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第20話

ミモザとライラックの花畑の中で、ナディアは花冠を作りながら、自分の後ろにいるレイヴノールに声をかけた。


「ねえ、お兄ちゃん」


「どうしたの?」


レイヴノールは、一つ結びの編み込みにしているナディアの黒髪に、黄色のミモザとピンクのライラックの花を挿しながら返事をした。


「お兄ちゃんがもらって嬉しいものってなあに?」


レイヴノールは手を止め、ナディアの手元を覗き込む。


「頑張って作ってくれているその花冠かな」


ナディアは顔を上げてレイヴノールを見上げ、頬を膨らます。


「できるまで内緒にしようと思ってたのに!」


「ははっ、ごめん、ごめん。待ちきれなくて」


「難しいから時間かかるんだもん。他にもらって嬉しいのある?」


不格好な花冠をスカートで隠して、ナディアは再び問いかけた。レイヴノールは顎に手を当てて小首をかしげる。


「うーん、ナディアからもらえれば何でも嬉しいんだけどなあ。あっ、そうだ。ナディアが聞かせてくれる物語が嬉しいな」


「わたしが考えたお話? そんなのが嬉しいの?」


「うん。どのお話も心があったかくなるんだ」


レイヴノールの微笑みにつられてナディアも笑顔になる。


「えへへっ。じゃあ、また考えてあげるね。今、文字を練習してるところなの。ちゃんと書けるようになったら、お母様みたいに絵本にしてお兄ちゃんにプレゼントするわ」


「それは楽しみだな。約束だよ」


「うん、約束!」


小指を絡める2人のことを微笑みながら見守るかのように、ミモザとライラックが風に吹かれて左右に揺れていた。




ピチチチチ。


小鳥のさえずりが聞こえ、ナディアは目を開けた。カーテンの隙間から差し込む柔らかい朝日が室内を照らしている。

ベッドから起き上がってカーテンを開けると、眩しい日差しが飛び込んできた。雨はすっかり上がり、真っ青な空にはふわふわの雲が所々浮いている。雨で濡れた庭園の木々や花々に光が反射してキラキラ輝いて見える。


「あの後、眠れていたのね」


普段は雨と雷が止むまで眠れず、震えながら朝を迎えるのに、いつの間にか眠りに落ちて、レイヴノールと花畑で遊んでいた時の夢までみたことにナディアは驚いた。


「レイヴノール様のおかげかしら」


バスローブ姿のレイヴノールや、レイヴノールに抱きしめられ、頬に触れられたことを思い出すと顔が熱くなってくる。ナディアは昨夜のことを忘れるように首を横にブンブン振った。


「あの夢で思いだしたわ。絵本を作ってあげるって約束してたわね」


ナディアはサイドテーブルから絵本を取り出し、表紙を見つめる。


「お母様のように上手には作れないかもしれないけど、約束は守らないとね。指輪のお返しになればいいのだけど」



街へ続く林道を走る馬車の中で、ナディアは物語の内容を考え込んでいるが一向に良いアイディアが思い浮かばない。ふと窓の外を見ると、道端を両親と歩いている少女が、前を走る少年の後を追いかけて走り出した。


「お兄ちゃーん、待ってよー」


「やっだよー。早く来いよ!」


「2人とも、走ったら危ないわよ」


籠を手に持っている母親が苦笑しながら声をかけるが、兄妹は聞く素振りを見せず、走り続けている。


「しょうがないなあ。追いかけるか。待て待てー!」


父親が笑いながら兄妹を追いかけていく。父親に捕まらないように2人はきゃーっと声を上げて笑いながら走り続けた。

馬車は家族を追い越していき、賑やかな声が遠ざかっていく。


(仲の良さそうな家族ね。レイヴノール様にとってはご両親の他に、ケイドリック先生や、ネリさんのように孤児院で一緒に育った方々、それにディランさん、セラフィナ、ウンディー、ソフィーや、邸の皆さん、たくさんの家族がいるのね。ハウゼン邸のみんなは本当の家族のように親密で、幸せな雰囲気が心地良くて、心があったかくなるのよね)


