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第2話 婚約者が大好きな王子殿下たちは、いろいろ頑張る。

 ……そして、翌日。学校にて。


「僕はね、この素敵な方と昼食に向かうところなのだよ。なんのつもりなのかな。邪魔をしないでもらえるかい?」


『いや、確かにね、こちらのご令嬢は素晴らしい方だけどね! 僕にとっての素敵な人は違うんだあ! 僕は……婚約者が、好きだ、好きなんだあ!』


「ええぇ、なんでぇ? その悪役令嬢……じゃない、おんな、いえ、でもなかった、女子学生は魔法局局長令息様の婚約者じゃないですかぁ! 殿下の婚約者ではないでしょお!」


 ああ、そうだよ。そのとおりだ。

 もちろん、知ってるよ。知ってるともさ!


「そうだね。だが、それは君にも言えることだ。君は、僕の婚約者では……ない。そうだよね?」


「そう、ですぅ……」


『よおおおっしゃあ!』


 よし、作戦成功!


 そう、魔法局局長令息の妙案、それ即ち、僕たちの打開案。

 その案とは、それぞれの婚約者とは別の婚約者嬢と親しくするというものだったのだ。


 それが、みごとに成功。

 初めてだよ、あいつにおかしなことを言わずにすんだの!

 僕の口からあの悪しき言葉、悪役令嬢、も出てこなかったし!


 組み合わせについては、僕が判断を下す異になっていた。

 そこで、僕が魔法局局長令息の婚約者、魔法局局長令息は騎士団団長令息の婚約者、騎士団団長令息には僕の婚約者と親しくすること、が決定したのだ。


 特に、性格的に嘘偽りが苦手、隠しごとには不向きな騎士団団長令息に僕の婚約者を、としたのは彼女が一番冷静な女性だからだ。

 あとは知性とか容姿とか性格も……とか色々自慢したいけれど、我慢我慢。


 正直、『ふざけんな、お前ら何様のつもりだよ』と言われても仕方なさそうな策だけれど、三人のご令嬢たちに協力をお願いすることには成功したよ。


 僕たちの素敵な婚約者たち、三人のご令嬢はみな、不自然だなあ、とは思っていただろうけれど、案を何とか受け入れてくれたし。


 ……どうやったかって?


「あの不埒な聖魔力保持者をやっつける為です! ご協力下さい!」

「このとおりだ、お願いする!」

「どうか、お願いいたします!」


 こんなふうにね、三人全員で、拝み倒したんだよ。

 もう、なりふり構えない状況だからね。

 婚約破棄に比べたら、なんのその、だよ。


 で、三人のご令嬢はというと。

 それは……貴族令嬢の鏡みたいな方たちだから、ね。


「王子殿下、どうか、頭をお上げ下さい。正直に申しあげますと、理解は致しかねます策ではございますが、あの聖魔力保持者様のご様子が不自然であること、これにつきましては事実でございますから」

「そうですわ。全員、謹んでご協力申し上げます」

「どうぞ、皆様もご健闘くださいますように」

 こんなふうに理解をしてくれて。


 だからこそ、こんな感じで、策は無事に実行されたのだ。



「そこはあたしの場所だあ、どけぇ!」


 そのあとは……。

 けっきょく、あの策の実行から一ヶ月ほど後に、事件が発生した。


 ……さすがに、だめだろう、と思うこの状況を説明すると。

 魔法封じの特殊網と特殊縄で捕縛されていても、威勢はいいね、この聖魔力保持者は。


 そんな感じである。


 なんというか、終わってみたら、呆気ない幕切れだった。


 僕たちに近付けないことに苛立ったのか、あいつは学内で何の非もない高位令嬢の一人、つまりは僕の婚約者に魔法をぶつけようとして、警備兵にその場で捕縛されたのだ。


 ちなみに、そのときご令嬢の隣にいた騎士団団長令息は、ちゃんとご令嬢の盾となっていたよ。

 偉いぞ! さすがは心の友!


 そして、さらに大活躍だったものがある。

 それは、持ってて良かった、仲良し三人お揃いの呪いよけである。


 僕たちは一蓮托生……ということで、呪いよけの中に、お互いのいる場所に移動可能な転移陣、もしもの時の緊急呼び出しの術式を組み込んでいたのだ。 

 まったくナイスだ、騎士団団長令息。

 それから、呪いよけを用意してくれた魔法局局長令息も、素晴らしい。


「途中までは上手くいってたのに! そうだ、あんたたちのせいだ! 悪役令嬢どもが! あたしがヒロインなのに!」


 多分、利己的に聖魔力を使い過ぎた反動なのだろう、聖魔力保持者はかなりやつれていた。

 ものすごい目の下の隈だ。濃い。 

 上目遣いも、無くなった。

 それでも、ぎゃあぎゃあとうるさくわめく、は健在なんだね。


 それにしても、まだ言うんだな、悪役令嬢。

 やっぱり、あいつにとっては、彼女たちは悪役なのか。 

 そうか、自分がヒロイン、主役? と信じていたらそれを邪魔する彼女たちは、悪役令嬢か。

 そうなると、先代の迷惑聖魔力保持者も同じようなことを考えていたのかな。


 ええと、ヒロイン症候群だっけ。

 それもだけど、うまいことを言うものだな……じゃないよ!


