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第116話  魔導師は樵の香り



「旦那、これから世話になる。とりあえずは、注文されてた武具からだな」

「頼みます。他にもいろいろアイデアあるんで、また持ってきますよ」

「ああ、なんでも言ってくれ。旦那も『鍛冶師ブラックスミス』の天職あるんなら、いっしょに作ってもいいしな」

「いいんですか? ……じゃあ、次来た時にでも――」


 ルクラエラから戻ってきてから、およそ10日後。

 工房が完成して挨拶を交わす、俺と大親方である。


 大親方は、うちの騎士隊の専属になると宣言し、実際すぐにエリシェまで下見に来て、数日後には本当に工房を建ててしまった。


 場所は俺の屋敷の近く、小川が流れる一角である。

 ドワーフ族の愉快な仲間たちが、歌を歌いながらそれぞれ建材やらなんやらを持ち込んで、ほんの数日で完成してしまった。ドワーフの建築技術の恐ろしさである。


 木材はシャマシュさんが大量に伐採してきたものを、神官ちゃんの精霊魔法で強制的に乾燥させて使った。強制乾燥魔法は範囲内の物体の水分を蒸発させるという恐ろしい魔法で、コストは精霊石一個。この分の精霊石はさすがに俺が出した。


 工房完成後、大親方はさっそく新規で雇った弟子を五人も付けて、毎日トンカントンカン鍛冶仕事に精を出している。しばらくは生活費の捻出の為、エリシェの仕事を受けるのだそうだ。


 いちおう俺が雇い主という形になっているので、見学は自由。


 年齢を感じさせない膂力でハンマーを振るう大親方。火花が飛び散り、赤く熱せられた鉄が形を変えていく。叩くことで、変幻自在に姿を造っていく大親方はまるで魔法使い。

 日本ではすっかり少なくなったと言われる、本物の鍛冶屋だ。


 そう。鍛冶である。

 ナイフ作りが趣味の俺にとっては、夢にまでみた鍛冶場だ。

 鍛冶とはなにか? と言えば、鉄を叩いて製品を作る作業のことをいう。つまり鍛造だ。

 俺がナイフ作りで板材を削るのは鍛冶とは言わない。鍛造してこその鍛冶だ。


 だが、個人で鍛冶をやる機会は少ない。ない……と言い切ってもいい。

 俺はナイフ作りが趣味のひとつだが、ナイフと一口に言っても、鍛造で作る「和ナイフ」は本当に一部の種別にすぎず、一般的にナイフは鉄板を削って作るもの。鍛冶とは無縁である。


 例えば、台所に包丁があるだろう。

 包丁は、和包丁以外はだいたい全部鉄板削り出しだ。つまり、鍛造で造られたものではなく、鉄板をくり抜いてから削って造られている。

 板前さんなんかが使っている和包丁――柳刃とか出刃とか蛸引とか……ああいうのは、鍛造。どう違うかというと、一口で言うのは難しい。究極的には、鍛造包丁のほうが切れ味が良いということになるのだろうが、そう言い切ってしまえるほど、刃物は浅くないのも事実だったりする。

 まあ、それはともかく、鍛造である。鍛造はロマンだ。


 大親方が工房を建てたのと、だいたい同じくらいのタイミングで、シャマシュさんも家を建てた。

 話は少し遡る。


「アヤセくん。この屋敷の結界。実に良い結界だが……やはり私には少々辛いな」


 シャマシュさんが来て三日目。

 まだ住むところがなく、屋敷のソファで寝起きしているシャマシュさんが、申し訳なさそうに言った。


「結界がですか?」


「いや、結界そのものというよりも、精霊力のほうだな。結界内は精霊力が考えられないほど満ち満ちている。その代わりに魔素が驚くほど薄いのだ。どういう秘密があるのかはわからないが……。要するにこの結界は、外敵を遮断する結界であると同時に、精霊力を取り込み保持する結界でもあるということだな。アヤセくんが住み始めた時からあった結界だという話だから、前の住人がエルフだったのかもしれない」


「なるほど……」


 前の住人か……。

 あんまり考えたことなかったけど、当然この屋敷を造って住んでた人がいたんだよな。俺が見つけた時にはかなりの廃屋だったから、かなり昔の人だと思うけど。いや、エルフだっていうのなら、まだ存命の可能性もあるのかな?


