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第117話  ショッピングはマイホームの香り


 ネトオクでの稼ぎは悪くない。

 良い――と言ってもいい。

 ちょっと前にレースが売れたのが、かなりの金額になったし、少しだが貯金もできている。

 ベッドシーツなんかの手織り布はコンスタントに売れているし、雑貨類も人気だ。たまに落札なしで流れる品もあるけど、何週か回せばだいたいは落札される。

 とはいえ、しょせんはネットオークションで小遣い稼ぎしてるってレベル。月の稼ぎとしては20万円を超えているけれど、そんな程度であるとも言える。異世界という圧倒的なアドバンテージを考えると、かなり小規模だろう。

 今更だが、我ながら堅実――というか小心者だ。まあ、ドカーンと行くと大変な目に合いそうだから仕方がないが。

 とにかく、ネットショップ始めるまでは、しばらくこれぐらいの規模でネトオクしておこう。



 俺はエトワとディアナたちに店を任せ、買い物に出た。

 エリシェでの買い物ではなく、地球……というか日本での買い物である。イオンが新しく屋敷に住むんで、いろいろ追加で揃える必要があるからだ。


 なんたって、相手は女の子でお姫さま。

 それもガチのやつだ。

 なんちゃってお姫さまとか、オタサーの姫とか、そういう贋作、イミテーションじゃない。真作だ。真作のお姫。

 何言ってんだ俺は。


「まずはベッドだな」


 イオンは現状、ディアナとマリナといっしょに寝ている。

 キングサイズのベッドとはいえ、女三人だ。どういう状況で寝ているのか覗き見たことは(残念ながら)ないが、窮屈なのは間違いないだろう。ディアナなんかは、遠慮なく大の字になって寝そうなイメージあるし。ひょっとするとマリナあたりが床で寝てるまである。

 だから、とにかくベッドの購入は急務だ。


 お姫さまのベッドといえば天蓋付きのアレを想像する。

 が、さすがにそれを買う余裕はないんで、普通に安い折り畳みベッドを買うことにする。

 オリカが使っているのと同じようなやつだ。あれはうちの姉のお下がりだが、とりあえず使うには十分だろう。少し落ち着いたら、ディアナとマリナが使っている異世界製の高級ベッドに変えてもいい。あれはあれでいいものだし。

 ベッドを家具屋で買ってから、ニ○リでマットレスと掛け布団に枕を購入。

 ついでにシャマシュさん用にもマットレスと布団をワンセット買っておいた。異世界産のは天然素材で良い面もあるが、実用という点ではやはり化学の力でアレコレやってある現代日本の物のほうが、優れているだろうからな。

