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第8話


第四話:猿との友情


ジャングルの夜は、星一つないほどに暗かった。

木々のざわめきは風ではなく、怒りや不安に満ちたクラスティーの心そのものだった。


「なあ、メル…オレたち、ダイヤモンドの欠片、また全部奪われちまったな…」

クラスティーが、焚き火の前で落ち込んだ様子で言った。

赤いダイヤモンドの欠片は三つ。苦労して集めたのに、あのライバル関係の冒険家、ボス・ヴァン・カーヴに再び奪われてしまったのだ。


「でも、奴らがまだ知らないことがある」

サイドショー・メルが地図を広げながら目を光らせる。

「このジャングルの奥に、第四の欠片があるっていう情報を、あいつらは知らない」


クラスティーの目が輝く。「マジか!? よし、行くぞ!オレたちのショーのためにも!」


翌朝、二人はジャングルを突き進み、急流を越え、つり橋を渡り、奇妙な植物がうごめく密林の奥へと踏み込んだ。


数時間後──


「見ろ、あそこ!」

クラスティーが叫んだ先、陽光が差す古代遺跡のような空間の中央に、赤く輝く欠片が浮かんでいた。


「間違いない、赤いダイヤモンドの四つ目だ!」

だが、彼らが一歩踏み出した瞬間──


パッ!

欠片を小さな手がつかみ、木の上へ跳ね上がった。


「サルだ!?」「ダイヤ盗まれたーー!!」


クラスティーが頭を抱える。「オレのショーがぁぁぁ……!」


サルはそのまま森の奥へ消えていった。



---


クラスティーとメルはサルを追って、急な坂を駆け上り、泥の中を転げながら、汗だくで進んだ。


「どこ行ったんだ、あの野郎…!」

すると、木々の合間から小さな声が聞こえてきた。


「キャキャキャ…!」


クラスティーとメルが隠れて様子をうかがうと、先ほどのサル──どこか寂しそうな目をした、小さな若いサルが──他のサルたちに囲まれていた。


だが様子が変だ。仲良くしているのではない。

その小さなサルは、仲間たちから果物を奪われ、叩かれ、笑われていた。


「…いじめられてる?」クラスティーが呟く。


「あのサル、仲間はずれにされてるんだ」メルが眉をひそめる。


果物を投げつけられ、逃げるように木陰に隠れるその小さなサル。胸にしっかり、赤いダイヤモンドの欠片を抱えていた。


「まるで…昔のオレを見てるみたいだな」クラスティーがポツリとつぶやいた。



---


その夜、クラスティーとメルは焚き火の近くに小さな果物と木の実を並べ、そっと笛を吹いた。


「おーい、おサルさん、こっちだぞ~。怖くないから出ておいで~…」


数時間たったころ、木陰からひょこっと顔を出した小さなサル。そっと近づき、果物を一つつまんで口にした。


「うまいだろ?そいつは特別にジャングルマスタードを塗ったんだ」クラスティーが笑うと、サルは目を丸くしてさらに食べ始めた。


少しずつ距離が縮まり、ついにクラスティーの肩に乗るまでになった。


「名前つけようぜ、こいつに」

「また番組のマスコットにする気か…?」メルがあきれた顔をする。

「決めた!“ピーナッツ”だ!」

サルは「キッキッ」と嬉しそうに鳴いた。



---


次の日、クラスティーたちはピーナッツと一緒に、いじめっ子サルたちの群れの元へと向かった。

そして、果物の木を見つけては、彼らにも分け与えた。


「オレたちは敵じゃない!」

「仲間はずれにされたサルが、どれだけ心細いかわかるか!」


初めは警戒していたサルたちも、次第にクラスティーとメルの優しさに心を開き始めた。

ついに──ピーナッツは仲間たちの輪に戻っていった。


その夜、ピーナッツはクラスティーに近づき、胸に抱えていた赤いダイヤモンドの欠片をそっと差し出した。


「お前…くれるのか?」

「キャッ」

クラスティーは目を潤ませながら受け取った。



---


帰り道、メルがぽつりと言う。


「また一個だけ戻ってきたな」

「それでも…大事な一個だ。友情ってやつは、ダイヤよりも強いんだよ」


ピーナッツはその後も、時折クラスティーのショーに出演し、視聴者に大人気となった。

そしてこのエピソードは、「赤いダイヤモンドジャングル編」の中でもっとも感動的な話として、伝説になったという──




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