試合をコントロールするとはどういうことか?
ボールを支配することなのか?ペースを握ることなのか?
それとも、試合の流れを決める見えない糸を引くことなのか?
走り、戦い、ぶつかり合い、汗を流す者もいる…
そして、ほとんど動かないまま、すべてを動かす者もいる。
まるで言葉を必要とせず、ビジョンと忍耐…そして正確さだけを必要とする操り人形師のように。
コントロールとは叫ぶことではなく、示唆することだ。
押し付けることではなく、挑発することだ。
操り人形師は強さで輝くのではなく、知性で輝く。
誰もが反応している間に、彼はすでに次の一手を考えている。
そして、試合が落ち着いているように見える時、
彼の仕事は真に始まる。
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練習が終わりを迎える頃、選手たちは夕日の差し込むグラウンドの中央に集まっていた。
レオ(キャプテンマークを直しながら)
「明日はスカイブルーとの試合だ。もう知ってると思うが、あいつらの強みは攻撃力にある。ショウゴ・タカハシとタクミ・カトウの2トップは脅威だが、本当に厄介なのはコウスケ・ヤマモト。あのトップ下は“操り人形師”と呼ばれている。理由は見れば分かる」
選手たちは一様に真剣な表情で耳を傾ける。
レオ
「ヤマモトに試合のテンポを握らせたら、間違いなく苦しくなる。自由にさせるな。それが鍵だ。いいな?」
選手たち
「はい!」
レオ
「よし、今日はここまでだ。明日は早めに集合。お疲れ!」
選手たちは解散し始め、グラウンドにはフクタミ先生とレオだけが残る。
フクタミ
「…どうした、イガラシくん。何か気になることでも?」
レオ
「少し不安でして。練習はしてきましたが、まだ詰めが甘い気がします」
フクタミ(苦笑)
「まあ、プロの監督じゃなくて、ただの教師がやってるんだから当然かもな」
レオ
「それでも、先生は本当によくやってくれてます。サッカーを必死に勉強してるの、見てて分かります。感謝してます、心から」
フクタミ
「感謝されるようなことはしてないさ」
レオ(深く頭を下げ)
「全国に連れて行きます。先生の努力、無駄にはしません」
──そして夜が明け、試合当日。
実況
「ようこそ、東京予選リーグの一戦へ! 今日は黒い影クロイ・カゲ対スカイブルーの注目カードです! 黒い影は前回の苦しい勝利から、スカイブルーは浅草との2-2の引き分けを経てこの試合に臨みます!」
試合前、円陣の中でレオが語りかける。
レオ
「また厳しい相手だ。でも俺は、お前たちを信じてる。頭と心を使って戦おう。勝つぞ!」
選手たち
「はいっ!」
実況
「黒い影の先発は以下の通り:GKは背番号13番・タチバナ・リコ。DFラインは右CBがキャプテン・アキラ・ユウジロウ(#22)、左CBがフジキロウ・アキラ(#4)、右SBがタナグチ・ジロウ(#2)、左SBがニシムラ・エミ(#16)。
MFはアンカーにイガラシ・タケシ(#6)、右にナカノ・ヒカル(#14)、左にスズキ・リン(#18)。
WGはタナカ・ユウキ(#7)とアベ・リョウ(#11)、1トップはツクシマ・ユエン(#9)です。
対するスカイブルーの注目はこの三人:9番タカハシ・ショウゴ、10番カトウ・タクミ、そして21番でキャプテンのヤマモト・コウスケ、“操り人形師”です!」
──試合開始。クロイ・カゲのキックオフ。
実況
「さあ、試合が始まりました! まずボールを受けたのは11番・リョウ。左サイドを駆け上がります!」
リンが内側から走り込み、ワンタッチで再びリョウへスルーパス。リョウはそのまま相手DFと1対1になる。
DF(挑発的に)
「さて、腕の見せ所だな?」
リョウ(落ち着いて)
「悪いけど、これが俺の得意技なんだ」
足元で巧みにボールを動かし、相手の足を引きずり出すと、美しいヒールタッチで股を抜いて一気に縦へ抜ける。
実況
「なんというテクニック! アベ・リョウ、華麗な突破! センタリングの体勢に入りました!」
ユエンがエリア内で動き出すが、スカイブルーの2人のDFがしっかりカバーし、ボールはクリアされる。
実況
「的確な守備対応! そして今、スカイブルーが一気にカウンターに出た!」
