夜。晩餐会から帰って来て、グスタフは俺の後をついてくる。
「なんだ」
「……コロラド殿の申し出を受けるつもりですか」
そんな言葉を突き付けられて俺は思い切りグスタフの脛を蹴った。
「お兄様」
「煩い!」
気をもむグスタフと癇癪を起す俺。
周りの使用人は引き離そうとするがグスタフがそれを許さず、俺を小脇に抱えて部屋に放り込まれた。
その際、背後にいた執事に怒鳴るグスタフ。
「誰も通すな」
「なんだ!お前なんかっ」
「お兄様」
グスタフは俺を抱えたままベッドルームに行き、ベッドに俺を放り投げる。
襟を寛げてこちらを見下ろす。
「お兄様」
どろりとした笑み。
それを見てあの時見た白昼夢を思い出す逃げ出そうとして両手首を纏められる。
「離せっ!!」
「お兄様、お兄様」
思い切りよくグスタフを蹴るが頑丈なグスタフの体は一切微動だにしない。
「愛しております。愛しているんです」
頬を紅潮させ口づけをしようとしてくるグスタフの顔を回避していると手首が解放され首を絞められる。
「ねえ、お兄様」
「ぐぅう」
「マルセロ・コロラド大佐殿を助けてもいいですよ」
「え」
目を見開いてその精悍な顔を見る。
彼は満面の笑みで俺に囁く。
「魔術強化をして前線に行けばいいんです。私の魔術なら、強化時間は1ヶ月持ちます。だから、助けてあげられますよ」
どうしよう。どうしたらいい。このまま、抱かれれば俺は殺される。
でも、抱かれれば、マルセロは助かる。
俺は逡巡し、力を抜いた。ぱたりと両手がシーツに落ちる。
「……」
「マルセロ・コロラドがそんなに大切ですか」
「親友だぞ」
あきらめの境地で体から力を抜く。
服を脱がされ頬に手を当てられる。
それにすり寄ることもなく、漠然とした気分でグスタフを見上げていた。
「気持ち良くしますよ」
「そうか、それが終わったら、俺を殺すのか」
「?何故ですか?愛しているのですから、ずっとおそばに居りますよ」
嘘だろう。だって……ん?前世はなかったのか?あれはただの白昼夢?
でもリアルだった。切られた感覚だって思い出せる。
……なんだろう。ただの徒労だったか?
「ほら、催淫効果のある錬金薬です」
「ん」
渡されて言われるがまま飲み干し、瓶を投げ捨てる。
もうヤケクソだ。なるようになれ。
飲んでみると体がポカポカしてきて、頭がボーとする。
口づけをされて口の中を分厚い舌が蹂躙するのを唯々諾々と受け入れた。
「んっ」
口を離されると銀の橋が互いの口を繋ぐ。
ああ、キスしたんだ。弟と。
罪悪感もわかない。いや、嘘だ。胸の奥がチクチクする。
あんなに可愛い弟だったのに、俺の事なんて、女の代わり程度にしか思ってなかったんだ。
他所に女を作ると問題が起こるから、“愛している”なんて言葉で俺を縛る。
ああ、愛している。俺だって、お前を愛しているよ。けど、肉欲を伴うものではない。ただ、弟として愛していたのに。
涙がこぼれた。
「お兄様、痛くはしません。泣かないで」
「ぅん」
ズボンを下着ごと脱がされてキングベッドの横に放り捨てられる。
軍服を着たグスタフと裸の俺。ああ、俺はが抱かれるのはただの性欲発散のためなのだろう。
手袋を脱いだ手で尻の窄まりに指を突っ込まれ冷たさにびくりと体を跳ねさせる。
「ああ、すみません。クスリを使いました。お兄様は初めてだから」
「ん、そうか」
あまり関心がない。頭がボーとするだけで……
「んっあっあぁっ」
とんとんと中を叩かれて腰が揺れる。
勃起することのない小さなペニス。
でも気持ちいい。でも、まだ胸が痛い。
「ここ、気持ちいいでしょう?ちゃんと練習したんです」