 あとはいろいろ雑貨も購入。ニ○リは安いのもあって、ついつい買いすぎてしまうな。


「次は服……というか下着か」


 向かう先はユ○クロである。

 困った時のユ○クロ。といっても、それほど沢山揃える必要はない。


 まず下着。下着のクオリティは異世界よりも日本のほうが確実に上だ。そのくせ、安い。

 女物下着を購入するのは男にはハードルが高いと思われがちだが、慣れてしまえばどうということもない。なにを買おうと買い物は買い物だ。金さえ出せばOKだ。


 ちなみに、サイズはマリナが計ってきてくれたものを使っている。

 ディアナに毛が生えたくらいのサイズ。これからの成長に期待だネ。

 ユ○クロの下着は安いがシンプル。見た目はまあ、あんまりかわいくはないが、そこら辺はいいだろう。俺も下着にはあんまりフェティシズムを感じないしな。

 品質に関しては、お姫さまでも納得の品……だと思う。女性用下着の良し悪しはよくわからないが。


 下着以外では、靴下やパジャマや部屋着、あとは適当にTシャツなんかを選ぶ。

 ただでさえ安いのに、さらに値引きしてるのを選んで購入。

 結局、あれこれ買いすぎて3万円を超えてしまったが、必要経費と割り切ろう。

 まあ、服に関しては、ディアナに買ったやつもある。サイズ的には入るだろうから、お古をもらってもいい。

 マリナのだと少し大きいかもしれない。


 イオンの買い物が終わってから、いつもの布屋に向かう。

 布屋では、エリシェの市場で販売する為の商品を仕入れたり、ネットではわからない現物の風合いを確認する為なんかに利用したりしている。

 けっこう大きい店なので、値段もこなれており、利用頻度は高い。


 駐車場に入り、車から降りる。

 店の前ではためく「SALE」と書かれたノボリ。

 店に入れば、店内のいたる所に貼りめぐらされた「決算セール」のビラ。

 みんな大好き決算セール中ということらしい。


「おお、やったぜ。ちょっと見てみるだけのつもりだったが、まとめ買いのチャンス!」


 すでに軽自動車は荷物でパンパンだったが、まだ布くらいならいくらでも入る。

 俺はさっそくセール品に目を通した。

 キラメク赤札。胸に迫る50%オフの御文字。

 だいたいの場合、セール品は不人気な柄物がメインとなる。あとは不良在庫、沢山仕入れたが思ったより売れなかった商品などだ。

 だが、そんなことは関係ない。セールってだけで尊い。

 夢中で買う布を選ぶ俺なのであった。


 現在、異世界の店で俺が扱っているのは無地の布がメインである。

 ただの木綿コットンの布だが、コンスタントによく売れる。それは、「手紡ぎ糸、手織りの布」しか存在しないエリシェで唯一、「機械紬ぎ糸、機械織り」の布を扱っているからだ。

 素材そのものは同じ綿。ただ織り方、要するに製法のみが秘伝であるという方向で、特に怪しまれず「薄手で染色も綺麗な布を売ってる店」という立ち位置をゲットできた。

 そもそも、ああいう市場で布なんかを買うのは地元のオバさんがほとんどだ。そういう意味でも実に目立たず儲けてこれたと言っていい。

 まあ、そんなわけだから、それを基本として商売を組み立ててきたが、騎士隊のこともあり商売もそろそろ拡大したい。

 新しい商材にチャレンジしてもいい頃だ。


 異世界で売っている布は、最近はネットで注文することがほとんど。

 なんだかんだ言っても、安く仕入れて高く売るのが商売の基本。なればこそ、基幹商材である布は安く仕入れたい。

 ネットの激安店は本当に安くだいたい一メートル一五〇円で買うことができる。これをだいたい一〇倍くらいの値段で売っているんで、かなり安定した儲けになる。


 ただ、いくら物があふれた時代といえど一メートル一五〇円で買える布の種類は限られている。俺は商売で使う関係で、かなり大量に仕入れられるんで、この価格が実現したのだけど、ふつうは無理だ。

 もちろん、セールなんかでは一メートル一〇〇円というのも見ることもある。だが、そういうのは布の種類は選べないのが普通なので、仕入れること自体はあるが、メイン級にはしにくい。もしお客さんが気に入ってくれたとしても、次回入荷予定ナシではあんまりだからだ。

 だから、そういうのを仕入れた時は、それなりの金額で常連さんに売るというのが慣例となっていた。


 さて、今回もセールでかなり安くなっている。

 セールで安くなっているということは、単発の商品ということだ。店で出すとしても、次回入荷予定ナシ……ということになる。

 だから、いままでなら、あまり仕入れなかったが――


 タータンチェック柄の生地。

 変な猫のキャラクターのプリント生地。

 紺色の薄いポリエステル生地。

 黒のフェルト。

 真っ赤なコーデュロイ。

 毛糸30玉。

 リボン三巻き。

 刺繍糸やら、縫製糸。


 ちょっと思い切っていろいろ買ってみた。

 どれも、50%~70%引き。かなりの値引き率だ。


 さて、いくつか仕入れてみてシミジミ思うが、日本でも布は高いということだ。

 安い布は、本当に1メートル100円なんかで売ってる時があるが、そういうのは本当に例外だ。

 通常、布は10センチ単位での販売となるから、その場合、最小単位で10円の布ということになる。これは安すぎというか、最安値の布だ(実際には激安布はもっと長い単位からの販売になるが)。


 では一般的な布はどれくらいか。だいたい、その5倍から10倍の範囲である。

 10センチ50円~100円。

 1メートルで500円から1000円ということ。まあまあ、現実的な金額という気がするだろう。


 これ以上の価格帯に入ると、少し高級な布になってくる。

 10センチ200円もすれば、十分に高級な生地だ。1メートルで2000円。

 これぐらいになると、異世界で売る為に仕入れるのはちょっと冒険になる。安い布と同じ感覚で売る場合、1メートルで20000円という価格で売ることになるからだ。かなりの高級生地である。

