん。

 そういえばお導きって、達成したらパーティーとかやっちゃうようなめでたいもんなんだっけ。

 さっきまでのポンコツモードから抜けだして、今はいつも通りのレベッカさんだ。

 なんでもソツなくこなすイメージだからって、無茶振りはよくなかったな。


 おめでとうおめでとう、とエレピピを囃し立てる俺たち。

 よっしゃ、飯でも食いに行こうぜ! おごってやるよ! と俺。未だ抜けきらぬ若旦那モードである。


「……若旦那、レベッカさん、ありがと。おかげでお導き達成できた。……あたしとお友達になってくれる?」


「もちろんよ。お導きが縁で知り合ったんだしねー」


 そういえば、そんな事、前に言ってたな。

 お導きが縁で知り合ったら一生の友達になれる――とかなんとか。

 エレピピのお導きの内容まではわからないが、このタイミングで達成するくらいだ、この買い物と関係していたのは明白だろう。


「そうだな。さっきも言ったけど、今回みたいなのやる時は是非手伝って欲しいし、こっちからお願いしたいくらいだよ。あと、若旦那はもういいぞ。ジローと呼んでくれ」


「……でも、若旦那は若旦那でしょ? だってあんなにお金持ち」


 確かに金貨一枚って、日本円なら15万くらいするわけだから、ポンっと使えるのはある程度裕福な人……かもしれない。


「いや、若旦那もなにも、実際は身寄りなしの俺一代だしな……。せいぜい小金持ちって程度だよ」


「……そうなんだ……若旦那……」


 いやそんな熱っぽく見つめられても……。


 気品のある薄緑の髪、優しげに細められた、水面の底を映すように鈍く光る緑の瞳。華奢なくせに、主張するところは主張する躰。

(なるほど、エロい)

 さっきまでは仕事モードだったから、気にしてなかったけど……。

 童貞臭い(臭いもなにもリアル発生源だが)ことを言わせてもらうなら、「なんでこんな子が娼婦やってんだろ」というやつだ。

 いや、エロいからか。天職か。そういや、天職で娼婦とか出ちゃう子っているのかな。10歳で天職に娼婦とか出ちゃったら最悪だろ。

 天職システムひどすぎるな。


「……ねぇ若旦那。頼みごとがあるんだけど、聞いてくれる?」


「だから若旦那じゃないと……。なに?」


「……あたしのパトロンになってくれない? ……あたし、若旦那なら……いいよ」


 なるほど、エロい。






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