キャプテン・ヤマモトが中盤でボールを拾い、加速する。スカイブルーは一気に6人が攻撃参加、クロイ・カゲの守備はわずか4人。
ユウジロウ
「戻れ! 早く戻れ!」
守備陣が下がるも、ヤマモトは空いたスペースを一瞬で読み切る。
ヤマモト(低く)
「完璧だ…」
ソフトタッチでボールをDFラインの裏へ浮かせる。リコが前に出るか、下がるか迷う中でジャンプ。
リコ
「くそっ…!」
指先がかすかに触れたが、勢いを殺しきれず。
ボールはバーに当たり、ワンバウンドしてゴールネットを揺らす。
実況
「ゴーーーーーール! スカイブルー、ヤマモト・コウスケの芸術的ループシュート! なんという精密な技術…さすが“操り人形師”!」
リコ(地面を叩きながら)
「クソッ!」
スカイブルーの選手たちは歓喜の輪を作り、キャプテンのもとへ駆け寄る。
試合の幕が、鮮烈に上がった。
実況:
「現在のスコアは1対0、スカイブルーがリード。キャプテン・ヤマモト・コウスケのゴールが試合を動かしています」
クロイ・カゲの守備陣が整う中、ユウジロウがこっそりエミに近づいた。
ユウジロウ(小声で)
「…頼みがあるんだ」
──数分後、カメラはエミを追い続ける。
彼はまるで影のように、コウスケに一瞬たりとも離れない。
コウスケ(やや苛立ちながらも興味深げに)
「…いつもそんなにしつこいのか?」
エミ(気だるげに微笑みながら)
「気に入った相手にだけさ」
コウスケ(冗談めかして)
「キスでも求めてるのか?」
エミ
「今は遠慮しとく…後でな」
──どちらも一瞬だけ笑みを浮かべたが、その裏にある緊張感は薄れることなく続いていた。
実況:
「ここ数分、試合は膠着状態。だがクロイ・カゲが徐々に主導権を握りつつあります。ユウキが右サイドを突破し、ヒカルにパス!」
ヒカルは体をひねりながら逆サイドへ大きく展開する。
コウスケが視線を向けたとき──そこにエミの姿はなかった。
コウスケ(驚きながら)
「…いつ消えた?」
ヒカルのパスは二列目から飛び出したエミの足元へ。
エミは自由に走り込み、エリア内へ突入する。
実況:
「素晴らしい視野のナカノ! 完璧な飛び出しのニシムラが…シュートだ!」
強烈なシュート──だが相手DFが体を投げ出してブロック。
エミはこぼれ球に反応するも、別のDFが激しくスライディングし、大きくクリア。
実況:
「そのクリアが逆襲を生んだ! ショウゴが頭でコウスケへ落とす… 完全にフリーだ!」
ユウジロウがすぐに詰めて止めに入る。だが、コウスケの口元には不気味な笑みが浮かんでいた。
ユウジロウ
「…なんだと?」
次の瞬間、背後からショウゴが飛び出す。エミがブロックに入るが──
ショウゴはボールをスルーして走り抜ける。
その一瞬の迷い。エミが一歩止まった瞬間、すでに勝負は決まっていた。
背後からタクミが完全にフリーで走り込んでくる。前方にはリコのみ。
リコが思い切って飛び出す。
タクミは冷静に、ヒールでボールを前へ落とす。
実況:
「見事なプレー! 戦術の極み! …ショウゴが走り込んで、シュートッ!」
ネットが揺れた。
実況:
「ゴォォォォォール! スカイブルーの追加点!! これは完璧な連携、完璧な判断! コウスケが糸を引き、ショウゴとタクミがその動きに応えた! このトリオ…まさに県内屈指!」
スカイブルーの選手たちは再びコウスケのもとへ駆け寄る。
一方で──リコは地面を叩いた。
リコ
「クソッ……!」
エミはうつむき、拳を握りしめる。
エミ
「止められなかった……ちくしょう……」
審判が時計を見る。そして──
ピッー!
実況:
「前半終了。スコアは2対0。スカイブルーが優位に立ち、試合を折り返します。特にヤマモト・コウスケの支配力は圧巻。まさに試合を操る者」
ユウジロウは無言で額の汗をぬぐう。
ユウジロウ(心の声)
「…自由にさせたら、パス一つで崩される。だが、潰しに行けば、その裏にスペースが生まれる。まるで罠じゃないか…」
ベンチから腕を組んで様子を見つめるレオも、深く息をついた。
レオ(心の声)
「厄介だ…誰も行かないと撃たれる。だが当たりにいけば、空いたスペースを使われる。…どうする、ユウジロウ?」