「じゃあ、今回はリンゴとブドウにしましょうね」
その二つは、今ボクたちのすぐそばに。
ブドウは目の前だ。
その前で、ボクは手入れ方法の説明を始める。
「まず、枝を落としましょう」
果実にバランスよく栄養を与えるため、余分な枝を落としていく。
枝葉が多いと、下の方に日光が当たらなくなるから。
「あとは、虫が付いていたらそれの駆除もお願いします」
果樹には虫が付きやすい。
にっくき害虫を徹底駆除するのだ!
これが、今回の主な作業となるだろう。
「ブドウには袋掛けをしてくださいね~」
「やることは地味なのに、作業量が多いのね」
「……たいへん」
「作物を育てるって、大変なんですよ」
「じゃ、あたしリンゴやってくる!」
うん。
キッカさんは袋掛けから逃げたようだ。
「剣姫、どっちがたくさん退治するか、勝負よ!」
「うむ! 受けて立つ!」
そして、虫退治に重きを置くらしい。
まぁ、枝の剪定は知識が必要だからボクがやった方がいいかもしれない。
わーっと駆けていった二人は、それなりに離れた果樹へ向かっている。
虫退治は成長ポイントが加算されるので、今回の対決は収穫量で競うことが出来るだろう。
どちらにも頑張ってほしいものだ。
働いた後の果物は一層体に沁みる。そういうものだから。
あ、そうだ。
「お世話している間に実が生ったら、食べちゃってもいいですからねぇ~!」
まずは自然のままの果実を味わってもらいたい。
畑で食べる作物は、本当に美味しいのだ。
その後、近くの川で冷やした果実を食べるのが最高なのだとか。
加工品はその後でもいいだろう。
「さてと……」
一人になったボクは、ブドウの木に水をやった。
成長ポイントが加算され、世話をしていない木が成長を始める。お世話中に成長されるとお世話がエンドレスになるので、別の木が成長するようだ。
それで、成長した木へと移動して、剪定を行う。脇枝をカットし、伸びた枝を短く剪定していく。
その後余分な芽を取り除いていく。
すべての花に実が出来てしまうと栄養が分散され、甘く美味しいブドウが出来ないのだ。本当にいいブドウを作るために芽を厳選して栄養を集中させる。
人間に置き換えると非難が各方面から溢れ出してきそうなやり方だけど、自然界ではそうしなければいいものは生まれないのだから仕方ない。
なんてことをしていると、向こうの木にブドウが出来始めたので袋を掛けに行ってきます!
……さて、アイナさんとキッカさんはちゃんとやっているだろうか。
それから数時間後。
ボクは籠いっぱいのブドウを見下ろし、満足感に浸っていた。
出来のいいブドウがたくさん収穫出来た。
【ファームフィールド】の力で、素人でも高品質のブドウが作れるあたり、本当に恵まれた環境だと思う。
実の詰まったブドウ。張りもよく、ツヤもいい。
このブドウが、美味しいワインになるのだ。
「ワイン……」
これを、アイナさんが……アイナさんの素足が……踏む。
そう想像すると、無性に…………頬摺りしたくなってきた。
すりすり……
はっ!? してた!?
したくなってきたと思った時にはもうすでに頬摺りしていた!?
しかしながら、この張りのあるぷにんとした感触はまるで……足の親指のようで…………アイナさんの素足に踏まれると、こんな感じなのだろうかと――妄想が止まらないっ!
「んぁぁあ! もっと強く踏んでくださいっ!」
走り出した妄想がボクの腕に力を与え……ブドウが破裂した。ボクの顔で。押さえつけ過ぎたようだ。
ぶっしゃーと、紫色の果汁が迸り、ボクの全身を紫色に染め上げる。
……何をしているのだろう、ボクは。
しかし、よかった。
誰にも見られていなくて……
「何してんのよ、タマちゃん?」
「見られてた!?」
慌てて潰れたブドウを隠すも、全身の紫色は隠せない。
それでも、一縷の望みをかけてボクはこう言う!
「な、何も」
「嘘吐くにもほどがあるわよ」
ですよねぇ……
「あ、たくさん取れましたね」
「うんうん、そうなの! もう、取り放題でさぁ。味もいいのよ。すっごく甘い!」
キッカさんの背負った籠には、山のようにリンゴが入っていた。
もぎたてのリンゴを頬張ってご満悦だ。
話題逸らし、成功っ!
自身の成果に満足いったのであろうキッカさんは、なおも饒舌に語る。
「いや~、害虫ビッシリで気持ち悪かったわ~」
……キラキラした笑顔で言うセリフではないと思うのですが。
「で、剣姫は? まだ戻ってきてないの?」
「はい、まだ。……確かに少し遅いですね」
そんなことを言った時だった。
「しぇ~ふっ!」
突然、ボクは背後から抱きつかれた。
驚いて顔を向けると、すぐ目の前にアイナさんの笑顔があった。
「――っ!?」
なにごと!?