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第4話 大事な話

「今日の配信は一旦ここまで! 皆来てくれてありがとう~。おつサナー」

「また会おうぜー」

「お疲れ様ですわ」


※おつサナー

※お疲れさまです

※気を付けて帰ってねー

※おつかれー

※おつサナー


 とりあえず今日の配信は終了ということになり、サナたちは締めの挨拶をしているところだ。まあ、その方が良いのか? EOEの出現はダンジョン監視センターの方も分かっているはずなのだが、未だに動きがないのはちょっと気になる。ウェンディゴの出現から、もう十分以上は経っているはずなんだがな。


「……皆さん、お疲れさまです。俺としては、一旦外に出てダンジョン監視センターに向かうのが良いかと思います」

「ハルカちゃんも賛成だぜ。黒騎士のおじさんが言う通り、ダンジョン監視センターに向かうべきだ。何が起きてるか分かんねーのに冒険を続けるのは危ないと思う」


 ハルカさんはパッと見のイメージと違い、かなり慎重な考えをしている。冒険者として生き残るために慎重さは、必要な資質だ。さっきの戦闘のこともあり、この子は冒険者として経験を積んでいけば必ず伸びると分かる。だからこそ、分からない。彼女やサナが冒険者になる際の教習を真面目に受けないとは、考えられないのだ。EOEについては教習所で必ず講習を受ける。ことになっていた。


 とりあえず、一旦ダンジョンを離れたい。詳しい説明は、サナたちが落ち着ける場所でするべきだろう。


「ハルカちゃんたちの判断は正しいと思うよ。ウイカゼちゃんも、一度ダンジョンを出るということで、良いよね?」

「私も異論ありませんわ。すぐに移動しましょう」

「おーけー」


 パーティでの活動は意見が合わなければ移動にも苦労することになる。その点では、サナのパーティは今のところ安心だ。ハルカさんも、ウイカゼさんも、判断力は悪くない。と、なると……彼女たちが、なぜEOEを知らないのか。その理由として思いつけるものは一つある。だから、それを確かめるためにもダンジョン監視センターへ急ごう。


 移動を開始するタイミングでサナと目があった。彼女と視線が合うたび、正体を悟られていないかとヒヤヒヤしてしまう。


「今は配信も切っていますし、おじさんさえ良ければ名前など聞いても良いですか? 救ってもらったお礼がしたいんです」

「……お気持ちだけ受け取らせてください。俺はただのファンですし、えっと……その、シャイですから」


 名前を明かさない理由にシャイというのは苦しいかと思ったが、サナは「分かりました」と少し残念そうに言うだけで、それ以上の詮索はしてこない。そのことに、叔父さんは寂しさを感じつつも、同時に、これで良いのだと安堵している。


 急ぎ、ダンジョンの入り口へ戻り、そのまま外へ出た。武蔵野ダンジョン出入り口の近くの監視センターは大変な騒ぎになっていた。おそらく、俺たちより先に戻っていたであろう何人もの冒険者たちが、これはどういうことかと、ダンジョン外の警備員さんと押し合いになっている。その奥からはやまない警報が響き、受付嬢さんがパニックを起こしているのが確認できた。これはひどい。


「これはひどい」


 おっと、思ったことがそのまま口から出てしまった。それにしても、俺の最悪の予想が当たったな。おそらく今の冒険者協会はEOEに対する対策をしていない。その理由が気になるけど、ここからは離れた方が良さそうだ。サナたちと落ち着いて話せないし、サナたちが、冒険者と警備員の押し合いに巻き込まれる可能性もある。それは嫌だ。


「監視センターの方でも、何が起きてるか理解できてないみたいですね。ひどいパニックだ」


 俺が言わなくても分かる状況だろうけど、一応、サナたちに現状を簡単に説明した。彼女たちも頷いてくれたが……さて、これからどうするか。こいつは面倒な状況だぞ。


 できれば、サナたちにはEOEのことは正しく説明しておきたいし、彼女たちの方から今の冒険者協会について聞きたくもある。彼女たちさえ良ければ、だが。まあ、提案してみるしかないわな。提案を断られたら、俺はちょっと落ち込むだろうが、そこは、なるようになれだ。


「えっと、皆さん少し、場所を変えて話せませんか? できれば、公園とか、お金のかからない場所だと、ありがたいです」


 すまん。落ち着いた場所で話はしたいけど、持ち合わせがない。家で最低限必要な物だけ準備して、急いできたから。いというか叔父さんは今、若い子の前で持ち合わせがないことを気にしたけど、今の発言ってサナたちからしたら怖くないか? 素性を明かさない男が話を聞いてほしいなんて言ってきたら怖くないか? そう、自分の発言に不安を感じていたのところ、サナは頷き、了解してくれた。


「良いですよ。命の恩人の話ですから、聞きます」

「……公園なら、ハルカちゃんも構わないぜ」

「ええ、私もその条件でなら構いませんわ」


 サナはともかく、ハルカさんとウイカゼさんは俺を警戒しているな。とはいえ、露骨に嫌悪とかされてるわけでもないな。出会ったばかりの正体不明の男を全面的に信用しろと言う方が無理な話だ。それは、たとえ命の恩人だとしてもそうだ。俺としては、話を聞いてもらえるだけで、ホッとしてるし、ありがたい。彼女たちには正しい情報を伝えておきたい。


「では、場所を移しましょう。なるべく簡潔に大事な話をしたいので」

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