「素敵な……式でしたね」
俺は気づかれないように松田課長の目の前にそっと立つと、未使用のハンカチを差し出して笑いかけた。
「えっ……」
少し上を向いていた松田課長が、俺が突然話しかけてきたことに驚いて目を開けると、俺と目が合った。
(目が赤い……。式の間も、ずっと我慢していたのかもしれないな)
「えっ、あっ、えっ!」
「危ないっ!」
松田課長が驚いて、軽く座るようにしていたガードレールからバランスを崩したため、俺は慌てて松田課長の背中を腕で支えた。
おかげでなんとか車道側には倒れずに済み、俺は安堵の溜め息を漏らした。
「はぁー……。松田課長が慌てるなんてことあるんですね」
初めて見た松田課長の慌てふためく姿に、俺は思わず胸の奥にときめきを感じてしまった。
「君は……」
俺に背中を支えられながら、俺の顔を見つめてる松田課長の瞳は、また大きく開かれていた。
(この人の瞳に、あの人じゃなくて俺を……)
すぐに野心が曝け出しそうになり、俺は多い隠すように軽く微笑んだ。
「大和直樹です。寂しいです……こんなに長く松田課長とお仕事しているのに、名前も覚えていただけていなかったなんて……。まぁ、俺なんて……」
松田課長の背中から、名残惜しそうに、わざとゆっくり腕を離す。
そして、少し拗ねたように眉を八の字にさせて軽く顔を逸らすと、松田課長は俺の腕を必死に掴んできた。
「知っている! 君の話は、高木から毎日のように聞かされているから」
(毎日……ですか)
些細な言葉から、俺はあの人に嫉妬を感じてしまう。
だが俺は、松田課長に決して悟られないよう、また笑顔で覆い隠した。
「よかった。しかも高木課長が俺のこと話してくれているなんて嬉しいなー。俺、高木課長が目標なんで」
(そう。色々な意味で、ですけど)