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第8章:操り人形師

試合をコントロールするとはどういうことか?


ボールを支配することなのか?ペースを握ることなのか?


それとも、試合の流れを決める見えない糸を引くことなのか?


走り、戦い、ぶつかり合い、汗を流す者もいる…


そして、ほとんど動かないまま、すべてを動かす者もいる。


まるで言葉を必要とせず、ビジョンと忍耐…そして正確さだけを必要とする操り人形師のように。


コントロールとは叫ぶことではなく、示唆することだ。


押し付けることではなく、挑発することだ。


操り人形師は強さで輝くのではなく、知性で輝く。


誰もが反応している間に、彼はすでに次の一手を考えている。


そして、試合が落ち着いているように見える時、


彼の仕事は真に始まる。


──────────────────────────────────────


練習が終わりを迎える頃、選手たちは夕日の差し込むグラウンドの中央に集まっていた。




レオ(キャプテンマークを直しながら)


「明日はスカイブルーとの試合だ。もう知ってると思うが、あいつらの強みは攻撃力にある。ショウゴ・タカハシとタクミ・カトウの2トップは脅威だが、本当に厄介なのはコウスケ・ヤマモト。あのトップ下は“操り人形師”と呼ばれている。理由は見れば分かる」




選手たちは一様に真剣な表情で耳を傾ける。




レオ


「ヤマモトに試合のテンポを握らせたら、間違いなく苦しくなる。自由にさせるな。それが鍵だ。いいな?」




選手たち


「はい!」




レオ


「よし、今日はここまでだ。明日は早めに集合。お疲れ!」




選手たちは解散し始め、グラウンドにはフクタミ先生とレオだけが残る。




フクタミ


「…どうした、イガラシくん。何か気になることでも?」




レオ


「少し不安でして。練習はしてきましたが、まだ詰めが甘い気がします」




フクタミ(苦笑)


「まあ、プロの監督じゃなくて、ただの教師がやってるんだから当然かもな」




レオ


「それでも、先生は本当によくやってくれてます。サッカーを必死に勉強してるの、見てて分かります。感謝してます、心から」




フクタミ


「感謝されるようなことはしてないさ」




レオ(深く頭を下げ)


「全国に連れて行きます。先生の努力、無駄にはしません」




──そして夜が明け、試合当日。




実況


「ようこそ、東京予選リーグの一戦へ! 今日は黒い影クロイ・カゲ対スカイブルーの注目カードです! 黒い影は前回の苦しい勝利から、スカイブルーは浅草との2-2の引き分けを経てこの試合に臨みます!」




試合前、円陣の中でレオが語りかける。




レオ


「また厳しい相手だ。でも俺は、お前たちを信じてる。頭と心を使って戦おう。勝つぞ!」




選手たち


「はいっ!」




実況


「黒い影の先発は以下の通り:GKは背番号13番・タチバナ・リコ。DFラインは右CBがキャプテン・アキラ・ユウジロウ(#22)、左CBがフジキロウ・アキラ(#4)、右SBがタナグチ・ジロウ(#2)、左SBがニシムラ・エミ(#16)。


MFはアンカーにイガラシ・タケシ(#6)、右にナカノ・ヒカル(#14)、左にスズキ・リン(#18)。


WGはタナカ・ユウキ(#7)とアベ・リョウ(#11)、1トップはツクシマ・ユエン(#9)です。




対するスカイブルーの注目はこの三人:9番タカハシ・ショウゴ、10番カトウ・タクミ、そして21番でキャプテンのヤマモト・コウスケ、“操り人形師”です!」




──試合開始。クロイ・カゲのキックオフ。




実況


「さあ、試合が始まりました! まずボールを受けたのは11番・リョウ。左サイドを駆け上がります!」




リンが内側から走り込み、ワンタッチで再びリョウへスルーパス。リョウはそのまま相手DFと1対1になる。




DF(挑発的に)


「さて、腕の見せ所だな?」




リョウ(落ち着いて)


「悪いけど、これが俺の得意技なんだ」




足元で巧みにボールを動かし、相手の足を引きずり出すと、美しいヒールタッチで股を抜いて一気に縦へ抜ける。




実況


「なんというテクニック! アベ・リョウ、華麗な突破! センタリングの体勢に入りました!」




ユエンがエリア内で動き出すが、スカイブルーの2人のDFがしっかりカバーし、ボールはクリアされる。




実況


「的確な守備対応! そして今、スカイブルーが一気にカウンターに出た!」




キャプテン・ヤマモトが中盤でボールを拾い、加速する。スカイブルーは一気に6人が攻撃参加、クロイ・カゲの守備はわずか4人。




ユウジロウ


「戻れ! 早く戻れ!」




守備陣が下がるも、ヤマモトは空いたスペースを一瞬で読み切る。




ヤマモト(低く)