 俺は最初、シャマシュさんもいっしょに屋敷に住んでしまえばいいかとも考えた。

 ディアナが思ったよりもシャマシュさんに拒否反応を示さなかったし、なにより専用住居を建てるのが大変そうだと思ったからだ。金銭的にもかなりかかる恐れもあった。


 だが、やはり精霊力と結界の外との魔素との差が激しくてツライらしい。

 ちょっと酔った感じになるだけらしいが、あんまり頻繁だとキツイものがあるだろう。

 さらに、シャマシュさんの場合は工房が欲しいというのがあって、どのみち小屋は建てるという話もあった。


 そういうわけで、やっぱり家は建てることに決めたのだった。


 建てると決めてからのシャマシュさんの行動は迅速だった。

 ほとんど手伝う必要すらなく、驚くべき速度で家は完成した。

 場所は、うちの屋敷と繋がっている形で、ギリギリ結界の範囲外になるように。感覚としてはうちの屋敷の離れ・・というやつである。


 材料は、石切り場で仕事を手伝う代わりに石を一軒分くれという強引な手段で、シャマシュさん自身で仕入れてきた。

 石切り場の仕事はかなり危険で事故も多いらしいのだが、シャマシュさんの召喚魔獣の超効率でかなり捗ったらしい。


 なんたって、アイちゃんのレーザーで石は綺麗に切れるし、ゴーレムを呼び出せばかなり重い石でも運べる。なにより、召喚魔獣なら使い減りしても気にしなくてもいい。事故があっても労災知らずだ。


 木材もシャマシュさんが自分で森から切り出してきた。木材と石材があれば、あとはお手の物である。小さな離れをあっというまに作ってしまった。

 ログハウス調で、簡単な作りだが、さり気なく暖炉まで組んであったりして抜かりない。


「そういえば、シャマシュさんの天職ってなんなんです?」


 家の完成記念で飲んだ折に訊いてみた。

 シャマシュさんは、いちおうは俺の奴隷なのだし訊いても問題ないだろう。


「ん? 言ってなかったっけ。私の天職は『魔導師メイガス』『芸術家アーティスト』『細工師クラフトマン』『召喚術師サモナー』の4つだよ。ふふ、ひ弱な魔法使いなのさ」


 ウイスキーの水割りが入ったグラスを片手に、おどけて笑って見せるシャマシュさん。


「いやいやいやいや。すごいじゃないですか。天職4つある人、初めてみました」

「うん。ま、エルフやナイトメアは特別だからね……。でも、アヤセくんは天職7つに固有職が2つだろう? そっちのほうが化け物だよ。神に愛されていると言ってしまって間違いじゃないくらいだぞ。まるで、精霊文明時代の英雄の再来のようじゃないか」

「うーん、まあ自分でもちょっと不思議に多いなとは思ってますよ。なんでなんでしょうね」

「ふふふ、神がなにかをさせようと遣わしたのかもな。カンパイ」

「それはちょっと嫌ですね。カンパーイ」


 ……というやりとりがあって、シャマシュさんの天職が判明した。

 魔導師は魔術師の上位職なのだそうだが、魔族……というかナイトメア族には、ほぼ必ず備わる天職なのだとか。召喚術師も同様に。

 だから、シャマシュさん個人の天職は、どちらかといえば『芸術家』と『細工師』のほうであるらしい。なるほど、手先が器用でなんでも造れるのは、これらの天職の作用も大きかったのかもしれない。

 シャマシュさん曰く、細工師はともかく、『芸術家』の天職は珍しいのだとか。

 確かに、芸術家がたくさんいたら怖いものな。シャマシュさんの作品を、オクで売るという方向性も出てくるぞ。



 家が完成してからのシャマシュさんは、普段は離れにいて、ご飯の時だけ屋敷に来ていっしょに食べるようになった。

 本当はご飯時だけ来るのも酔うらしいのだが、慣れも大事だからと聞かなかった。多分、本音は一人だと寂しいってだけなんじゃないかと思うんで、あまり追及はしてない。


 日中は、俺たちと一緒に店に来たり、戦闘訓練に参加したりして遊んでいる。

 シャマシュさんは魔術を操るだけあって実際強く、模擬戦をやってみたら、勝てたのはシェローさんだけだった。まあ、鉄砲持ってる相手と戦うようなものだからな。勝ってしまうシェローさんが異常なだけだ。

