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第27話 構ってくれよ(ニルス)

 俺はニルス・ダーヴィト・シャーヴァン公爵家令息だ。卒業したら父の後を継ぎ公爵となる。


 幼い頃親同士が勝手に決めた婚約者がいた。姿絵のみが届き、本人は家に引きこもっているらしい。

 もしや俺のこと嫌いなのでは?

 まだ小さいし勝手に親が婚約を決めてしまったもんな。会いたくないのも当然かと思った。

 姿絵の小さな婚約者はハッキリ言って可愛かった。と言うか…めちゃくちゃ俺の好みだった!


 どうしよう、こんな可愛い子が俺の婚約者なのか。どんな声してるのかな?実際に会ったらなんて言えばいい?

 一人で部屋にいるとニヤニヤしながら姿絵を見ていた。


 で、でも俺は嫌われてるんだっけ?

 会った時にニヤニヤしてたら気持ち悪がられるよな!!


 それから数年経っても夜会にも茶会にもちっとも参加しないし…。俺は姿絵を見てため息ばかりついた。


 俺の方が先に学園に入学した。

 同学年じゃない事を呪った。

 俺は従兄弟の王子のヘルベルトの奴と一緒に生徒会に誘われて入った。まぁ貴族や王族だしな。

 小さい頃から何かと絡んでくるヘルベルトは俺と容姿は少し似ていて兄弟みたいに育った。奴は人前ではキラキラしたオーラを放ち女の子達を虜にしては裏では


「あの子も俺に落ちた!ニルス勝負しない?次はあの子!」

 とか言い遊びだした。


「勝手にやれ。俺は婚約者がいるから」

 と断る。ヘルベルトにも婚約者がいるが遠方でこっちも会ったことはない。


 学園に入り間も無く、ヘルベルトや生徒会の男達は水色髪の美少女アンナ・オブ・クレックナー伯爵令嬢に夢中になっていた。俺たちと同学年のその女から微かに媚薬の匂いがした。香水に混じっている?

 俺とヘルベルトは幼い頃からそういう怪しい薬への耐性があり簡単には引っかからなかった。


 だが、ヘルベルトは耐性があるにも関わらずアンナがただ美しいと言うだけで遊んでいた。


「仕事をそっちのけで遊ぶな!ヘルベルト!俺に回ってくる!」


「若いうちは遊ばなきゃ損だ!枯れ果てたジジイになる前に!」

 と言うヘルベルト。


「避妊魔法はしてるんだろうな?」


「当たり前だろう?馬鹿じゃない。他の男達は知らないがな?それにアンナも一応避妊魔法を取得してるから自分でかけてる」

 と言う。


 乱れている。最悪だ。

 アンナは俺にもしょっちゅう絡んでくる。ベタベタと腕に絡みつきねっとりした視線で不愉快だ。誘惑して俺を落とそうとしているのがわかり、俺はこの女が内心嫌いだった。


 そうこうしてるうちに一年経ちようやく俺の婚約者のイサベルが入学してきた。ていうか遅刻してきた。列の後ろでコソコソしていた。

 でも俺はイサベルだと直ぐわかった。

 姿絵から成長した姿はあまりにも美しく可憐であり、目が合うと離せなかった。


 この…入学式が終わったら必ず声をかける!

 そう決めた。

 しかし実際会うと俺は恥ずかしさからとんでもない態度になりイサベルを傷付けた。何故あんな思ってもない事が出るんだ?恥ずかしくて俺はまともな受け答えができなくなっていた。その後イサベルが吐いたと知った時は青ざめた。完全に俺のせいだ。


 *

 まぁそんなこんなで色々あった。彼女の部屋へ行けた時は緊張でおかしくなるし転んで胸を触ってしまい失敗した。でも柔らか…ゲフン!


 お祖父様も一緒だがお茶会した時も内心嬉しかった。それが彼女の研究の時間を奪っている事も当時は知らなかったが。


 いきなり馴れ馴れしい転入生のクソ王子と決闘をしたり、襲われたイサベルを助けたり、透明化薬の存在を知ったり…クソ王子は殺してやりたいと思った程だ。


 その後マリアがイサベル本人でありそれがバレた時は俺は恥ずかしさで死にたくなった。俺が悩みを話していたのがまさかの本人であり俺は何度も本人に対して好きだとか言いまくっていたんだからな!


