(あっ……いた……)
結婚式場前の道から一本脇道を入り、抜けた先にあったガードレールへと寄り掛かる松田課長を、俺は少し離れた位置から見つけた。
夕方から始まった式だったため、夜の八時を過ぎていたが、道路を走る車と商業ビルが建ち並ぶ明かりで、松田課長の横顔を明るく照らしていた。
(細身のブラックスーツが、本当に良く似合っていらっしゃる。シルバーのネクタイもまた……)
俺は思わずにやけそうになる口元を、慌てて手で覆い隠した。
普段はグレースーツにネイビーのネクタイが定番である松田課長の、中々拝見できないお姿を目に焼き付けて、俺はそっと息を吸い込んだ。
「まつ……」
大きく一歩踏み出して松田課長に声をかけようとしたが、俺はすぐにやめた。
(泣いてる……)
顔を少しだけ空を見上げるようにしながら、眼鏡の奥の瞳はそっと閉じられ、頬をつたって静かに落ちていく涙。
(ああ……なんて……)
その涙は、美しく輝いて見えた。
星や宝石などの輝くものよりも。
絶景を見に行くのが趣味の俺が、今まで見てきたどの景色よりも。
まるで時が止まったように、目が離せなかった。