「王太子であるわたし、フェルディナンド・ファエストが告げる! アデルリーナ・サードラッツ! 貴様との婚約は破棄された!!」
あらまぁ。そうですか。された、と完了形であるということは、我らが王が認めたということなのでしょうけど、我らが王は、隣国の王の崩御に伴う国葬に参列されるため、先月には城を発たれましたが……その時点で破棄されていたのでしょうか? でしたら何故、今まで通達がなされなかったのでしょうか。
ところで殿下、それはもう大切そうに腕に抱いていらっしゃるスノウリリー嬢が、その白い肌を更に白くされて淑女ぎりぎりのお顔で貴方のお顔を見上げてらっしゃいますが、気付いておられますか? あぁスノウリリー嬢、お可哀想に……。初めて我が家にいらしたときもあまりよい顔色とは言えなかったですが、それでも今よりは遥かにましでしたわ。その顔色だって、お帰りになるときにはすっかり薔薇色になっていましたし。
「そして! ここに共に立つ我が最愛、スノウリリー・ウォードと新たに婚約を結んだ!!」
あらあら、またもや完了形。スノウリリー嬢が今にも倒れてしまいそうですわ。それにしてもどうしましょう、スノウリリー嬢が正妃だなんて……ウォード家は比較的新しい男爵家。我が国では、正妃として立つにはご実家が伯爵位以上でないといけないという決まりがあります。これは子爵位や男爵位を軽んじている訳ではないのですが、歴史が比較的浅い家系も多いという理由が付けられております。それに、伯爵位以上と子爵位以下では必要とされる学習範囲やマナーなどが僅かに違っておりますし……。勿論、過去それらの家の子女が見染められた例もない訳ではありませんが、彼女たちは例外なく伯爵以上の位の家の養女となり、その後足りていない部分を学んでから王家へ嫁ぐ、という段階を踏んでいます。
ですが、そもそもスノウリリー嬢は、正妃の立場など望んでおられません。我が家にいらしたのも、そのお話をするためでしたの。