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第26話 婚約者の溺愛が辛い

 結局私とニルス様はあれからとても仲良くなった。指輪は業者を呼び床板を外して取ってもらった。

 今はニルス様がわざわざ公爵家の馬車を迎えに寄越して一緒に馬車に乗って通学している最中だ。


 ニルス様は指輪を取り出すと


「今度は嵌めてくれるか?」

 と言うからコクリとうなづき丁寧に嵌められた。


「よく似合う…」

 と赤くなりながら言うニルス様の指にも同じデザインのものがありお揃い感で恥ずかしくなり


「や、やはり外していいですか?これをつけて学園に行くと噂になってしまいます!」


「言わせておけばいいだろ?」


「でもぉ…人の目が…」

 見られると気持ち悪くなるし。するとニルス様は指輪に魔法を唱えると光りだした。


「防音効果と周囲の人間が薄く見える魔法も付与しておいたぞ。後緊張しなくなる薬もたくさんやる!」

 と鞄からたくさんの薬を出した。

 い、至れり尽くせり。


「因みに術者の俺ははっきり見えるけどな!俺だけ見てればいい」

 と言うと手を握られる。この前キスしたことが思い出されぼっと赤くなる。


「は…はい、ありがとうございます!」

 と言うとニルス様が手を伸ばしてくる。


「イサベル…」

 となんか甘い空気になる。


「ニルス様…だ、ダメですよ…!」


「は?何が?」

 と優しい顔をする。くっ!胸が締め付けられる。今までニルス様がこんなに甘い顔をした事が無くむしろ照れたり怒られてばかりだったのがキスされてからガラリと変わった。学園で人の目がある時は相変わらずの天邪鬼態度なのに二人きりになるとこれだ。


 心臓がもたないしまたキスされそうなのを私は必死で口に手を当てガードして止める。


「…お前ほんと素直じゃ無いな!」

 と言われる。え?ニルス様に言われたく無い。

 しかし結局手をどかされ綺麗な目に見つめられると動けなくなり引き寄せられられるまま軽く朝のキスをされ、終わると笑顔で頭をポンポンされるとなんだか心が嬉しくポワポワした。


「イサベル大好きだ。俺の可愛い婚約者」

 ともうニルス様は人が変わったかのように私の前では優しくなった。これは溺愛というやつかな?

 こんなのが毎日続くと私、心臓病で死ぬかも。辛い。


 私はハッと思い出して、鞄からランチを渡した。


「お昼に召し上がってください」

 と言うと


「ん…ありがとう…どうせなら一緒に食べないか?」

 と誘われる。


「変な虫…まだ謹慎中だがあのクソ王子以外にもお前を狙ってる者は多い。学年が違うから常に側に居れないのが情けない」

 と言う。


「そんな…ニルス様だって…」


「俺の心配より自分を心配しろよ?いつもあの友達の女と一緒にいるんだぞ?この指輪は多少危険から守ってくれるけどな」


 結局学園に着くまでいつの間にか私はニルス様の膝に乗せられて抱きしめられていた。


 *

 頰にキスされ馬車から降りると人の目が一斉に向いた。思わずニルス様の影に隠れながら歩いた。


「大丈夫だから。教室まで送るか?」


「余計目立ちます!」


「ははっ…」

 と笑うニルス様。こっちは大変なのに!溺愛もいい加減にして!

 するとマリーがやってきた。


「おはよう!!イサベル!!ニルス様!!」


「…おはよう…えーと…ハイデマリー・ロデリードだったな。ロデリード商会の娘の」


「はい!イサベルの唯一の大親友であります!」

 とマリーが畏る。


「そうか…イサベルがいつも世話になっている」


「はい!私がいる限り変な男は近寄らせませんよ!なのでうちの商品もよろしくお願いします!!」

 とまたちゃっかり言うマリー。


「わかった。ロデリード商会の物も今度取り寄せてみよう」

 と言うとマリーは笑顔になりペコペコと頭を下げて商品の紹介をしていた。


 それからニルス様は2階へと上がろうとしたところをヘルベルト様に引き止められた。


「やあ、ニルス!おはよう!見てたよ!一緒の馬車で登校なんて!きっといやらしいことを中で?羨ましいね!」


「お前と一緒にするな!!」

 と言う。いやキスしたくせに!!


「そうかい?ああそうだ、遅くなったけどね、俺…アンナと別れたよ。他の生徒会のメンバーたちも一斉に別れた」

 と言うから驚く。


「ええ!?あんなに仲良かったのに?」


「ははは!俺は美少女なら来るもの拒まずであったけどさ、流石にあんなクソ女の相手をするほど馬鹿ではないよ。あんなのただの暇つぶしと遊びだし、他の皆も彼女のつける媚薬の香水が効いていたからねぇ。証拠の香水をやっと没収しておいた。


 俺とニルスはそう言う類の媚薬に幼い頃から訓練を受けていてね。とりあえずアンナを泳がせていたのさ」

 と言うから私はニルス様を見ると嫌な顔をして


「ヘルベルト…お前耐性があるのにアンナと遊び過ぎだろ。婚約者に悪いと思わないのか?」


「と言ってもかなり遠い国の王女様だし、俺も一度も会ったことはないからなぁ?向こうもいろんな奴とできてるかもしれないだろ?」


「そんなの会わないとわからないだろ?俺とイサベルのようにな」

 と言うから照れる。


 私もいつの間にかニルス様のことはもう大好きだけど恥ずかしくてニルス様のように好きだとか連発して言えないもの。


「なんだかすっかり甘くなったねぇ?ニルス。まぁ上手くいって良かったよ。人間素直が一番さ!イサベルちゃんはニルスのこと当分は気持ち悪いだろうけど相手してやってね!」

 と言われて苦笑いするとニルス様は


「おい、嫌そうな顔するな!失礼な奴だな!ヘルベルト!行くぞ!!」

 とニルス様はヘルベルト様を引きずりながら2階へと上がって行き、少し振り返ると


「また昼な!」

 と約束し、見えなくなった。

 マリーはニヤニヤして


「随分と溺愛されるようになったね!最初は酷い奴だと思ったけど!!結構いい人だったね!素直になると!」

 とマリーにも言われてる。


「う、うん…」


「ふふふー!お昼もこれからは私は遠慮するからね!」

 と言われ午前の授業が終わるとお昼に人気のないあの空き教室でニルス様と待ち合わせをしてお昼を食べることになった。


 人がいないからとニルス様は私を膝に乗せて私の口に食べ物を運びどこから見ても溺愛ぶりが激しい。見られてなくて良かったけど。


「…最近お祖父様が寂しいからお前とお茶会を再開したいと言うが俺のイサベルを取られては敵わないからな!お前も研究したいだろうし俺の部屋でするといい」

 と嬉しいことを言われ


「いいんですか!!?研究しても!!?」


「ああ…お前の透明薬…時間調整できるようになったらちゃんと商品登録して売り出す!いいか?危険だから開発者は俺の名を使うが」


「は、はい!研究できれば何でも!!」

 と嬉しがるとニルス様もにこりと微笑む。

 そうして私の休日は楽しくなりもう世界から消えたいとは思わなくなった。


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