「あ、そういえば、アイナさんの好きな果物を聞いてませんでしたね。何かありますか?」
「果物……」
う~んと、アゴを摘まんで考えるアイナさん。
それから、頭に浮かんだものを形にしようと空中に手をさまよわせるアイナさん。
けれどうまくいかず、首をかしげるアイナさん。
かわいい……っ!
なんだか、ころころしていて、いい香りがしそうで、見ていてほっこりして……まるで……まるで…………
「果物のようだ……」
「ん? よく分かんないんだけど?」
キッカさんの声が冷たい。
ボクの中の心の果物が凍えてしまいそうだ。
「すい、か……スイカという名の果物はあるだろうか?」
「ありますよ、スイカ」
「アレが美味しかった」
スイカかぁ。
いや、ボクも以前から「スイカっていいよねぇ。いいよねぇ、スイカ」って思ってたんですよね! 奇遇ですね!
「ん? でもさ、スイカって、野菜じゃない?」
「……え?」
キッカさんの一言にアイナさんが固まる。
「あ……甘かった、のだが?」
「いや、甘くても、あれは野菜でしょ」
「え? ……え?」
困惑して、アイナさんがボクに視線を向けてくる。
助けを求めるように。
「木に生るのが果物で、草に生るのが野菜でしょ? ねぇ、タマちゃん?」
「まぁ、大きなくくりでそういう考え方をする人もいますけどね」
「え? そうじゃないの?」
そこら辺は実に難しい。
「キッカさんの言うルールだと、イチゴやメロンも野菜に分類されますよね」
「うん、そうね」
「イ、イチゴは、果物だと思う!」
どこかでイチゴを食べたことがあるのだろう、アイナさんが力説する。
確かに、イチゴは果物に入れておきたい気がしますよね。
「でもですね、そのルールだと、栗や銀杏も果物ということになるんです」
「え? あ、そうか……栗も木に生るんだよね、確か」
栗はナッツだという意見もあるが、それを言い始めると細分化が進んでややこしくなる。
「地域によっては、生で食べられるものが果物、生では食べられないものが野菜と言われていますよ」
「それじゃ、キュウリやトマトが果物になるじゃない」
「え、トマトは果物……では、ない、のか?」
これも、生まれた環境が影響してくるだろう。
トマトはフルーツだという国もあると、お師さんが言っていた。
「あと変わったところでは、種が食べられないものが果物で、食べられるものが野菜だというルールもありますね」
「種?」
「それでいくと、リンゴやブドウ、オレンジなんかは果物ですが、イチゴは野菜になります。カボチャやスイカなどの瓜科の種は、から煎りすると食べられるので野菜に分類されるそうです」
「なに、そのややこしい分け方……」
「ちなみに、栗って、食べるところ全部種なんですよ」
「そうなの!?」
キッカさんが物凄く食いついてきた。
栗は、あの殻のまま植えると、尖った方から芽と根が生えてくるのだ。
「なので、あまり小難しく考えずに、『果物だなぁ~』と思えるものは果物で、『野菜だな~』と思えるものは野菜。『他にも、木の実やナッツがあるんだなぁ~』みたいな感じでいいんじゃないでしょうか」
果物だから野菜だからと分類して味が変わるわけじゃないし、「本来は~」とか「かつては~」とか「正しくは~」とか、割とどうでもいいと思う。
知識で食べるわけじゃないからね、そういう物って。
「というわけで、スイカも果物でいいと思います!」
「結局、タマちゃんは剣姫の肩を持ちたいだけなのね」
そんなことはないですよ。
ボクはもっとこう広いくくりで、「美味しいものはもっと自由に楽しみましょう~」的な発想なんですよ。
「ちなみにスイカは、ちょっと遠いんですが、向こうの畑にあります」
「確実に野菜エリアよね、あの付近」
まぁ……【ファームフィールド】的には、そう判断したんでしょうね。それが正解かどうかは別として。
「あまり広範囲になると作業効率が落ちるだろうか」
「そこは、そうかもしれませんね」
「では、スイカは今度でもいい。また、次の機会に食べさせてほしい」
慎ましい!
なんて心の広い人なんだろう。
アイナさんを称えて、今日からスイカは果物ということで世界的に決定してもいいのではないだろうか。今日はスイカ記念日!
はい、決定!