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二重生活中の悪役令嬢ですが、婚約破棄予定の相手から求婚されました
二重生活中の悪役令嬢ですが、婚約破棄予定の相手から求婚されました
七瀬京
異世界恋愛ロマファン
2025年06月23日
公開日
1万字
連載中
 皇太子の婚約者ファルティアは、ある日、母から告げられる。  母は、異世界の記憶があり、この世界は、そこで読んでいた小説と酷似しているということだった。  それによると、いずれ国難が訪れ、聖なる乙女が現れ、ファルティアは自滅していくというのだった。  皇太子の婚約者という立場は敵も多く、様々な嫌がらせや不名誉な噂も流されていた。その上、皇太子とも折り合いは良くない。ならば、ここは婚約破棄、そして破滅を回避する方向で行動しようと、今まで諦めていた治療師となって、サフィレ病と言われる原因不明の難病を治すために尽力しようと決意するが・・・。

プロローグ

プロローグ


「もう、私には、あなたしか居ないんだ。あなたの身分など構わない。親たちの決めた婚約者とも、正式に婚約を破棄する。必要であれば、身分も捨てよう。だから、どうか、私と生きてほしい」


 がっしりと手を握りしめられ、熱っぽい口調で言う皇太子殿下に、ファルティアはくらくらと眩暈がしていた。


(一体、なんでこんなことになっちゃったの……)


「……ファティア・・・・・、黙っていないで何か言ってほしい」

 皇太子殿下の翠玉の眼差しが、不安げに揺れる。


(ちょっと待ってよ……)

 ファルティアは、どうして良いのか全く解らない。彼にどう答えるべきか、思案する。


 そもそも、彼の言う『ファティア』というのは、ファルティアの偽名だ。今思うと、偽名にもなっていないような偽名だ。


 そして、彼の言う、『親の決めた婚約者』というのは、紛れもなく、アヴェリン侯爵令嬢ファルティア―――つまり、ファルティア自身だった。


(求婚と破談が一緒に来た……)

 混乱しているファルティアの、混乱の理由など、皇太子は気付いていない。


「急に、こんなことを言い出してすまない。ただ……私は、この困難を、だれあろう、あなたと乗り越えていきたいのだ」


「わ、私っ! 用事を思い出しましたのでっ! それに、こういうことは、私一人で軽率にお答えするわけには行きませんからっ!」

 脱兎の如く逃げようとしたが、より一層強い力で、皇太子はファルティアの手を握りしめている。


「そういえば、あなたのご家族に会ったことがなかったな。……大切なお嬢さんをお迎えしたいのだから、挨拶は必須だろう。どうだろうか、挨拶に伺ってもよろしいだろうか?」


 きらきらした笑顔が、まぶしい。

 この笑顔に、憧れていた時期もあった。


ファルティアわたくしには、一度だって、そんな微笑みを下さらなかったじゃないっ!!)


 内心、罵りたい気分になりながら、ファルティアは「放してください、本当にっ!」と必死でもがく。


 けれど、ここは、王立学院の、一部の生徒しか立ち入ることの出来ない、『秘密の花園』と呼ばれる特別な区域。ファルティアも、皇太子と一緒でなければ、立ち入ることは出来なかった。つまり、大声を出そうとも、助けは来ないと言うことだ。


 焦るファルティアを余所に、皇太子はそっと手を放す。

 そのまま立ち去ろうと思ったが、出来なかった。

 皇太子が、スッとファルティアにひざまずいたからだ。


「殿下っ!?」

 焦るファルティアに、皇太子は、蕩けるような笑みを浮かべてから、ファルティアの服の端に口づけをした。


「っ!!!!?」

(こ、これは……っ!!)


 ドレスの裾に口づけて跪き愛を乞う―――これは、騎士からの最上級の求愛だった。たとえ、この求愛を受け入れられなかったとしても、生涯、この人にだけ真実の愛を捧げるというような……。


(ちょっと……まって……)

 理解が追いつかず、ファルティアは頭を抱えたくなった。


「……私、リシャルト・ラフォーレは、あなたに……ファティアに、生涯変わらぬ愛と忠誠を捧げることを誓います」


 この場合、乙女の正しい返答としては、薔薇色に頬を染めながら「わたくしも、あなたに永遠の愛を」と答えるのが普通なのだが……。


「知りませんっ!!!!」

 と叫んで、そのまま、呆然とする皇太子を置いて、『秘密の花園』を逃げ出したのだった。


(なんで? なんでこうなったの? ……どこで間違った……?)


 そもそも、ファルティアの母の話に依れば、東方から来た『聖なる乙女』と皇太子は恋に落ちて、そのまま結婚。元婚約者だったファルティアは、婚約破棄された上、数々の『聖なる乙女』に対する嫌がらせが暴かれて国外追放。皇太子は聖なる乙女と共にこの国を救う……という話ではなかったか?


(その為に、回避行動を取っていたのに、なんでこうなった……?)

 是が非でも、皇太子には聖なる乙女と結婚して貰わなければ困る。そして、ファルティアが国外追放にさえならなければ良いはずで、その為に回避行動を取れば問題ないはずだった……。


 混乱しつつ、ファルティアは、(こんなことなら、お母様の言うことをちゃんと聞いていれば良かった……)と、最初に母の言葉に逆らった、その日の事を思い出していた―――。


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