クラスティー・ショー、赤いダイヤモンドジャングル編
第六話「男の男の戦い」
夕暮れのジャングル。
鳥たちの鳴き声が静まり、風の音さえも消えかけたそのとき——それは現れた。
「……クラスティー・ザ・クラウン」
低く響く声とともに、黒いジャケットにサングラスをかけた男が、赤土の小道をゆっくりと歩いてくる。片手には銀色の杖、背中には巨大なナイフ、そして眼差しは氷のように冷たい。
「お前が……“笑い”を信じて、ここまで来た男か。俺は嫌いだ」
それが、冒険家集団のリーダー、ゴードン・ブラックアイ。赤いダイヤモンドを巡って暗躍していた全ての黒幕だ。
「うわっ、やべぇ……なんか“ボス戦感”あるヤツ来たぞ……」
クラスティーは身構えながら後ずさるが、足が地面のぬかるみに沈んだ。
「やはり、ピエロごときでは相手にならんな……だが、俺は“見せしめ”をしに来た。お前に、恐怖と敗北を教えてやる」
「お、おいメル、こいつ本気っぽいぞ!? どうする!?」
サイドショー・メルが答える前に、ゴードンは一歩、二歩と歩を進めた。
「貴様には二つの欠片を持つ資格などない。死ぬまでに渡せ。それが唯一の慈悲だ」
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■戦いの始まり
突如、ゴードンが銀の杖を地面に突き立てると、稲妻のようなスパークが地を走った。
「うおおっ!? 電撃!? どこにそんなハイテク隠してたんだよ!」
クラスティーは慌てて横飛びで避けたが、すぐに背後からゴードンが迫る!
「ピエロなど……恐れの対象にもならん!」
鋼のこぶしがクラスティーの頬に炸裂し、彼は地面に吹き飛ばされた。土埃が舞う。
「クラスティー!!」
メルが駆け寄ろうとするが、ゴードンが鋭く睨んだ。
「邪魔をするな、メル。これは“男の戦い”だ」
「……!」
メルは立ちすくみ、拳を握りしめた。
クラスティーは、泥にまみれた顔をゆっくりと上げた。鼻血が出ている。それでも、彼は口元をゆがませた。
「……痛ってぇな……でもな……」
彼は立ち上がり、ボロボロの体で拳を握る。
「俺は……自分のためだけじゃねぇ……このジャングルのために……願いを叶えるって、決めたんだよ!!」
「甘い」
ゴードンは今度は膝蹴りを入れる。クラスティーは再び倒れ込む。息が荒くなり、手も震えている。
「笑い? 誰かのため? 理想? ……くだらん」
彼はゆっくりとダイヤモンドの欠片に手を伸ばそうとした。
だが——その瞬間、再びクラスティーの腕が動いた。
「……言ったろ……俺は……何度でも立ち上がるって……」
泥にまみれ、体中に傷を負いながら、クラスティー・ザ・クラウンは三度目の立ち上がりを果たした。
「俺は……子供たちに笑ってほしいんだ! 自然が元に戻って、ここでまた動物たちが遊んでほしいんだよ! 誰のためでもねぇ、ただ……それがカッコいいからだよ!!!」
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ゴードンは静かに目を見開いた。
そして、数秒の沈黙のあと——彼はふっと笑った。
「……お前、案外……いい顔をするな。まさかここまでやるとは……予想外だった」
ゆっくりと背を向ける。
「今回は引いてやる。ただし……赤いダイヤモンドの欠片、残りの8つは我々がいただく。次に会う時は……命の保証はない」
そう言い残し、ゴードンは闇の中へと消えていった。
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■静かな夜
「……行ったな」
サイドショー・メルがそっと近づき、倒れ込みそうなクラスティーを抱え起こす。
「おい、大丈夫か……?」
「……あー、全身いてぇ……歯も一本なくなってるし、靴も片方なくなってるし……でもな、メル」
クラスティーは笑った。
「勝った気がする。少なくとも、俺は俺をやりきったからな」
ふたりは火を起こし、今夜だけはゆっくりと休むことにした。
焚き火の明かりに照らされた赤いダイヤモンドの欠片が、どこか誇らしげに光っていた。
その光はまるで、**「君たちは正しい」**と語りかけているかのようだった。
だが、これはまだ序章にすぎない。
赤いダイヤモンドの旅は、まだ半分も終わっていないのだから——。
つづく