 しかし俺は開き直った。もはやジタバタしてもどうにもならない。俺の気持ちは全部知られていたしイサベルが謝っているのにどうにも怒れなかった。自衛のために薬を使ったこと、目的は世界から消える事を聞いた時にはそんなに俺の事が嫌いだったのかとショックを受けた。


 しかし違った。全部人混みや人の目が嫌で体調を崩す体質からだと。一人でのんびり消えて過ごしたいなどと。誰にでも一人になりたい時はあるが、イサベルは一人きりで消えて生きるということはどうなるかわかっていなそうだった。


 透明化したままでは食べるのにまず困る。人は働いてお金を得て食べる物や物を買う。透明化するとそれらは盗むということか?自給自足にしても誰もいない所に畑が出来ていたら誰かが調べにくるだろう。家は?寝る場所は?

 実家にずっといるとしてもどうしたって腹が減れば厨房にもらいに行くだろうに。


 案の定指摘するとイサベルは言葉に詰まり泣き出し、もう薬は作らないと言う。何年も続けてきた研究だ。正直信じられないがイサベルは凄いと思う。こんな薬が開発されたなら有事の際にかなりの値で取引されたり商品化するとかなりの値がつくだろう。


 それ故に危険も伴う。この薬を作ったのは誰なのかと。もしイサベルが悪者に捕まり薬を作れと命令され監禁でもされたら大変だ。しかもこんなに可愛いんだぞ?クソ王子じゃないが襲われるに決まっている!それだけは嫌だ。


 イサベルの気持ちが知りたい。俺はイサベルを守りたい。何故俺を見て赤くなったりする?勘違いじゃなけりゃ俺のことを好きなのか?一度もイサベルから俺のことを好きだとかは聞いたことがなかった。


 俺はこんなに好きなのに…。

 婚約指輪を渡し、予約をして指に嵌めようとすると抵抗されるし指輪は床下に落ちるし全然ダメだった。イサベルはまだ自由でいたいことを知る。薬師になりたい事も知る。


 結局その後デートに誘った。前日は眠れなかった。しかし俺は正装したがイサベルは森に行くからと籠を持ち服もデート服とは程遠いもので俺の方がおかしかったと気付いた。

 でも二人で馬に乗ったりキノコを始めて採ったり中々楽しかった。イサベルといて楽しくないわけがない。


 雨が降ってきて洞窟に避難した。濡れたイサベルもとんでも無く可愛いが風邪を引いてはいけないと引き寄せて抱きしめ…愛を囁きついにとうとう念願だったキスをし、中々俺を好きと言わないイサベルに言うまでキスをするとやっと言ってくれた!!



 長かった!!

 やっと俺はイサベルに言わせた。……いやかなり強引な手段であったがイサベルも俺を嫌ってないと言ったし良かった。色々と俺は間違っていてすれ違うことが多かったけど指輪を取り戻して今度はすんなり嵌めてくれたので嬉しかった。やっと正式に婚約者だと言えるだろう。


 そう言えばヘルベルトはやっとアンナと手を切り他の連中も手を切ったらしい。まぁ大半は媚薬により操られていたような物だ。アンナは取り調べのため謹慎中で憲兵に媚薬の存在を知られ、学園ではそれが騒ぎになっており、アンナを庇うものは居なくなり男達にも捨てられてしまった。

 今では学園に来なくなった。


 クソ王子の方は透明化薬のことをベラベラとイサベルが持っていたことを喋りイサベルも取り調べを受けたが俺が既に薬の道具を取り上げていたことや侍女のサラにも口合わせをした事と薬は拾ったものだと主張しクソ王子は喚き散らした。


「嘘だ!!その薬はイサベルちゃんが作った!そうだ!あのクソ野郎…ニルスの奴を調べろ!!」

 と言い出すが、薬を使いイサベルを襲った事実から王子は隣国へ強制送還された。


 二度と来るな!!

 それからは学園でもイサベルを甘やかすことにした。と言っても人前はやめて二人きりになるとだが、キスとかまでに留めておく。

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