用意を済ませてバスルームを出る。
瑞貴は髪を雫が滴らない程度までざっと拭いただけで、バスタオルを腰に巻いたまま南条の待つ部屋へ戻った。当然着替えなどないし、借りようとも思わない。
手持ち無沙汰の落ち着かない様子で、彼はダイニングの椅子に腰掛けていた。珍しいものが見られたな、とこんな時にも関わらずなんだか微笑ましくも感じる。大学で学生である瑞貴に、教員である南条が無防備な顔や不安な様子など見せる筈もないからだ。
とりあえず、瑞貴のさり気ない誘導に二人でダイニングからベッドルームに移動する。南条にベッドに上がるように促し、瑞貴も膝立ちで乗り上げると彼の服を脱がせて行った。
抵抗する素振りも見せない彼が少し意外だ。拒まれることを内心恐れていたはずなのに、なぜ逃げないのかなんて我ながら矛盾しているとも思うのだが。
──それにしても、すぐに脱ぐのがわかってるのになんでちゃんと服着てるんだよ。いくらTシャツとハーフパンツの軽装つっても、これから『する』ために風呂入ったあとで。
緊張が隠せない様子の南条に瑞貴も少し身構えてしまいそうになり、どうでもいいことを考えて気を逸らした。そういうところも生真面目なこの人らしいと言えばその通りではある。
瑞貴は何故だか少し胸が苦しくなったのには目を瞑ることにした。
誘ったのは確かに瑞貴だが、乗ったのはこの男だ。自分が何を言ったのかを理解していないのだろう南条に、思い知らせてやりたい気持ちもあった。彼の言葉に傷つけられたとは認めたくない。
そう考えること自体が囚われている証拠なのだと心のどこかでわかっていた。
どちらにしても、瑞貴がここで躊躇ったりしたらどうしようもない。南条の方から積極的に何かをしてくるわけもないのだし。彼は本当にどうしていいのかわからないのか、裸でベッドに横たえられて瑞貴にされるがままだ。
……こういうのも「マグロ」というのだろうか。普通は立場が逆のときに使う表現なのだが。
ふと浮かんだ言葉を頭から追い出し、気を取り直して本気でやる気ならまずは、と瑞貴が南条のものに手を伸ばす。一瞬息を飲んだものの、彼はその手を制止することはなかった。
当然だが、完全に萎えていたものが瑞貴の愛撫に反応してだんだん質量を増してくるのが不思議に嬉しい。生理的なものだとわかってはいても、もし何の反応も示されなかったらやはりショックは受けるだろうから。
最初はさすがに瑞貴の如何にも慣れた行動に戸惑っていた相手も、すぐにその場の雰囲気に呑まれて来たらしい。
「……いいですか?」
強引に昂らされたとはいえ自然息を荒くしている南条に尋ねたが、瑞貴は意味を測りかねているらしい彼に気づく。
「もう入れたいんですけど、いいですか?」
言い直した瑞貴は、少し戸惑いを見せながらもしっかりと頷いた南条を確認してヘッドボードに置いた避妊具の箱に手を伸ばした。
男の身体に乗り上げた姿勢で不安定なので、片手は自分を支えたまま、もう片方の手だけで掴んだ箱の蓋を乱暴に開けて逆さまに振りシーツの上にこちらも派手な色の中身をぶち撒ける。
拾って端のひとつを咥えると、瑞貴はピラっと垂れ下がった繋がりから噛み千切るかのようにミシン目で切り離した。手に残った分を床に無造作に放り投げ、ついでのように空の箱もベッドから払い落とす。
瑞貴は口に咥えたままのパウチの端を破って中身を取り出し、それを南条に装着して彼の腰に跨るように座り直してベッドに膝をついた。
そのまま、南条を自分の中に誘うように手を添えて、腰を落として瑞貴は彼を受け入れて行く。
「んぅ、っふ……」
ぐぅっと身の内に入り込んでくる熱に、瑞貴は喉を反らせて軽く呻いた。
南条はただ思い詰めたような瑞貴の放つ空気に圧倒されたかのように無言で、少し頭を持ち上げて自分の上にいる瑞貴を見ていることしかできないのだろう。この行為を欠片も楽しんでいるようには見えない、むしろ苦痛を堪えるかのような表情の、瑞貴のその姿を。
「っ、入っ、た。……ぜんぶ」
彼の上に完全に座り込むような姿勢で、瑞貴が息を吐く。そして、身体に手をついて少しずつ身体を上下に揺らし始めた。
結局最後まで、南条は瑞貴に翻弄されていたように見えた。