 アイスジャベリンの魔術を、紙一重で躱したり剣で弾いて突き進むシェローさんは、動画にしたら金取れるレベルでカッコ良かった。かつて古代ローマで、剣闘士興行が流行してた理由がわかるような気がする。


 あと、オリカにも俺の秘密を話して、さらにクランメンバーに引き入れた。これで、クランメンバーは総勢九名だ。シェローさん、ヘティさんなんかにも入ってもらったら、すごい大人数のクランになるだろう。


 オリカは俺の秘密を聞いて仰天し、イスから転げ落ちた。

 やはり、固有職というところで一番驚いていたんで、この世界の人にとって、固有職というのは格別の想いがあるものなのかもしれない。




 ◇◆◆◆◇





「大親方、おまたせしました」


 大親方の工房が完成して一週間後。

 俺は手に入れてきた鋼材を工房に運び込んだ。


 バスやトラックの板バネ(サスペンション)である。これらは鋼材としてなかなか良いもので、ナイフ用として昔から利用されていた実績がある。


 が、それは十分なだけ手に入らなかったので、知り合いの廃材屋の陰でひっそりと捨てられていた鉄道の廃レールを代わりにお友達価格でもらってきた。

 列車のレールは雨なんかで簡単に朽ちたりしないように、高炭素鋼の良いものを使っている。鉄材としては申し分ないだろう。

 趣味のナイフ材料としては使えないが鉄素材としては使える。個人ではさすがに鉄の塊からナイフ作ったりできないからな。

 ただし、さすがにクソ重いんで切断機を借りて三〇センチ程度にぶった切った。


 といっても、板バネもレールもすごい重量だ。

 日本ではクラン・インベントリは使えない。そもそも天職板が起動……というか出現しないのだ。しょせん地球には精霊さんはいないということなのだろう。

 となれば、少しずつ手作業で運ぶしかないということで、けっこう時間がかかってしまった。


 その代わり、全部でおよそ五〇〇キロ分もの鋼である。剣なら少なくとも二〇〇振りくらいは造れるだろう。もしかするともっと作れるかもしれない。

 ひとまずの分としては申し分ないはずだ。


「お…………おおおお……」

「お、大親方……?」


 運びたてホヤホヤの鉄を前にワナワナと震え、廃レールの一つを抱え上げ瞑目する大親方。

 その厳つい両眼の縁からキラリと光る雫が――!


