クソッ……どうしてこうなっちまったんだ!
いつもならこんなミスはしなかった。
この日はたまたま運が悪かった!
バイツ侯爵家が領主、ガゼルバン・バイツ。奴は領民から税収をせしめ、懐に脂肪と金をたんまり蓄えている諸悪の根源。
この日は貴族のお偉いさん方の会合とやらで領主が夜まで留守との情報を仕入れていた。オレサマは舎弟を数人連れ、バイツの屋敷へ訪れていた。奴は今頃、大通りの酒場で酒盛り中。屋敷には老執事にメイド、一人娘と婦人しか居ない。
万が一見つかっても娘を人質にさえ取ってしまえば宝石と金がたんまり手に入る。こういう算段だった。
屋敷の裏手から忍び込み、部屋を物色する。ようやく宝石や衣装が置かれた部屋に辿り着いた時、廊下から悲鳴があがった。
「きゃああああああ」
「ちっ、娘か! お前等、娘を捕まえろ!」
「「「へい兄貴!」」」
「きゃああああ泥棒よぉおおお!」
「大人しくしろ! へっ?」
齢十二位の娘がオレサマの舎弟を投げ飛ばし、もう一人の舎弟も巻き込んで倒す。三人目の舎弟のナイフを躱し、足払いをされた残りの舎弟が宙を舞った。
「この餓鬼が! 大人しくしろ!」
オレサマを嘗めて貰っちゃ困る。かつてはゴロツキ界の肉達磨と呼ばれたオレサマの肉体を止める事は誰も出来……は?
「アルカディアン柔術―ーザイン背負いー!」
娘の何倍もの巨体であるオレサマの肉体は回転し、地面へ叩きつけられた。オレサマの上でニコリと嗤う娘。
「お前……悪魔の子か何か?」
「いいえ、神父様に神の教えを乞うた愛弟子ですわ」
娘がドレスの裾から何やら針のようなものを取り出し、オレサマの腕へプスりと突き刺した。
「おやすみなさい、名もなき
「なん……だと!?」
そして、次にオレサマが目を覚ましたとき、オレサマの身体は手枷と足枷に縛られた状態で殺風景な部屋で磔になっていたんだ。
「あ、おはよ。目を覚ましたみたいね」
「おめぇ……ナニモンだ」
頭が痛い。頭の中が霞がかったかように重たい。こいつ、オレサマに薬か何かを盛ったのか。
「わたしの名前はシルク・バイツ。バイツ侯爵家の
「は? 何言ってんだ! お前はどうみても女」
「あはっ、嬉しい♡そう思ってくれて」
身体が重たくなければ、この程度の手枷と 足枷くらいどうってことねーのに、思考が定まらねー。それになんだ、真ん丸の瞳にふわふわの桃色の髪……餓鬼と思っていたが、近くで見ると女の顔をしてやがる。嫡男とか言って騙そうとしたってそうはいかねぇー。
「おめーみてーな可愛らしい奴が女な訳ねーだろ」
「じゃあ、試してみる?」
刹那、オレサマはシルクに唇を奪われた。甘い香りが鼻腔を麻痺させる。なんだ、この痺れるような感覚は……。拘束され、なすすべなく抵抗すら出来ねぇー。口内へ甘い淫香を忍び込ませて来やがる。くそっ、どうしてこんな奴に興奮させられて……。
「おや、もう初めていらしたんですね」
「あっ! ザイン神父♡」
女の顔をしていたシルクがオレサマから離れ、部屋ヘと入って来た神父らしき男へ駆け寄った。こいつ……神父の服で隠してやがるが、相当鍛えている。オレサマには分かる。闘いを極めた者だけが纏うオーラ。こいつはカリスマと呼ばれる、人を寄せ付ける何かを放っている。
まるで光に寄っていく蛾のように、小さい者は吸い寄せられる。オレサマもこいつの檻に……いや、何を考えてるんだ! まだだ、こいつの目的を聞いて、こんな場所、脱出してやる!
「ザイン様ー、わたし。ザイン背負いでやっつけたんだよ」
「流石、あなたはやはり私の一番弟子ですね」
こいつらオレサマが見てる目の前でおっぱじめやがった。さっきの柔らかいシルクの感触を思い出して、オレサマも身体が熱くなっちまう。舌と舌。絡み合い、糸を引く度、扇情的な表情になるシルク。神父が上半身を脱ぎ捨てる。オレサマに負けない位の肉体美……中々やるじゃねぇか。
続けてドレスをゆっくり脱ぎ捨て、下着姿になるシルク。そして、オレサマは目を見開いちまった。
赤いレースの下着姿のシルクは、胸元だけでなく、下半身の隠された部分も膨らんでいた。
「ごめんね、ザイン様。本当はあの人みたいに鍛えた身体が好きなんでしょう? でもわたし、将来、ザイン様の子を産みたかったから……」
「いいのです。私が神から授かった
「嗚呼、ザイン様♡」
脳がついていかねぇー。聞いた事がある。この世界には神から授かった
じゃあ……今、神父とまぐわってやがるシルクは本当に男だって言うのか!?
おい、その表情で近づくんじゃねぇ。脳がバグるじゃねぇか。
「……雌の悦び」
「は?」
「知りたいと思わない?」
「何を言ってるんだ」
シルクがオレサマの喉元を指先でなぞる。なんだ、この全身を駆け巡る感覚は!
「ザイン様は前からあなたの肉体を気に入っていた。だからわたしの侯爵家をあなたが嗅ぎ回ってた時から泳がせていたのよ」
「耳元で吐息をかけるんじゃねぇ!」
「へぇー、男のわたしで興奮したの? こんな状況で? 変態」
「くそっ、やめろ」
シルクがオレサマから一度離れ、代わりにザイン神父とやらがやって来た。
「鍛え抜かれたその力、私のために使って下さいませんか?」
「なに……こんな状況で何を言ってやがる!」
「もし……私を
「なっ」
さっきの
「いいぜ! やってやる」
「そうですか、それはよかった」
オレサマの頭をザイン神父が撫でた瞬間、オレサマの身体を何かが駆け巡り、頭が真っ白になった。