 だが、実はこれも贅沢ができる人や、着道楽ならば出せない金額ではない。


 日本で有名な高級生地と言えばなんだろうか。

 いろいろあるが、パッと出てくるもので有名なのは「カシミア」であろう。

 カシミアは、山岳地帯のヤギの毛であるが、生産量が少なく性質が良いことから、かなり高値で売買されている。

 さて、このカシミア、日本で買うと(ばらつきは当然あるが)だいたい1メートル40000円である。

 異世界で10倍の値をつけるなら、40万円。ほとんど宝物だ。

 もしコートでも作るとなれば、4メートルくらいは使うだろうか。生地だけで160万円である。まさに貴族のための服だ。


 まあ、とはいえ、さすがに40万円の布を売るつもりはない。

 だが、高級で良いものなら、日本でも4万円の生地が存在するというのが事実。

 なれば異世界でも当然そうだろうし、むしろその傾向は強いはず。


 あとは、俺に高級布を取り扱う覚悟があるかどうかだけだ。



 とはいえ、ベルベットの時のような失敗はしたくない。高級布を売るなら、レベッカさんあたりに相談するかどうかしよう。サンプルいくつか用意して、その中から無難なものをチョイスするぐらいの慎重さで丁度いいかもしれない。


 ベルベットといえば、ポッチャリ商人はその後どうなったんだろ?

 ソロ家の代わりとしてディアナのサポート要員をやるとかいう話だったはずだが、湖畔街に遊びに行くと宣言してから、全く見ない。別にいなくて困ることはないが、仕事はどうしたんだという感じもある。

 ヘティーさんが帝都に戻って実家を探ってくるとか言ってたから、彼女が戻ってくればわかるのかな?

 それとも、あの世界のバカンスの感覚じゃあこれぐらい長く避暑地で過ごすのが普通なのかな。日本は地球ですらちょっと感覚オカシイって話だしな。


 とにかく。

 今回買った新しい布は、ちゃんと相応の少し高い値段で売ることにしよう。

 というか、そろそろ露店を卒業して、ちゃんとした店を借りて、そこで売ったほうがいいか。

 まともに働ける人材はまだイマイチ増えてないが、騎士隊もやるんだし、拠点にもなる店が欲しいってのもある。


 ふと、そう思ったら、実際今は新しい店を始めどきかもしれない。

 こないだのルクラエラでの戦いのお陰で、魔結晶が山ほどある。

 エリシェではそれほど需要がないから、そう高くは売れないが元々がそれなりの金額のもの。あれだけあれば店を借りる程度の資金にはなる。


 商品に関しても問題ない。鏡のアドバンテージは絶対的なものだし、鍛冶屋の大親方と共同で作った作品だって売りたい。

 問題は店員が不足していることくらいだが、これから騎士隊を大きくしていく過程で、騎士の女性を雇えるようになる……はずだ。

 そうでなくても、また新たに弟子をとってもいい。

 あと、必要なのは本当に俺の覚悟だけなのだ。

 ま、覚悟ったってもうエリシェでもそれなりに顔見知りも出来たし、小さい店借りるくらい余裕……のはずだ。


 ◇◆◆◆◇


 あれこれ新しい店のプランを考えながら、帰宅。荷物を屋敷に運び込んで、ベッドを設置した。

 新品のベッドに新品のマットレス。ベッドの高さを調整して、もともとディアナたちが使っていたベッドと高さを揃える。

 ディアナたちが使っていたベッドがおおよそキングサイズと呼ばれるサイズ。

 そこにさらにシングルベッドをつなげるのだから、相当に広い。詰めれば5人だって寝られそうな感じになった。ちょっと豪華すぎたかもしれない。

 俺も一緒に寝ちゃっても問題ないレベルに豪華すぎたかもしれない。

 寝室自体も屋敷で一番広い部屋だ。

 最初、イオンの新しいベッドはオリカが使っている部屋に入れて、メイド同士、相部屋にしようかと考えたのだが、オリカの部屋は狭い。ベッドをふたつ並べたら、ほとんどベッドだけの部屋になってしまうので無理だった。

 ニ○リで買ったカラーボックスを組み立てて、イオン用に買った衣類を突っ込む。

 これでとりあえずOKだろう。


 天職板を開き、お導きを確認する。


『マイホームを手に入れよう 0/1』


 このお導きは、俺がこの屋敷にお泊りすればクリアーとなるらしい。

 精霊石に困ってなかったんで、とりあえずスルーしていたが、マイホームを手に入れると、クラン特典で、一日一回どこからでもホームへのテレポートが可能になるとかなんとか。

 試したい、そのテレポーテーション。

 いや、実際ちょっと怖い感じするけど。


 というわけで、今日は泊まってみよう。

 ……もちろん、俺はリビングのソファで寝るけどね。

 ベッド大きくなったからって、いきなり女の子たちに混じって、一緒に同じベッドで寝るとか無理に決まってんじゃん! 