「わしは今、猛烈に感動している……! 旦那……ありがとう。これだけの鉄をわざわざ用意してくれるとは鍛冶屋冥利に尽きるってもんだ」


「よかったです。腰を痛めながら持ってきた甲斐がありましたよ」


 実際ちょっと筋肉痛。

 普段から少しは鍛えてるといっても、重量物の運搬はまた使う筋肉が違う。

 平地は台車使ったからいいけど、家の階段が辛かった……。

 鏡を一階に下ろせばいいってことに、もっと早く気付いていればなぁ……。


 なんにせよ、これで素材の問題はクリアだ。

 日本と異世界とじゃ鉄の価値が段違いだからな。日本サマサマ。

 もし、この世界でこのレベルの鋼材を手に入れようとしたら、金貨何十枚も必要になっただろう。もちろん、品質だってこれほど均一ではあるまい。

 まあ、代わりに異世界にはミスリルみたいな魔法金属があるのだけどもさ。あれはあれで、鋼の代用品にはならないらしいから、鋼の価値が下がるということでもないようだし。


「初めての鉄だからな、いろいろ試しながらになるが旦那たちの剣はなるべく早く用意しよう」

「ありがたいです。あっそうそう、鉄はまだ持ってこれますから、外の仕事で使ってもいいですよ。あんまり安売りしなければですが」


 大親方が儲かれば、結果的に俺も儲かる。

 大親方は腕がいい職人だ。そこに地球人である俺のアイデアやら知識やらを突っ込めば、逆に儲からない方が難しいレベルなのだ。


「で、それはそれとして、大親方に作って欲しいものがあるんですよ。いや、最初は研究からになると思うんで、少しずつ時間があるときでいいんですが」


「なんだ?」


「……日本刀というのがありましてね。それを貴族向けに売り出したいんですよ」


 俺は用意してあった本を取り出した。

 日本刀に関する本は、図書館にいくらでもあったんでまとめて借りてきたのだ。

 刀そのものを持って来れればよかったが、さすがに刀は持っていないんで、本で我慢してもらうしかない。

 もちろん大親方は日本語読めないから、俺が説明するしかないのだけど、百戦錬磨のドワーフ親方ならばきっと大丈夫だろう。


 ……そう。日本刀である。


 この世界の剣はいわゆる西洋の剣であり、基本的に両刃で肉厚、重さに任せて叩き切る為の武器という感じのものだ。日本刀のように鋭利な刃でもって切るという印象は薄い。


 それに、なにより日本刀は綺麗だ。武器として使える美術品。そういう価値観だけでも十分売り物になるだろう。貴族相手ならなおさら。


 日本刀の素材は昔ながらの「玉鋼」が必要とされているが、これはつまりは鋼のことなので、ドワーフ親方ならなんとかしてくれるだろう。

 まあ、正直、そこまで厳密に日本刀である必要はない。伝統工芸品をコピーしようとしてるわけじゃないし、究極的には「大親方がナットクできる出来で、カッコよくて、良く斬れる」ならそれでいい。


「すげえなこいつは。刃紋を美しく出すなぞ考えたこともなかった。刀身を反らせた剣は作ったことあるが、こいつは強度もありそうだ。旦那! 面白そうな仕事じゃねぇか!」


「どうです、見た感じ。できそうですか?」


「そうだな。反りを入れるのがちと厄介そうだが、できなくはないだろう。とにかく、こういうものは手探りだ。すぐには無理かもしれんが、ま、ワシに任せてくれ」


 思ってたよりも軽く請け負ってくれる大親方。

 日本刀も異世界鍛冶屋にしてみれば、数ある武器のひとつでしかないのかもしれない。

 なんにせよロマンだ。試作品ができるのを楽しみに待っていよう。


 その後、大親方とは騎士隊の装備品について話し合った。

 剣だけでなく、防具も含めた総合的な装備を作ってもらう予定なのだ。女だけの騎士隊。傭兵やら山賊じゃああるまいし、実用重視で好き勝手な防具を着るというわけにはいかない。


 美しく実用的に。ひと目で騎士であるとわかるようなものが好ましい。

 晴れ舞台を飾るに相応しい逸品にしたい。

 記章も早めに作らなきゃな。




 ◇◆◆◆◇




 話は前後して、数日前のこと。

 いつものように店番をしていると、神官ちゃんが店に顔を出した。

 なんでも、ルクラエラでの一件について神官ちゃんが市長に報告をしたそうで、その件で市長が俺たちに礼がしたいのだそうだ。

 どうも、神官ちゃんがかなり大袈裟に報告をしたらしく、なんだったらけっこうな額の礼金でも貰えそうな雰囲気らしい。


 特に、ルクラエラを護るべきエルフがトンズラした件には、市長もかなりご立腹だそうで、そういうのもあって、余計に感謝されているみたい。

 実際に会って話をしたいということだったので、アポイントメントを取ってもらい、実にひさしぶりに市長……ミルクパールさんと面会することとなった。

 まあ、旦那さんのビル氏とはちょいちょい会ってるんですけどね。


「お久しぶりです、ミルクパールさん」

「ジローさん、お久しぶりね」


 ミルクパールさんとは、神殿の応接間で待ち合わせをした。

 市長と言っても、ミルクパールさんには護衛が一人と秘書が一人付いているだけで、案外気楽な面会である。

 こちらは、俺とディアナとマリナ。いつものメンツだ。


 簡単に挨拶を交わしながら、全身をナメるように視線を這わせるミルクパールさん。

 まあ、あのころと比べたら体型はかなり違うかも。筋肉が付いたし、贅肉は落ちた。


「あの時は、かわいい宝石商という話だったのに、ずいぶん立派になられて」

「やはり自分の身は自分で護らなきゃですからね。それが高じてこんなことになってしまいました」


 けっこう見た目変わってるのか。あんまり意識したことなかったな。

 でも、シェローさんとかなり厳しい訓練してるし、当然っちゃ当然か……。


「素晴らしいわね。エリシェの治安も良くはなってきましたが、豊かになった分、どうしても良くない輩を引き寄せます。私たちも憲兵を増やして対応はしているのですが」

「あ、いえいえ。エリシェは平和ですよ。驚くほど。良い環境で商売させてもらってます」

「ありがとう。そう言ってもらえると、市長としては鼻が高いわ」


 市長は一呼吸置いて、


「それで、本題。神官様から聞いていると思うけれど、ルクラエラの件。本当に感謝しています。私の権限で出来る限りの礼をさせていただきます。半分は我々の不祥事、それを命を掛けて下さったのだから」