ナディアはふと夢の中で、レイヴノールが言っていことを思い出した。


「どのお話も心があったかくなるんだ」


(家族の物語はどうかしら。レイヴノール様のことを大切に思ってくれて、レイヴノール様も大切に思っている家族のお話。上手くまとめられるか分からないけど、やってみよう。そういえば、ディランさんは孤児院で一緒だったみたいだけど、ソフィーたちはいつレイヴノール様と出会ったのかしら?)


ナディアが向かいに座るソフィーをじっと見つめる。


「ナディア様、いかがされましたか?」


「あっ、その、ソフィーたちはレイヴノール様といつ知り合いになったのかなって気になっちゃって」


ソフィーはぎくっと肩を上げてナディアから目を逸らし、キョロキョロ目を泳がせた。


「えー、それはー、そのー」


「話したくないならいいのよ。ちょっと気になっただけから」


「いえ、そういうわけではございませぬ! どう説明したらいか……。主君に聞けば答えてくれるはずですぞ」


「大丈夫よ。知られたくないことだってあるものね」


「いえ、ですから、そうではなく……」


ソフィーが言葉に詰まっていると、街の入り口に着き、馬車が止まった。ソフィーがさっと降りて手を差し出し、ナディアはその手を取って馬車を降りた。


「ありがとう、ソフィー。画材店はどこか分かる?」


「こちらですぞ」


ソフィーの後についてしばらく歩いていくと、雑貨店と書店に挟まれた画材店の前でソフィーが足を止め、扉を開けた。カランコロンとドアチャイムが鳴る小気味良い音がした。


「どうぞ、ナディア様」


「ありがとう」


ナディアが先に入ると、店内には、瓶に入った絵の具の棚、大きさや太さが異なる様々な筆が陳列されている棚、薄かったり厚かったり、大きさの異なる紙が並べられている棚などがひしめきあっている。きちんと整理整頓されていて店主の几帳面さが伺える。


ナディアは各商品の種類の多さに圧倒されながらも、見たことのない道具や、目に映えるカラフルな絵の具を見ているとワクワクしてきて、ふわふわと落ち着かない気分になる。


紙や絵の具、筆を手に取ってまじまじと眺め、必要なものをソフィーが持っている店内専用の籠に入れていく。スケッチ用のペンを取ろうと手を伸ばした時、隣にいた人が同じタイミングで手を出し、一瞬指が触れ合った。ナディアは慌てて手を引っ込めて頭を下げた。


