「お初にお目にかかります。私、ウォード家の長女、スノウリリーと申します。我が国の若き月であるお方にお目通り叶いまして、恐悦至極に存じます」
「顔をお上げになって? ご挨拶、確かに頂戴いたしました。わたくしのことはどうかアデルリーナ、と。スノウリリー嬢とお呼びしても?」
それは、麗らかな春の日の午後のことでした。丁寧に先触れをいただいているはいえ、挨拶さえしたことのないご令嬢が、位が上の者の家を訪ねるということはあまりありませんし、褒められたことでもございません。それでもわたくしがこの訪問を受け入れたのは、他でもないスノウリリー嬢の訪問だったからです。
今、社交界で専ら噂になっている話題。それはわたくしの婚約者である王太子殿下と、このスノウリリー嬢の恋とか愛のお話。……あぁ、わたくし別に構いませんわ。わたくしと殿下の婚約は、王と我が父である伯爵の間で決められた契約であって、当事者であるわたくしたちの感情は別枠なのですから。それに、この国の王は正妃の他に、側妃をふたりまでなら娶れますし、愛妾ならもう少し多く囲えます。
「ありがとう存じます。もちろん、私のことはどうぞお好きにお呼びくださいませ」
「ありがとう。どうぞお掛けになってくださいませ。用意したお茶がお口に合えばよいのですが……」
おそらく殿下は、彼女を側妃か愛妾に迎え入れるでしょう。先程も申しましたが、それは構わないのです。殿下がわたくしに女性的な甘い感情を求めていないことは知っていますし、わたくしも殿下に男性からの甘い感情は求めておりません。むしろ、わたくし以外の女性を側に置いて愛でることによって、殿下のお気持ちが良い方に向かうのであれば大歓迎です。
しかしながら、彼女は側妃として足り得るのでしょうか、それとも愛妾止まりなのでしょうか。今日の訪問は、それを見極めたい、と、お受けすることにしたのです。