 お礼か。

 実は、ひとつ考えがあった。

 お金でなく。

 市長にしか頼めないものが。


「僕が私営の騎士隊を作ったって話は聞いていますよね?」

「ええ、神官様からうかがっているわ。騎士職の女性を集めているって」

「集めているというか……まあ、大筋としてはそうです。それでですね。今回の件、死傷者なしで解決できたのは、彼女たちの力によるところがほとんどなんですよ。ですから、エリシェのイベントとしてですね、彼女たちの功績を称えたパレードと簡単な感謝状の授与式を開いて欲しいんです。ミルクパールさんに」


 パレードと聞いて市長は訝しげな顔をする。

 まあ、確かに急だし意外な申し出だったかも。


「御存知の通り、騎士職の女性はこの国ではずっと報われずにいたわけですが、今回の件を公にすれば、ヒトツヅキをまるごと抑え込めるほど実力があるということを、知らしめることができるはずです。強く美しい女騎士たちのパレードは単純に人目を引くでしょうし、まあ、実際はそれほどの影響力はないにせよ、少しは女騎士の立場向上の役にもたつかなと思うんです」


 パレードがきらびやかであればあるほど、騎士隊……いや、女騎士に対する見る目も変わるだろう。お披露目ができれば、騎士になれず別の仕事をしている騎士の女性も来てくれるだろうし、騎士隊にもなにか仕事が来るかもしれない。

 もちろん、そんなことをしても懐疑的な輩がほとんどだろうし、ひょっとすれば逆効果の可能性だってある。

 だけど、なにもやらないよりはいいだろう。


「なるほど……おもしろそうね。もう少し詳しく聞かせてもらえる?」

「もちろんですとも」


 その後、想像以上にノリノリのミルクパールさんと悪巧みをして、パレードはおよそ一ヶ月後に行われることが決定した。


 やるからには大々的に。

 騎士の女性は騎士になれないという、固定観念を破壊するだけのインパクトが欲しい。


 まず戦闘力を見せるという意味で、パレードの後のパーティでは簡単なデモンストレーションもやることにした。シャマシュさんの召喚魔獣とのガチバトルをやる予定。


 見た目にも当然こだわりたい。みんな、素の状態で十分に美人だが、ここは地球から化粧品やアクセサリーなんかを持ってきて着飾るといいだろう。あとは装備品だ。特にお揃いの防具のデザインにはこだわりたいところ。金はかかるが、必要な出費だ。


 事前の宣伝も欠かせない。

とりあえず、ルクラエラでモンスターが突然大量に湧き、あわや大惨事! というところを、旅行中の女騎士たちが鎮めたという話も意図的に流すことにした。

「噂の騎士隊がパレードをするらしい」ということになれば、暇人が大量に駆けつけるだろう。ただでさえ、この世界はイベントが少ないのだ。かなりの集客が見込めるはずだ。ついでに屋台なんかもやれればいいんだが、そこまでは手が回らないな。


 さらに、これは副次的な効果というか、市のほうで警備やなんやらの仕事がある時に騎士隊を使ってもらう確約をいただいた。まあ、市でパレードをやる以上、その後はなしのつぶて・・・・・・というわけにはいかないということのようだが、ありがたいことだ。


 我が騎士隊は、伝説の傭兵団『緋色の楔スカーレット・ウェッジ』の元副団長「怪物ジャガー・ノート」シェロー・ロートを顧問に置き、騎士隊長のレベッカさんは竜騎士ドラグーンだし、マリナはマジックウェポン持ちだし、ハイエルフのディアナもいるし、騎士隊付きの魔法使い|(シャマシュさん)までいる! この街の憲兵隊はけっこう優秀だという話だが、うちの子たちのほうが確実に華があるぜ。


 ……まあ、ルクラエラでのことは、俺自身が引き起こした現象のような側面があるんで、かなりマッチポンプくさいのが玉に瑕だけどな。大事なのは結果だ。

 とにかく、これを機に騎士隊も知名度アップして、ついでに俺の商売のほうもでかくできればいいなと思う。


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