 大活躍だった、盾と、魔道具。

 そう、僕も、第二王子として活躍をしないとね。


「暴力未遂行為のみならず、高位貴族令嬢に対する失礼千万な物言い! 聖魔力保持者の捕縛は継続、然るべき措置を取るように!」

「はい、第二王子殿下!」


 すると、人払いとか色々を一応きちんと対処していた僕たちの前に飛び出す人影があった。


「お許し下さい! などとは……申しません! ですが、どうかお慈悲を! あの、噂の聖魔力搾取だけはお止めいただけますようにお願い申し上げます……! あ、失礼いたしました、私は、この者の父でございます!」


 あ、出たな、仕事したりしなかったりの警備員!

 ああ、へえ、あいつの保護者だったのか。 

 ん、あれ、なんで?


 驚いていたら、警備員は娘を叱り始めた。


「お前、なんてことを……母さんが言ってたろう! こんなことに聖魔力を使うとろくなことにならないと! お前の入学前に、母さんが書いてくれた帳面! あれに、『貴族学校に入学した聖魔力保持者の平民がやってはいけない聖魔力の使い方』のダントツ1位に『婚約者のあられる高位令息に言い寄ること』とあったろうが! 同率1位の『婚約者のご令嬢を悪役令嬢呼ばわりすること』まで行うとは! まったく、なんてことだ!」

「だって、やってはいけない、って注意書きがある、ってことは……お母さんにはそれができてたから、でしょう? 実際、あたしにも、できたもの!」


「ああ、できたなあ、確かに……。だが、母さんの二の舞にはさせまいと、あのお三方以外の高位令息様方には学校からあらかじめ、対聖魔法の魔道具が配布されていたのだよ。私はお前の父だから、お前の魅了魔法は効かない。だから男子学生専用の場の警備に雇われていたのだ。お前の見張りも兼ねて、な。母さんは放逐された時に高位の方々には近付けない強制魔法を付与されているから実家にいるけれど。あの茶会の場所以外の男子学生専用の場は全て、女性が配備されている。お前は気付かなかったかも知れぬが」


 ……気付かなかった。


 じゃあ、僕たちは他の男子学生専用の場所に常にいたら良かったの?

 あ、だけどそうしていたら、結局、婚約者たるご令嬢たちには授業以外では会えなかったってことか!


 あと、僕たち三人以外には対聖魔法の魔道具、って言った?


 でてこい、学校の責任者! って責任者、僕の……王家実家だよ……。


「申し訳ございません、第二王子殿下。わたくしたちも皆様のご状況は存じておりましたものの、女王陛下の勅命がございましたゆえに。ご婚約者であられる皆様方からのご依頼以外ではわたくしたちが自身を守る以外に動くことは罷り成らぬ、と。また、わたくしたちは、悪しき聖魔力保持者が出現した際の対策を講じるべく、女王陛下にご協力申し上げておりました」


「ですが、私たち三名は、皆、婚約者様方を信じておりましてございます。皆様のお言葉は全て小型蓄音水晶にて保存させて頂きましたが、解析の結果、全てが真逆、または真のお心が示されました為、私達はむしろ皆様方の思いに感銘を受けましてございますわ」


「聖魔力保持者様が言われたこと、私たちからのいじめなどは全て、女王陛下が私たち三名に付けて下さいました王宮の密命執行者が事実無根と証明いたしますのでご安心下さいませ」


 僕の、騎士団団長令息の、魔法局局長令息の婚約者令嬢たち。

 素敵で凛々しいなあ。

 皆、きりりとしていますねえ。まばゆいばかり。


 えーと、女王陛下母上


 密命執行者って、僕にも付けてもらってない、二十四時間影のように護衛をしてくれる存在ですよね。

 映像水晶と蓄音水晶を常に携帯しているのと同じくらいにその証言には価値があるとされる……。


 あと、真逆って。

 大嫌いだ! とか全部、大好きだ! って、本音がバレてるの、僕たち三人。

 ……なかなかに辛い。


 でも、まあ、今はもう良いか。

 婚約破棄は……なし! ってことだよね! 

 やったあ!


 とにかく、婚約者令嬢たちの完全無罪が証明されたわけだし、っていうか、当たり前だよね!


「僕らは学内の風紀を乱した、聖魔力を悪用した者に情けを掛けるつもりはない。君も、君の母がかつて犯した罪を自覚し、聖魔力保持者として相応しい行いをすれば良かったのに……警備兵、連行を。ああ、警備員君、君も。警備兵、彼の奥方も呼び出してくれるかな。対応する者の地位には気を付けてね」


「承知いたしました!」

「畏まりましてございます……」


「なんで、なんでなのよおおぉっ!」

 警備兵と警備員とあいつは、去って行った。


 ……さあ、これからやることは、ただ一つ。


「みんな、すまなかった。そして、ご協力をありがとう。そして、僕たち六人で、成すべきことをいたそう!」


「かしこまりました。聖魔力保持者が不適切な心根でありました際の対策をまとめますのね? 謹んでご協力申し上げます」


 美しい礼と共に僕の婚約者が答えてくれた。

 うん。確かにそれも重要だけれどね!