「完璧だ…」




ソフトタッチでボールをDFラインの裏へ浮かせる。リコが前に出るか、下がるか迷う中でジャンプ。




リコ


「くそっ…!」




指先がかすかに触れたが、勢いを殺しきれず。


ボールはバーに当たり、ワンバウンドしてゴールネットを揺らす。




実況


「ゴーーーーーール! スカイブルー、ヤマモト・コウスケの芸術的ループシュート! なんという精密な技術…さすが“操り人形師”!」




リコ(地面を叩きながら)


「クソッ!」




スカイブルーの選手たちは歓喜の輪を作り、キャプテンのもとへ駆け寄る。


試合の幕が、鮮烈に上がった。




実況:


「現在のスコアは1対0、スカイブルーがリード。キャプテン・ヤマモト・コウスケのゴールが試合を動かしています」




クロイ・カゲの守備陣が整う中、ユウジロウがこっそりエミに近づいた。




ユウジロウ(小声で)


「…頼みがあるんだ」




──数分後、カメラはエミを追い続ける。


彼はまるで影のように、コウスケに一瞬たりとも離れない。




コウスケ(やや苛立ちながらも興味深げに)


「…いつもそんなにしつこいのか?」




エミ(気だるげに微笑みながら)


「気に入った相手にだけさ」




コウスケ(冗談めかして)


「キスでも求めてるのか?」




エミ


「今は遠慮しとく…後でな」




──どちらも一瞬だけ笑みを浮かべたが、その裏にある緊張感は薄れることなく続いていた。




実況:


「ここ数分、試合は膠着状態。だがクロイ・カゲが徐々に主導権を握りつつあります。ユウキが右サイドを突破し、ヒカルにパス!」




ヒカルは体をひねりながら逆サイドへ大きく展開する。


コウスケが視線を向けたとき──そこにエミの姿はなかった。




コウスケ(驚きながら)


「…いつ消えた?」




ヒカルのパスは二列目から飛び出したエミの足元へ。


エミは自由に走り込み、エリア内へ突入する。




実況:


「素晴らしい視野のナカノ! 完璧な飛び出しのニシムラが…シュートだ!」




強烈なシュート──だが相手DFが体を投げ出してブロック。




エミはこぼれ球に反応するも、別のDFが激しくスライディングし、大きくクリア。




実況:


「そのクリアが逆襲を生んだ! ショウゴが頭でコウスケへ落とす… 完全にフリーだ!」




ユウジロウがすぐに詰めて止めに入る。だが、コウスケの口元には不気味な笑みが浮かんでいた。




ユウジロウ


「…なんだと?」




次の瞬間、背後からショウゴが飛び出す。エミがブロックに入るが──




ショウゴはボールをスルーして走り抜ける。


その一瞬の迷い。エミが一歩止まった瞬間、すでに勝負は決まっていた。




背後からタクミが完全にフリーで走り込んでくる。前方にはリコのみ。




リコが思い切って飛び出す。




タクミは冷静に、ヒールでボールを前へ落とす。




実況:


「見事なプレー! 戦術の極み! …ショウゴが走り込んで、シュートッ!」




ネットが揺れた。




実況:


「ゴォォォォォール! スカイブルーの追加点!! これは完璧な連携、完璧な判断! コウスケが糸を引き、ショウゴとタクミがその動きに応えた! このトリオ…まさに県内屈指!」




スカイブルーの選手たちは再びコウスケのもとへ駆け寄る。


一方で──リコは地面を叩いた。




リコ


「クソッ……!」




エミはうつむき、拳を握りしめる。




エミ


「止められなかった……ちくしょう……」




審判が時計を見る。そして──




ピッー!




実況:


「前半終了。スコアは2対0。スカイブルーが優位に立ち、試合を折り返します。特にヤマモト・コウスケの支配力は圧巻。まさに試合を操る者」




ユウジロウは無言で額の汗をぬぐう。




ユウジロウ(心の声)


「…自由にさせたら、パス一つで崩される。だが、潰しに行けば、その裏にスペースが生まれる。まるで罠じゃないか…」




ベンチから腕を組んで様子を見つめるレオも、深く息をついた。




レオ(心の声)


「厄介だ…誰も行かないと撃たれる。だが当たりにいけば、空いたスペースを使われる。…どうする、ユウジロウ?」

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