「す、すいません」


「いえいえ。あっ、また会ったね」


ナディアが顔を上げると、肩までの黒髪に翠眼のアリスターがニコニコと笑顔を浮かべている。


「えっと、どこかでお会いしましたか?」


「はっ! アリ……」


アリスターは、目を丸くするソフィーの口許に人差し指を立ててウインクをした。ソフィーは嫌そうな顔で指を払い、睨み付ける。


「あっ、もしかしてこの前お会いした?」


「そうだよ」


「でも、髪色が違うような」


「染めてみたんだ。ところで、こんなとこで会うなんて奇遇だね」


「ナディア様はお買い物の途中ですぞ」


ソフィーが男性とナディアの間にずいっと入り込んできた。


「私もだよ。買い物終わったらお昼一緒にどう?」


アリスターは、ソフィーをひょいと避けてナディアに目線を合わせて尋ねた。


「あの、あなたはギルドのメンバーの方なのですか? この間はレイヴノール様と同じ黒いローブを着ていましたが」


「一応、そうかな」


「でしたら、ギルドのことや、あなたの知っているレイヴノール様のことを教えて頂けないでしょうか?」


ソフィーはぎょっとしてナディアを見て、腕を軽く引っ張った。


「ナディア様、今日は帰りませぬか?」


「でも、プレゼントのためにレイヴノール様のことを知りたいの」


「じゃあ、決まり。おすすめのお店があるから案内するよ」


満足気に微笑むアリスターに、ソフィーは不審な目を向けた。



画材店を後にし、アリスターはナディアとソフィーを、『ロワール』へ案内する。中は混み合っていたが、壁際の席が空いていたおかげで3人は座ることができた。


「騒々しいけど、味は確かだよ。シャノワールギルドの加盟店で、店主のテラはレイと同じ孤児院出身なんだ。ちなみに日替わりメニューがおすすめ」


そこへテラが水の入ったコップを3つ持ってきてテーブルに置いた。アリスターに気付いてぎょっとした顔をし、ナディアとソフィーを見て目を見開き、怪訝な顔でアリスターに囁いた。


「何で殿下が髪色変えて庶民の服着て、レイの奥さんと一緒にいるんですか?」


「まあまあ。細かいことは気にしないで。2人とも日替わりでいいかな?」


ナディアは頷き、ソフィーは水だけでいいと首を横に振った。


「日替わり2つ、ですね。少々お待ちを」


テラが厨房へ行くと、ナディアはアリスターに改めて自己紹介をした。


「ハウゼン男爵夫人のナディアと申します」


「ご丁寧にどうも。やっぱりレイの奥さんだったんだね。シャノワールメンバーのアリ…です。改めてよろしく。この前はごめんね、急に話しかけて。夫の浮気現場見ちゃったらショックだよねえ」