 童帝ナメんな!



 ◇◆◆◆◇



 庭に出ると、イオンがちょうど厩舎の掃除を終えたところだったので話しかけた。


「イオン、おつかれさま。仕事は慣れた?」

「おつかれさまです、アヤセさん。最初は少し戸惑いましたが、今では楽しくやらせてもらってます。オリカさんも、ディアナさんも、マリナさんもいい人ですし」


 元お姫さまであるイオンは、厩舎の掃除などやったことがないだろうに、うなじに薄く汗を輝かせて屋敷の仕事に精を出している。

 俺なんかは小心者なので、こうして働かせつつも、ちょっと本当に大丈夫かなとドキドキしてしまうのだけど。

 オリカもたぶん同じタイプだろうから、イオンの出自を秘密にしたのは正解だっただろうな。

 ちなみに、今屋敷には俺とイオンとオリカしかいない。

 ディアナとマリナは店に出ている。


「それなら良かった。仕事はひとまず終わり? ちょっと見て欲しいんだけど」


 ハイと一つ頷いたイオンを、部屋に呼び、ベッドと買ってきた服と下着を見せた。


「とりあえず、下着と部屋着。ベッドも3人じゃ狭いから一つ追加したからね。寝る場所――というか、並び順? は、あいつらと話して決めてくれればいいよ」

「これを私に……?」


 パジャマを広げて、意外そうな表情を浮かべるイオン。

 こんな安物が着られるかぁー! ……ということではないだろう。

 元お姫さまのくせに謙虚だな。


「ま、これからいっしょに生活してくんだから、生活必需品くらい用意するさ。住み込みの女中さんなんだからね」

「こんなに質の良いものを……。気遣っていただき、ありがとうございます」

「一応チェックして。問題ないと思うけど、サイズとか」

「サイズ……」


 呟きながら、ブラジャーを手に取るイオン。

 思わずという感じで、俺の顔を見て、瞬間的に顔を赤くする。

 おっと、さすがにサイズを知られたのは恥ずかしかったか……。


「え、えっと、これディアナさんやマリナさんが付けているやつですね」

「付け方はわかる?」


 ぐへへ、ブラジャーは初めてか? ワシが教えてやろう。こう、ワキのほうの肉をグイッと掻き集めるんやで……。


「前にマリナさんが教えてくれました」

「アッハイ」


 まあ、そうなるな。

 冗談はさておき、これでイオンの服関係はある程度いいだろう。

 不足なら、日本で買わなくても、エリシェで中古を買ったっていい。

 普段は(中古で買った)メイド服をすでに着てもらっているんで、それほど沢山必要ということもないしな。


 なんとなくベッドに腰掛け、一度広げた服や下着を丁寧にたたんで仕舞っていくイオンを眺める。

 透明感のある肌に、瑞々しい水色の髪。今は長い髪をサイドテールにくくっている。

 我が家にやってきた正統派美少女という趣だ。 


「アヤセさん、最近シャマシュとはどうですか?」


 服をたたみながら、世間話ですよという風に訊ねられる。


「これといって特には。何度か二人で飲んだけど、それくらいかな」


 シャマシュさんは俺の奴隷で、エロエロな感じだし、エロエロでシッポリという風な願望はあるのだけど、さすがにまだそういう段階にはない。

 いや、この場合のイオンの質問の意図はそういう意味ではないか?


