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27話 果樹園 -2-

「【酒蔵】があると、どんなお酒も簡単に出来るんですよ」

「便利よねぇ。昔さ、ワイン造りしてるところを見たんだけど、大変そうだったもん」

「普通はどうやって作るんでしょうね?」

「なんか、大きな木のタライにブドウを入れてさ、女の人が踏んでたの」

「ブドウをですか!?」

「そう。素足で、踊りながら。まぁ、あれはショーでもあったんだろうけどね」


 素足でブドウを…………そして、それを飲む!


「みなさん! 頑張ってブドウを収穫しましょう!」

「魂胆と下心が見え見えなんですけどぉ-」


 キッカさんがボクを冷ややかな目で睨んでくるが、睨まれたって構わない。


 アイナさんの素足で作ったワインが飲みたい!

 いや、もういっそ、アイナさんの踏んだブドウが食べたいっ!

 えぇい、まどろっこしい! アイナさんの素足を舐めたいっ!

 そしてボクは立派な『素足ペロリーナ』に…………


「…………ボクは、ダメな男です」

「シェフ!?」


 世界に等しくかかる重力に、ボクは負けた。

 地面に四肢を突き、うな垂れる。


 素足を舐めたいは、ダメだ。アウトだ。犯罪……いや、変態だ。

 っていうか『素足ペロリーナ』ってなんだ!?

 確実に妖怪じゃないか、それ!


 そういうことばっかり考えてしまうから、アイナさんに「きもっ」とか言われてしまうのだ…………素足は、舐めちゃダメだ……舐めちゃダメだ……舐めちゃダメだ……


「だ、大丈夫か、シェフ? どこか悪いのではないか?」

「大丈夫です……素足は、舐めるものではないと学習しましたから」

「なんの話をしてるのかよく分かんないけどさ……タマちゃん、ちょっとキモいよ?」


 くぅ……やっぱりかっ。やっぱりなのか!

 むっつりはキモい……何を考えているのか分からないあたりがキモい。そうに違いない!


「じゃあ、爽やかに微笑みながら『土踏まず、舐めたい☆』って言えばいいんですか!?」

「それはもう、一般人のカテゴリーから外れた話だから」


 爽やかに言えばなんだって許される……そう思っていたのに。どうやら違うらしい。


「しかし、足で踏むとは……。不衛生ではないのだろうか?」

「お師さんに聞いたところによると、うどんという麺類も、踏んで作るらしいですよ」

「うどん? 踏むのか?」

「はい。そうすることでコシが出るんだとか」

「腰が……出る?」


 アイナさんが自分の腰を掴んで首をひねる。


「ぶかぶかのズボンを穿いて行うのだろうか?」


 そうすれば、うどんを踏んでいるうちに腰が出ちゃいますね、ちらって。

 でも、そうじゃないですよ。


「いつか、やってみたいものだな」

「ホントですか!?」


 アイナさんの手料理ならぬ足料理、ゲットのチャンス到来!

 ワインの作り方は分からないからブドウ踏みは出来ないけれど、うどんならば作れる! 踏んでもらえるっ!

 打ちましょう、うどん! 出しましょう、コシ!


 と、叫びたかったが、キッカさんの鋭い視線が突き刺さっていたのでやめた。

 命は、大切。







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