アリスターに同情の眼差しを向けられ、ナディアは苦笑を浮かべた。


「あれは私の勘違いだったみたいです。あの女性は同じ孤児院で育ったお友達だと言っていました」


「へえ、そうだったんだ」


「アリさんは、レイヴノール様とはいつお知り合いになったのですか?」


「レイが男爵になってからだよ。仕事仲間みたいなものかな。友人にも近いのに、ナディアちゃんを紹介してくれないなんて冷たいやつだよ」


やれやれと肩をすくめるアリスター。ちゃん付けで呼ばれて戸惑ったナディアは、愛想笑いを浮かべた。


「でも、偶然お会いできて良かったですわ」


アリスターはすっと目を細めて不適な笑みを浮かべた。


「偶然じゃなかったら?」


「えっ?」


「実は、先読みの能力がある占い師みたいなものなんだ」


「はい?」


ナディアが首を傾げ、ソフィーが眉間に皺を寄せた。そこへ従業員が日替わりメニューの厚焼き玉子のサンドイッチとフライドポテトを運んできた。


「ここの卵サンドは格別だよ。ナディアちゃんも食べてみて」


うまいと言いながら卵サンドを頬張るアリスターに気後れしながら、ナディアも一口食べてみた。


「ん! おいしいわ!」


ふわふわした卵が口に入った途端とろけていき、カリカリにトーストされたパンに塗られたバターの塩味が口に広がっていく。


「でしょ」


口の端についたパンくずをペロッとなめてアリスターが微笑む。ナディアは頷き、残り2つある内の1つをソフィーにも勧めた。


「ソフィー、本当においしいわよ。食べてみない?」


「いえ。ナディア様の分が減ってしまいますぞ」


「大丈夫よ。分厚くて大きいから3つは食べきれないかもしれないわ。ね、ひとつ食べてみて」


サンドイッチを目の前に差し出され、ソフィーはおずおずと手を伸ばし、一口かじった。目を見開き、2口目、3口目とパクパク食べ進め、あっという間になくなってしまった。


「おいしかったでしょ?」


「はい! おいしかったですぞ。ナディア様は足りるのですか?」


「ええ。2つ食べたし、ポテトもあるからお腹いっぱいよ」


「喜んでもらえて良かったよ。2人は仲が良いんだね。主人と侍女というより、友人みたいだ」


皿を空にしたアリスターが、ナディアとソフィーを見て笑顔を浮かべた。


「私は侍女じゃ」


「友人ですわ」


ソフィーは目くじらを立てるが、ナディアは微笑んでアリスターの言葉を肯定した。


「ナディア様!」


眉は下がっているものの、口角を上げているソフィーがナディアを見つめた。


「私にとってソフィーは、心の支えになってくれる友人のような存在よ」


「ナディア様~」


目を潤ませるソフィーの頭を、ナディアは微笑みながら撫でた。


「はははっ。レイが嫉妬しそうだ」


「そういえば、まだお話を聞いていませんでした。えっと、先ほど占い師だと仰っていましたか?」


「みたいなものだけどね。レイとはビジネスパートナーで、ギルド創設には私も手を貸したんだ」


「そうだったのですね」


「ギルドの詳しいことについては、レイから聞いた方が手っ取り早いと思うよ。私は普段出入りしないし、立ち上げに協力したぐらいだから。それより、私はあなたのことをもっと知りたい」


きらめく翠眼で見つめられ、ナディアは全てを見透かされるような感覚がして胸の中がざわめいた。ソフィーが睨みつけ、警戒心をむき出しにする。


「先読みの力で、ナディアちゃんが私にとって必要な人だってことが分かったんだ。これから長い付き合いになると思うから、お互いのこともっと知り合おうよ」


パチッとウィンクをされてナディアは心臓がドクンと跳ねた。ソフィーはバン!とテーブルに両手をついて身を乗り出す。


「いい加減にするのじゃ!」


「何が? 仕事仲間のレイの奥さんなんだから、付き合いが長くなるのは当然でしょ」


「そうよ、ソフィー。落ち着いて」


ナディアに制されたソフィーは椅子に座るが、威嚇するように肩をいからせて睨み続けた。


「でも、個人的には男と女としての付き合いは大歓迎だけどね」


「はいっ?!」


ナディアは顔を赤らめ、ソフィーは髪の毛を逆立てて掴みかかろうとする。アリスターはニコニコ顔でソフィーの肩を押し返して座らせた。


「今時の貴族は愛人の1人や2人はいるものさ。この先、レイだって分からないよ」


ナディアははっとした顔をして口元に手を当てた。


「もしかして、それも先読みの占いなのですか?」


ソフィーは目を見開いてアリスターを見つめた。


「どうかな~?」


アリスターはいたずらっぽい笑顔を浮かべて立ち上がり、カウンター席の横にいるテラへ銅貨を渡しに行った。ぽかんとアリスターを見ていたナディアとソフィーも立ち上がり、店の外へ出て行くアリスターの後を追った。


「あの、さっきのはどういう」


外に出てナディアが声をかけると、振り向いたアリスターはニヤッと笑みを浮かべた。


「レイのことよく見てたら分かるはずだよ」


アリスターは前かがみになってナディアの右手をさっと取り、手の甲にキスをした。

ソフィーがすかさずアリスターの手を離し、猫のようにフーッと威嚇する。


「近々また会おう」


アリスターは手を振ってから踵を返して街の奥の方へ去って行った。


「ナディア様の尊い御手になんということを! 許せぬ!」


ソフィーは怒りの表情で、ナディアの手の甲をハンカチでこすり続ける。ナディアはアリスターの後ろ姿を不安そうな顔で見つめ、呟いた。


「よく見てたら分かるって、本当かしら」



邸宅に戻ってからナディアは自室で、羽ペンを持ったまま、机の上に広げてある羊皮紙をぼうっと見つめていた。プレゼントする物語を考えようとしても、アリスターから言われた言葉が頭から離れず、全く集中できない。羽ペンを置いて机に突っ伏し、溜め息をついた。


「この先、レイヴノール様に良い人があらわれることは、喜ぶべきなのよね。私は復讐が終わるまでの形だけの妻だし、私が傍に居続けたらレイヴノール様だけじゃなくて、ソフィーたちも命が危ないかもしれないわ。それに、呪われている私なんかより、他の人と結婚した方がレイヴノール様は幸せになれるはずよ。そのはずなのに……」


