(こういう映画って、本当に定期的につくられるよな…。余命何年とかと、忘れちゃうとか……)
始まった映画は、十年ほど前にヒットした恋愛映画のリバイバル上映だった。
正直、恋愛映画に全く興味のなかった俺は、松田課長が共感して泣いたところを優しく涙を拭ってあげようとかいう下心で、この映画をチョイスした。
だが、腕枕をしたせいで松田課長の顔を確認することはできず、俺の心臓はバクバクしっぱなしで、映画の内容すら頭に入って来ない状況だった。
(今、松田課長は一体どんな気持ちでこの映画見てるんだろう……。やっぱり、高木課長のことを思い出しながら……)
表情は見えないからこそ、ついつい色々想像してしまう。
(高校からって、もうそのときから好きだったのかな……)
高校を卒業して、大学や就職先まで一緒なんて普通はありえない。
松田課長が高木課長を思う気持ちは、計り知れないものだろう。
そんな松田課長は、これからもずっと高木課長を思い続けるのだろうか。
(これで終わりだという気持ちで今日の結婚式に松田課長が参列していたら……俺にチャンスはあるのだろうか……。俺が好きだと伝えたら、松田課長はどんな顔をするだろう……)
そんなの、答えは簡単だ。
俺は何度も頭の中で繰り返した、シミュレーション結果を思い出す。
松田課長は困った顔を一瞬させて、俺に笑いかけるだろう。
『私よりも……。きっと大和くんに似合う、素敵な人がいるよ』
分かりきっている答え。
俺は勇気が出せないまま、実は缶コーヒーをもらったあの日から、五年ほど松田課長に片思いをしている。
(まあ……。松田課長の二十五年に比べたら、俺なんて可愛いもんかな……)
人と比べるものではないと分かっていながらも、俺は少しだけ報われたような、気が楽になった気がした。
この先何年間、この気持ちのままいればいいのだろうと思うときもあったからだ。
(けど、今日こそは俺たちの関係を必ず変えてみせる……。そのために、勇気を出して声をかけたんだ)
本当は余裕がある男でも、策士でもない。
高木課長のようには絶対になれない男が、上辺だけで必死にどうにかしようとしている。
道化もいいところだと思いながら、俺は松田課長の良き理解者としての立場を確立させようと必死だった。
「んっ……」
照明が明るくなった違和感に、俺は目を覚ます。
すると、俺の顔を横に寝っ転がりながら見つめていた松田課長と目がばっちり合うと、松田課長は静かに笑った。
「おはよう。よく眠れたか?」
「……!」
俺は慌てて上体を起き上がらせると、左右に首を振って何度も辺りを見渡した。
(え、映画館……! そうか、俺……)
「す、すみませんでした。酒が入っていたので、俺、いつのまにか……」
松田課長に謝ろうと俺は松田課長のほうを見ると、ふと違和感を感じた。
「あれ? 松田課長、眼鏡は……?」
違和感の原因が、いつもしている眼鏡を松田課長がしていないことだと、俺はやっと気が付いた。
「あ、ああ……。実は……」
松田課長が申し訳なさそうに指差したのは、俺がさっきまで横になっていたところだった。
そこには、ツルの部分が取れてしまった眼鏡が転がっていた。
「……?」
まだ寝ぼけているのか、俺は状況がすぐに理解できず、折れたツルの部分を手に取って、松田課長と見比べてしまう。
「この距離なら裸眼でも観れるかと思って、途中で眼鏡を外して置いたんだ……。そうしたら、気付かないうちに潰れてしまっていたようで……」
「お、お、俺がですよね! 本当に申し訳ございません。弁償しますんで!」
俺は慌てて、何度も松田課長に頭を下げた。
「いや、弁償はいいんだ。一度壊れて応急処置をしていたものだから。けど、このまま裸眼のまま一人で帰るのが怖いんだ……。私こそ申し訳ないのだが、大和君。家まで送ってもらってもいいだろうか……?」
「えっ……?」