「そ、っか」
「早く慣らさないと」
「ん、んっきもちい、あっあっ」
指が増やさればらばらと動かされる。穴が広がるとグスタフはどろりと笑いそこを両手の親指で広げて見ている。
「ああ、淫乱な肉がうねっていますよ。ねえ、私が初めてですよね?」
「うん」
「よかった。錬金薬が良く効いているんですね」
どうでもいい。早く終わってくれないかな。
グスタフはズボンを寛げて緩く勃起したペニスを取り出す。
俺とは違う、赤黒い巨根。
グロテスクなそれを擦って勃起させると穴にピタリと充てる。
「ねえ、私が初めてなんですよね?」
「うん」
それがなにかと見上げるとグスタフは心底嬉しそうに嗤うのだ。
ああ、それは尊厳を踏みにじられる。弟の性欲処理に付き合わされる。
「挿れますよ」
「う、ん」
あんな巨大なものが入るんだろうか。
素朴な疑問は衝撃と共に霧散した。
「んっぎぃいいい!?」
みちみちと胎内を荒らす巨根。
「でっかっちょっとまてっ」
「待てません」
ずんと奥まで一気に貫かれ背が仰け反る。
「んいぃいいいっ」
結腸の奥。絶対に犯されないはずのそこを犯されて口がはくはくと開閉するしかない。
「これぇっ♡きもちぃい♡♡」
頭がスパークし、真っ白になる。気持ちいい。ああ、そんな。尊厳を踏みにじられて気持ちいいだなんて。
「ちょっと急ぎます」
「んぉお♡はひっ♡はひぃい♡」
どちゅどちゅと卑猥な水音が激しく響く室内で荒い呼気が異様に早い。
「ふああああ♡」
涎がとめどなくあふれ、気持ちよすぎて涙も零れる。
挿入が繰り返されるたび長い髪がシーツの海を泳ぐ。
俺は青白く細い腕をグスタフに伸ばした。
広い肩幅のがっしりとした肩に手を置きよがり狂う。
「きもちっ♡きもちいい♡」
「これからは何度でもして差し上げますよ」
「うん♡うん♡」
ああ、脳みそが溶かされる。馬鹿になる。気持ちよすぎる。
こんなに気持ちいいことがあったのか。
「んっそとに、出しますからっ締め付けないでください」
「ふああ」
ずるんと巨根が抜かれ生温かい液体が股間を濡らす。
汗をかき、額に張り付いた髪をかき上げるグスタフは俺にキスの雨を降らしながら呟く。
「……まだ、メスイキは出来そうにないですね」
「きもちよかった」
それだけ言うとぱたんと腕を落として気を失った。
◆
犯した兄を魔術で綺麗に洗浄し、寝巻を着させて毛布を掛ける。
すやすやと眠る姿に安堵し、部屋の外に出る。そこで、父とかち合った。
「貴様」
「なにか」
父親の毒々しい目。父は私が嫌いだ。大嫌いだ。憎んですらいる。だから、兄が私を好いているのが気にくわない。
私は正妻の子。誰もが知っている。それくらい見た目が父と似ている。
でも、そう、私は知っている。兄は違う。
兄は父が心の底から愛した女との子。妾腹の子。だから、兄は大切にされた。軍には絶対に入れられず後生大事に屋敷に閉じ込められた。
兄はこの家の、ロドニー公爵家の“宝”だ。
それに手を出したと知った父の憤怒は察して余りあるものがある。
剣を突き付けて私に叫ぶ。
「殺してやる!!情けで置いてやっていたものを!!」
「あははははは!!無理でしょう!ロドニー家はもう私のものだ!」
その言葉に何かを察した、そう、それを察した父は剣を取り落とし、執事に連れていかれた。
「だって、貴方が私に家督を譲ると言ってしまったんだから!!」
大声で嗤う。哄笑し、涙さえも零れる。それほどに可笑しかった。
だって、貴方が、後生大事に兄をしまっておいたんだから!!
貴方の判断ミスで、兄は私のものになったんだ!!