花束を持って謝りに来たレイヴノール、汗を流してディランと撃ち合うレイヴノール、建国祭の時に男たちから助けてくれたレイヴノール、ボートの上で指輪を渡してくれたレイヴノール、雨と雷に怯えるナディアを抱き締め、涙を拭ってくれたレイヴノール。

ナディアの頭の中には、これまで見てきたレイヴノールの姿が次々と思い浮かんできた。

心臓が早鐘を打ち、顔が熱くなってきて、ナディアは椅子の背もたれに背中を預けて天井を仰ぎ見た。


「何でこんな私なんかに優しくするの」


いつかはレイヴノールと離ればなれになることを考えると喉が締め付けられ、目から一滴涙が零れ落ちていった。


「はあぁぁー。だめじゃない、寂しいなんて思ったら」


茜色から紺色に変わるグラデーションの空に夕陽が沈んでいき、部屋の中が薄暗くなっていく。

椅子の上で膝を抱え込んで丸くなったナディアの深い溜め息が、より一層室内を暗くさせた。



その頃執務室では、ソフィーがレイヴノールに、アリスターのことを報告していた。


「主君、あの皇太子は危険じゃ!」


目を吊り上げるソフィーと同様、レイヴノールも怒りの眼差しで宙を睨んだ。


「あの性悪め。俺のナディアになんてことを言うんだ。しかも手の甲にキスだとぉ?」


ドン!


レイヴノールは拳を机に叩きつけ、積みあがっていた書類が床に散らばった。


「許せん!」


「まさしく! 許せぬ!」


ソフィーはぶるぶると拳を震わせる。


もうひとつの机で書類を整理していたディランは眉間に皺を寄せた。


ソファーに座って見ていたセラフィナとウンディーネはニヤニヤしながら顔を見合わせる。


「あらぁ、なんだかおもしろくなりそうねぇ」


「アリスターって、ナディアのこと本当に好きになったんじゃな~い?」


「なにっ!?」

「それはならぬ!」


レイヴノールとソフィーが同時にセラフィナとウンディーネの方を睨む。


「本当に先読みの力で、主に他の妻があらわれる未来を見たのかもしれないぞ」


ディランが床に散らばった書類を集めながら言い、ソフィーはレイヴノールを睨みつけ、レイヴノールは首を横に振り、セラフィナとウンディーネはうんうんと頷いた。


「そんなわけないだろ! 俺はナディア一筋だ!」


「でもさ、契約離婚しようって言ったんでしょ」


「それは、ナディアの気持ちを尊重するってことを伝えたかったからで、俺はしたくないって言ったさ」


「それじゃあ、ナディア様がさようならって言ったら引き留めないってことよねぇ?」


「いや、それはっ!」


「ナディア様のご意志が重要であろう。主君は引き留めぬはずじゃ」


「やっぱり引き留めたらまずい?」


「未練のある男は嫌われるぞ」


「そんな……」


レイヴノールは床に四つん這いになり、がくっと項垂れた。


「あの時はそうでも言わないと、ナディアがすぐ離婚しそうだったからで、復讐が終わるまでの間にナディアの気持ちを繋ぎ留められたらって思ってたんだよー」


セラフィナ、ウンディーネ、ソフィー、ディランは溜め息をついて、やれやれと肩をすくめた。


「やっぱりレイはヘタレだね」


「ナディア様が不憫ねぇ」


「主君にナディア様は任せられぬ」


「いいから仕事してくれ」


4人の言葉が次々に突き刺さったレイヴノールは唇を尖らせた。


「お前たちの方が皇太子よりよっぽどひどい」


陽が完全に沈み、雲の間に隠れた月が藍色の闇をぼんやりと照らしてる窓の外を眺め、レイヴノールは溜め息交じりに呟いた。


「俺、主なんだけどなあ」



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