第9話「友達か?」
熱帯のジャングルに、夜が訪れようとしていた。
濃い緑に覆われた道なき道を、クラスティー、サイドショー・メル、そして赤いダイヤモンドの要請“ルビー”は進んでいた。
ルビーは、胸に光る四つの赤いダイヤモンドの欠片を大事そうに抱えている。
今日もまた、危険な罠だらけの遺跡を探し、欠片を一つ手に入れたばかりだった。
だが、三人は疲れ切っていた。
夜のキャンプ。焚き火の上で魚を焼きながら、ルビーがぽつりとつぶやいた。
「ねぇ、クラスティー…一つ、聞いてもいい?」
「なんだよ。オレは疲れてんだ。手短にな」
ルビーは少し考えた後、静かに言った。
「クラスティーとサイドショー・メルって…どんな関係なの?」
火の粉が夜空に舞い上がった。
クラスティーは魚をひっくり返しながら、そっけなく言う。
「こいつは、オレのアシスタントだ。昔っからな。」
「アシスタント…」ルビーは何度かその言葉を口の中で転がした。
「でもさ、なんで一緒に冒険に出てるの?それに、危険な目に遭っても、一緒にいるじゃないか。」
「それはなぁ…」
クラスティーはしばらく黙った。
火の中に魚が落ちそうになり、メルが慌てて持ち上げる。
「番組のためで?」ルビーが訊く。
クラスティーは少しだけ目をそらした。
「そ、そうだよ。全部番組のためだ。視聴率が取れる。話題になる。それだけだ。」
「へぇ…」
ルビーは微笑んだ。その瞳にはどこか優しい光があった。
「私には…親友に見えるけどな。」
クラスティーは言葉を失った。
メルも、何も言わず、魚を黙々と焼いていた。
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翌朝、三人はさらに奥へ進んだ。
「次の欠片はこの洞窟の奥だって話だ。ここを抜けるぞ。」
ルビーが地図を広げた。
クラスティーはぶつぶつ文句を言いながらも、先頭に立つ。
「おいルビー、ガキが冒険なんざ、百年早いんだよ。」
「もう、何度も言ってるけど私はガキじゃないって…!」
そんな言い争いをしている間に、サイドショー・メルは洞窟の壁をライトで照らし、ふと顔をしかめた。
「待て、ここ…罠があるぞ。」
「罠ぁ?オレの経験からして──」
その瞬間だった。
床がガタンと沈み込み、洞窟の奥から、にぶい機械音が響いた。
ガガガガガッ
「やばい!動く床だ!」
床が急に前方へ流れ出し、三人は転がるように洞窟の奥へ運ばれていった。
「ちょっと待て!おいおいおいおい!!」
「言っただろうがぁ!!」
あたりが真っ暗になった。
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光が戻ったとき、三人は狭い空間に投げ出されていた。
「…全員、無事か?」
「無事なわけあるかぁ!!」
クラスティーが怒鳴ったその瞬間、洞窟の隙間から、無数の目が光った。
「なんだあれ…」
小さなネズミかと思ったが違った。
巨大なコウモリの群れが、洞窟の天井からぶわっと飛び出したのだ。
「おいメル!なんとかしろ!」
「どうしろと言うんだ!」
あわててランタンを振るうメル。
ルビーは腰の袋から煙幕を取り出し、焚き火の灰に投げ込んだ。
白い煙が立ちこめ、コウモリは去っていった。
「ふぅ…助かった…」
「こんなスリル、放送できるかよ…」
クラスティーが胸を押さえてへたりこんだときだった。
今度は、背後から何かの気配がした。
振り向くと、長い舌を出した大きなトカゲのような生き物が、赤いダイヤモンドの袋を狙っていた。
「やめろ!それはオレのダイヤだぁ!!」
クラスティーが飛びかかる。
だがトカゲのしっぽがクラスティーを弾き飛ばした。
「グワァッ!」
壁に叩きつけられ、トカゲは牙をむく。
「クラスティー!!」
メルは無我夢中で駆け寄った。
長いナイフを抜き、トカゲに飛びかかる。
「離れろぉぉぉ!!」
鋭い刃がしっぽを切り裂き、トカゲは悲鳴をあげて逃げていった。
息を切らして立つメル。
痛む腰を押さえながら立ち上がるクラスティー。
「おまえ…なんでそこまで…」
メルは視線を逸らした。
「お前がバカだからだ。」
「……バカで悪かったな。」
ふいに、ルビーが微笑んだ。
「やっぱり、親友にしか見えないよ。」
クラスティーは顔を真っ赤にして叫んだ。
「ち、違う!こいつはオレのアシスタントだ!ただのアシスタントなんだ!」
「そうだな」
メルは少しだけ笑った。
「ただのアシスタントだ。」
二人は顔を見合わせて、何かがおかしくなり、声をあげて笑った。
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その夜。
洞窟を抜け、焚き火の前に座った三人。
「…まあ、オレは、こいつのことが嫌いじゃない」
クラスティーが小さな声で言った。
「え?」
「だから…まあ、友達か?って言われたら…まあ、そうかもな。」
メルは笑った。
「それくらいでいいんじゃないか。」
ルビーは焚き火を見つめて言った。
「いいね。友達って、きっとそんな感じ。」
赤いダイヤモンドの欠片が、三人の前で揺らめいた。
友情のように、あたたかく、どこか危うく、それでも確かに輝いていた。