「素晴らしいお考えです、殿下」

 騎士団団長令息、君もおつかれさま。

 でも、今は違うんだな。


「本当に! さあさあ、貴方は文章を書くのは不得手ですから、口述筆記をいたしますからね。ただ、先程殿下の婚約者様をお守りしようとしたのは、その、凛々しかったですわよ?」


「本当に? うわあ、君に褒められたのは、俺に手作りの菓子を渡してくれようとして君がこけてしまって、割れてしまった菓子を旨い旨いと全部食べた時以来だなあ! 嬉しい!」


「なんで今それを! しかも、あの時は褒めてないでしょう! ありがとう、って言ったのよ……バカ!」


 うん、安定のボケの騎士団団長令息。


 そして、婚約者のご令嬢のみごとなツンデレ。

 いいね!


「そうだね、確かに傾向と対策も必要だけど、僕達六人に必要なことは……」


「必要なことは……なんでございましょうか?」

 よくぞ訊いてくれました、魔法局局長令息の婚約者令嬢。


「婚約者同士で仲良くすることです!」


「ほう」

「なるほど! さすがは殿下!」


「え」  

「まあ」

「あら」


 あれ、僕たち三人と、三人のご令嬢方との反応に違いが。


「昼食でも学習でも奉仕活動でも、とにかく共に行動する機会を増やそう。ね、魔法局局長令息、君は何がしたい?」


「あ、はい。私は二人きりで古書店に行きたいですね」

「二人きりで……。それは……」

 あ、婚約者のご令嬢。  

 真っ赤ですね。これは、行きたいです、ですね。


「俺はそうだなあ、一緒に菓子を食べに行きたい! 君の好きな店を教えてくれ! ダメなら俺は護衛になるから君が美味しそうに食べている可愛い表情を見せてくれ!」

「……バカ」


 うん、騎士団団長令息、護衛が護衛対象を見詰めたらダメだろう。 

 背中に目があるのか、君には。


 でも、まあ、バカ、に愛がありますよね、これは。


「……じゃあ、僕は貴女の行きたい所、したい事を叶えたいです」

 ……膝をつき、婚約者のご令嬢に手を差し出す僕。

 一応王族、それに見栄えも良い母上と父上の子ですから、絵になってないかなあ。なっていたら良いな。


「……もう、叶いましたわ」

 差し出した僕の手に、綺麗な桜色の爪と、美しい長い指が触れて。


「私の手を、たったお一人の方に取って頂きますこと。それを望んで過ごしておりましたので」


 ……か、かわいい!

 見て、皆!

 僕の婚約者のご令嬢が! かわいい! 

 でも見せたくない! だって、かわいいから!


 ……あれ、顔が赤いね。

 あ、やっとあの聖魔力保持者が片付いたから、疲れが出たのかな?


「……第二王子殿下、恐れながら」

「私共に付いてくれております密命執行者たちが、先程から、皆様のお心を解析して、念話にて私共にと、伝えてくれておりまして」


 ……なんと言いました、騎士団団長令息の婚約者のご令嬢、魔法局局長令息の婚約者のご令嬢?


「……まあ、殿下が婚約者様をかわいいと思っておられるのがバレバレになった、ってことですね」


 ……騎士団団長令息!

 ほんっとに、正直だな、君!


「え、えっと、ね。とにかく、婚約破棄はしないで、ね?」


「……はい。殿下もその旨の無きようにお願い申し上げます」


「そんなこと、あるわけないよ!」

『あるわけないよ!』


 ……あ、今、密命執行者の諸君、解析の必要がなくて、つまらないなーって思ったよね? 


 気配で分かったよ。


 つまらなくてけっこう。

 僕たちはもう、婚約者を愛でて愛でて愛でまくるんだからね!


「あ、ほら、殿下、また!」


 あ、いけない。その頬を染めるなら、きちんと僕の口で言わなきゃね!


「俺も負けられないな!」

「私もですね!」


 そこから先は、言わずもがな、だよね。


 僕達仲良し三人組。 

 大好きな婚約者の為に、甘い甘い囁きを、きちんと声に出し続けたのでした、と。


 ……ちなみに、翌日。


 仲良し三人組は貴族学校の校内新聞に『第二王子殿下とご友人の高位令息様方、聖魔力保持者から逃れて婚約者様方を口説きまくる! おみごと!』と大見出しで大々的に取り上げられるのでありました。


 人払いがされていたはずなのに、なぜか、情報と映像水晶の写し絵の提供者が存在した……?


 提供者……その正体はもちろん、お分かりですよね!



 ≪完≫

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