「シャマシュはああ見えて寂しがりですから、お願いしますね。シャマシュ、きっと、アヤセさんのお誘いを待ってるんだと思うんです。あんなに可愛いのに、すっごい自信ないから……」


 意外。そういう意図の質問だった模様。お誘いって……。


「ま、そのへんはおいおいね……」


 言葉を濁す。

 だって、まだ誰ともなんもしてないのに、「任せとけ、一発でキメるぜ!」とか言えないよね。


 てか、ここまでなんもなしだと、ディアナとかマリナとかのことも、正直言えばあるのだ。はっきり言ってしまえば、あの二人とそういう関係になるチャンスはいくらでもあった。最初のころと今とでは違う。関係だって温めて来たし、気持ちだってあると思う。


 それでもそういう関係にならないのは、一つは俺が臆病だということ。もう一つは、今のこの関係でも心地いいから、焦らずに温めていけば、必ず無理なくそういう関係になれる時が来ると確信しているってのがあるからだ。

 レベッカさんとのこともそうだ。あのルクラエラの夜、彼女はOKのサインを出した。

 あの夜は、ディアナが邪魔しなければ、そのまま突き進んだ可能性が高かったが、結局そうはならなかった。

 ただ、それはあくまで結果としてそうなったという話であって、もうお互いの気持ちはあるということなのだ。

 ならば、シャマシュさんとも、いずれはそういう気持ちになって、そういう風になる時が来るのだろう。そして、それは今更シャマシュさんにだけ焦ってどうこうってことではないと思う。

 お互いの気持ちとシチュエーションがあれば、なるようになる。

 なるはずだ。

 なると思う。

 なるんじゃないかな。

 はい、言い訳ですよ! 

 要するに俺がヘタレってだけなんですよ!


 童帝ナメんな!




 ◇◆◆◆◇




 そして、その日の夜。


「今日は、例のお導きの関係で屋敷に泊まるけど、ソファで寝るから、気にせず寝ててくれ」


 食事中に俺がそう言うと、みんなすぐに反応を返してきた。


「えっ、旦那さま、せめて私のベッドを使ってください。私がソファで寝ますから」


 オリカのベッドでなぁ。まあ悪くはないけど、別にソファでいいしな。


「いえ、新参者の私がソファで寝ますから、アヤセさんがベッド使って下さい」


 イオンのベッドでなぁ。そうなると、ディアナマリナと一緒に寝るのと同義になるなぁ。


「ソファなんて使わなくても、マリナの横が空いているのであります。ベッドは広いのであります。さっき見たらさらに広くなっていたのであります。問題ないのであります。マリナが抱きマクラになるのであります」


 マリナの横でなぁ。魅力的な提案だけど、すっごい気疲れしそう。


「ではこうしましょう。マリナをソファで寝かせて、イオンのベッドはオリカの部屋に移して、ご主人さまは私と二人であのベッドで寝ることにしましょう。我ながらグッドアイデアなのです」


 そんなに同衾したいのかお前ら。

 俺だって、男なんだぜ……!?


「いいなぁ……。私も参加したい…………」


 シャマシュさんが呟く。参加したいか? これに……。


「よし。みんなの意見はすべて聞かせてもらった。折衷案を取って、俺が一人でソファで寝ます!」


 てか、最初からそれしかないっての。

「じゃあ全員まとめて可愛がちゃろかい!」とやれるなら、最初から苦労はねぇっての。

 それに、別にソファで寝ること自体、ぜんぜん苦じゃないしね。

 うちのソファ、デカいから寝るの問題にならないし。



 最終的には俺の決定は絶対だ。

 ディアナは最後までゴネていたが、結局そのまま寝る時間に。


 とはいえ、俺はまだ仕事が残っている。

 一度、鏡を抜けてパソコンをON。ネットオークションをチェック。落札された品を梱包して、送り先を書いておく。夜のうちに用意しておいて朝一番で郵便局に持っていくのだ。

 少し掲示板で遊んでから、風呂に入り、そろそろ寝ようかと毛布を片手に鏡をくぐった。


 現在、深夜0時ちょっと前。

 だいたい夜の9時にはみんな寝てしまう。もう、とっくに夢の中だろう。

 音を立てないようにして、階段を昇り、リビングへ。


 月明かりに照らされたリビング。

 月がふたつあるこの世界では、夜でもけっこうな明るさだ。


「…………?」


 ソファに誰かが腰掛けている。

 窓から差し込む月光を浴びて、怪しく浮かび上がる身体。

 肩で切りそろえた紫髪の女が、俺に気付いて振り向く。


「マリナか……?」

「……主どの、マリナ、待ってたのであります。来ないかと思ったのであります」


 そう言いながら、ニヘラと柔らかく微笑む。

 パジャマ姿のマリナが一人、ソファの前に立ち待ち受けていた。


 こいつは長い夜になりそうだぜ!






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